私の大好きなお姉様
ふわっとした内容なので、ところどころおかしいかもしれません。
もしご要望があれば続きを書くかも・・・。
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私には大好きなお姉様がいるの。
私と同じ顔で同じ背丈で、同じ髪の長さに、瞳の色も髪の色も全部一緒なの。こういうのを双子の姉妹っていうのかしら。お姉様とは、日頃のお化粧やドレスのデザインも色もぜーんぶお揃い。
でもね微妙に違うところはあるのよ。私が右耳にイヤリングをすればお姉様は左耳に。私が髪を左側にまとめて肩に流せば、お姉様は右側に流す。お揃いだけど少し違う、まるで鏡のようなそっくりなお姉様。素敵でしょ。
本当はね、お姉様は私と好みや趣味が違うの。明るい色が好きな私だけど、お姉様はシックな色が好き。私は長くてストレートな髪形が好きだけど、お姉様はキチンと結っている方が好きなの。
でもね、私がお願いしたら全部私の好きなようにしてくれるの。
大好きだから同じ物を食べたいし、同じ景色を見たいし、同じ服を着たくなるし、同じ時間を共有したくなる。私の一番好きな人はお姉様。お姉様が一番好き。
「お姉様、今日のドレスはコレなんてどう?この間お姉様に貰ったドレスよ。」
「とっても似合うわ。けど、ピンクとイエローのグラデーションだなんて私には似合わないから、貴方にあげたドレスなのよ。今日は別々のドレスじゃダメなのかしら?」
明るいイエローのドレスに、ピンク色の薄いチュールの生地を重ねてたおかげで、腰から下への可愛らしいグラデーション具合がお気に入りのドレス。
お父様がお姉様に買ったらしいけど、お姉様の好みであるはずがないそのドレスは、当然のようにお姉様から譲られた。
胸元にはエンブロイダリーレースで可愛らしい小鳥が刺繍されていて、腰には濃いイエローのリボン。
その下からは薄いピンクのシフォンがふわふわ揺れていて、とっても可愛らしいお姫様みたいなドレス。
「嫌よ!今日もお揃いじゃなきゃ。それに私と同じ顔なのに、似合わないわけないじゃない。
お父様にお願いしてもう一着同じ物を買ってもらったのよ。コレにしましょうよ!そうだわ、今日はお姉様の好みに合わせて、髪を結おうと思うの。どのリボンがいいかしら?」
「まぁ!今日は結い上げてもいいのね!じゃぁ、この間買ってもらったライトグリーンのリボンにしましょう。早く使ってみたかったの。」
「素敵!流石お姉様だわ。」
私のその言葉にお姉様は、一緒に喜んでくれる。
毎朝侍女が起こしに来る前に起きて、お姉様とコーディネートを考えるの。
基本的には私に合わせてもらうけど、ちゃんと二人で決めているのよ。仲良しでしょ。
「あぁ、そろそろ朝食の時間ね。お姉様は今日もお部屋で…?」
「ええ、ごめんなさい。」
「良いのよ、じゃぁ行ってくるわね!」
お姉様とお揃いの姿をして、私一人でダイニングへ向かう。
ダイニングには既にお母様、お父様、お兄様が揃っていたので、朝の挨拶をして席についたわ。
「今日もお姉様はお部屋で食べるのですって。」
「そ、そうなの…残念ね。」
「無理強いするわけにもいかないからね…。」
お姉様は私以外の家族とあまり仲が良くない。いいえ、私以外とは誰とも仲良くないの。
着替えも食事の席もお姉様はお一人で済まさせるか、私と一緒のどちらか。
私が知らない間に何があったのかわからないけど、ずっと昔からお姉様は皆の前に姿を現さなくなっちゃった。
「…迎えの準備をしておくように。」
お父様が私とお母様に大事なお話をされていたようだけど、ぼーっと考え事をしていたせいで、全然聞き取れなかったわ。でも、『迎えの準備』ってことは、今日来客があるのだとわかるの。
その相手はたぶん、私の婚約者様。
「今日のドレスも可愛いし、珍しく髪を結っているしね。お迎えするにはバッチリじゃないか。」
「ありがとうお兄様。今日もお姉様とドレスを決めたのよ。髪を結っているリボンはお姉様に決めて貰ったの。流石はお姉様だと思わない?このドレスにピッタリでしょ?」
「…そう、だね。」
花々が咲き誇るお花畑のような可愛らしいドレスに、サテン生地のライトグリーンのリボンと髪を編み込んだシニヨン。シニヨンの周りはお姉様のアドバイスで少し残した三つ編みで囲み、それを金色の葉をモチーフにしたバレッタを止めているの。私だけだと全て可愛い雰囲気にしちゃうところだけど、グリーンを刺し色にいれたことで、お迎えするのに甘すぎない雰囲気となっているの。こういうことを見越していたのかしら。
今日来られるという私の婚約者様は、本当はお姉様の婚約者様だった。
お姉様が持っているものは全部とても魅力的。
真珠のイヤリングも、ルビーとサファイアのネックレスも、若葉色のレースと金の刺繍が施されたハンカチも、白から紺色へ変わるグラデーションに、散りばめられた銀色の刺繍が光を反射してキラキラ光る夜明けのようなお誕生日に贈られたイブニングドレスも、ツバが大きく広がった小麦色のキャプリーヌも、華と蝶が美しいオフホワイトのレースの日傘も、ふわふわとした両手で抱えないと持てない位に大きなテディベアも、全部とっても魅力的。だから、欲しいってお願いしたの。
大好きなお姉様と同じ物が欲しいって。そしたらお姉様は快く譲ってくれた。
自分よりも私の方が似合うから、どうぞって。
だからあの日。言ってみたの。
和やかに微笑みあうお姉様と婚約者様が素敵だったから、私も魅力的な婚約者が欲しくて
『お姉様の婚約者、私に頂戴?』
そうしたらいいよって言ってくれたの。自分よりも私の方が伯爵家にふさわしいからって。
びっくりしちゃった。流石にダメかなって本当は思ったの。
その後、お姉様がお父様に言ってくれたのか、彼は気づいたら私の婚約者になってたわ。
その後に会った彼は、変わらずに優しくてかっこよくて博識で、とっても素敵な方なんだけど、なんだか魅力が減っちゃった気がしたの。その時に私分かった事があるの。
お姉様の婚約者だから魅力的だったんだなぁって。
でもね。その事をお姉様に言ったけど、叱られちゃった。もう一度婚約者を変えるなんてそんな失礼な事できるわけないって。そりゃそうよね。私も反省したわ。だって快く変わってくれたけど、お姉様は婚約者様に会いづらいのか、元婚約者の彼が我が家を訪れても部屋から出てこないの。
だから変わりにならないけど素敵なお姉様の妹として、恥ずかしくないよう私は精一杯おもてなしするの。本当はお姉様がご自分で挨拶された方が良いに決まっているんだけど。お姉様が嫌な思いをされるのは私も嫌だし、幸い婚約者様はお姉様について触れないから良いのかなって無理に会わせたりなんてしていない。
朝食を終えて、部屋でしばらく勉強していると婚約者様がやってきたから、そこで勉強はお終い。
ここからは楽しい時間なの。勉強は嫌い。全然理解できないし。でも、お姉様が勉強は大事っていうから一応はやっているの。勉強中もお姉様は隣にいてくれて、分からない箇所を教えてくれるもの。
お姉様は頭も良いの。私がわからない地理や数学、化学物質の調合や、薬草の種類、帳簿のつけ方何でもしっているの。対して私は全然わからない。外見はどんなにお姉様とお揃いにしたって、結局中身は全然同じじゃないの。ダメな妹よね。
そういって泣いていたらお姉様が励ましてくれて、一緒にお勉強しましょうって誘ってくれた。
スゴイ嬉しくて、理解できるようになったらお姉様が喜んでくれるの。そしたらお父様やお母様も褒めてくれた。全部お姉様のおかげ。
今だって遠い北の大陸から暑さに弱い薬草をどうやって輸入すべきか、隣国が誇る美しいガラス製品をどうやってこの国で売り出すべきか、なーんて婚約者同士とは思えない会話もお姉様のおかげでどうにか乗り越えている。
「本当に君の知識は素晴らしいね。」
「もったいないお言葉ですわ。それも全て姉のおかげですのよ。」
こうやって毎回婚約者様には褒めていただけるし、たまにお義父様になる伯爵様にだってお褒めいただけるの。
でも、時折お姉様のお話をすると婚約者様の表情が曇るのよね…。やっぱりまだ心に迷いがあるのかしれない…だってお姉様が最初のお相手だったんだもの、私なんて劣化品と思われてしまうかもしれないわ。
だめよ。そんな事ではお姉様の妹として恥ずかしいもの。ご期待に応えて見せるわ。
その内容がどんなにつまらなくても、欠伸したりなんてしないわ。本当はお友達とかお姉様と話している
どの国のレースが一番好きかとか、となりの町に新しいパイの店がオープンしたとか、どこどこのご令嬢達が婚約したとか、王妃様が新しいドレスを作られたドレスのデザインのこととか、そんな話で盛り上がりたい。
でもね、男の方はそんな話興味ないみたい。
輸入だ貿易だ、どこどこのご令嬢と婚約した誰々は出世株だとか、ご令嬢に人気のケーキの店が新しく支店を出すために支援を募っているとか…。そういう話も嫌いじゃないけど、ずっとそんな話だと飽きちゃうわ。
「今日は楽しい時間をありがとう。」
「こちらこそ、とても楽しかったですわ。」
「次はさっき話したケーキをお土産するからね。」
「まぁ、ふふふ楽しみですわ。姉もケーキは大好物ですの!きっと喜びますわ。」
「そう、だね…。それは光栄だな。」
あらいけない、またお姉様の事を話してしまったわ。エントランスでお見送り中だからかしら、ついつい気を抜いてしまったわね、気を付けないと。婚約者様のお顔が曇ってしまわれたわ。
無事に婚約者様とのお茶会を終えられたと満足しながら、客間へ戻ると今度はお母様からのお茶のお誘い。私今しがたまでお茶を飲んでいたのに、そんなに入らないわと断ったけど、お母様はお喋りがしたいだけってことわかっているから、お母様の隣に腰掛ける。
「今日はどんな話をしたの?」
「輸入方法にどんな方法があるかとか、最近新しくできたケーキのお店が人気なんだとか、西の国では
愛玩動物を飼うのが流行ってるってこととか、かしら。」
「順調に仲を深めているようで、嬉しいわ。」
「ええ!次は話題のケーキを持ってきてくれるって約束してくれたの。なんでも、甘みを抑えた種類もあるみたいで、それもお願いしたのよ。お姉様ったらチョコレートは甘すぎ、なんて言うんだもの。ケーキは甘いからこそ美味しいのに、お母様だってそう思うでしょ?」
「そうね…。お母様もケーキは甘い方が良いわ。」
「そうそうよね。お姉様ったらやっぱり変わってるのよ。」
「その、あの子は…今日も元気だったかしら?」
「お姉様?勿論。今日のコーディネートも一緒に考えたし、昼間の勉強も分かりやすく教えてくれたわ。
何か気になることであるの?」
「いいえ。元気なら良いのよ。そう、よかったわ。」
夕食までのひと時の間、お母様とお茶をするのも私一人。ずっと昔はお姉様も一緒だったと思うんだけど、いつからこうなってしまったのか覚えていない。お母様はたまにお姉様のお部屋の方に視線を向けるけれどそれだけ。お部屋に行くこともしない。
お部屋の方を向いて、私にお姉様が元気かどうかを尋ねるだけ。
「じゃぁ、夕食までの間私は部屋に戻るわね。お姉様と勉強の続きしなくっちゃ…。」
「立派なのね。貴女は完璧な淑女そのものだわ。」
「本当は嫌なのよ。お姉様がどーしてもっていうから仕方なくね。私よりもお姉様は完璧だもの。完璧なお姉様の自慢の妹になれるように頑張るって、お姉様と約束したもの。」
「え、ええ。約束は大事だものね、頑張ってね。」
お母様と別れて部屋へ入ると、お姉様が迎えてくれる。
同じ髪型、同じドレス。今日は頭の後ろで髪を結っているから全部一緒に見える。
私が右手で扉を閉めれば、お姉様は左手で扉を閉める。
私が右耳を触れば、お姉様は左耳を。部屋の奥にあるティーテーブルに座れば、お姉様は正面へ座る。
侍女に入れてもらった紅茶もどちらも右手側において、手に取ったペンはどちらも右手。
今日の出来事をお姉様にお話しする。
私が笑えばお姉様も笑い返してくれて、私がすねた様子を表せば諫めてくれけど、最後には共感してくれる。
お姉様と私はお揃いの双子。
まるで、合わせ鏡のような仲良しの姉妹。お姉様大好きよ。