仕訳1
仕訳1
結婚、恋愛、彼女、俺には無縁の言葉だった。女性に興味がないわけじゃない。歳相応に興味はある。だが、実際に女性に付き合うということは全く考えていなかったのだ。学校に通っていない俺は付き合う可能性のある女性と出会う機会がない。クライアントに若い女性がくることもあるが、クライアントに手を出そうとも思わないし、ご法度である。中学時代の同級生はみな、高校、大学で青春を送っているのだろうか。俺は漫画でしか青春を見たことがないが、もし、漫画のような青春だとすれば、それは羨ましい。まて、なぜ羨ましいと思ったのだろうか。養子としての生きてきた俺は孤独になれているはず。それでも友や恋人を欲しているのだろうか。いやいや、そんなはずはない。俺は事務所で会計処理をしておけばいい。税金を計算すれば良い。大学や高校に無駄なお金を使うより、俺のほうが幸せなはずなのだ。俺は自分にそう言い聞かせ、業務に戻った。
業務が終わると、叔父さんと共に家に戻る。叔母さんが夕食を作って待っている。「おかえりなさい」「ただいま」「ただ今戻りました」手を洗うとすぐに夕食の席についた。すると、叔父さんが言った。「翔、アシスタントのバイトを募集するんだが」「アシスタントですか。最近仕事も増えて、人手がほしいところでしたからね。」「それで、明日、駅まで向かいに行ってほしいんだよ」「あ、はい、いいですよ。」「名前は北山さんだ」「名前だけ言われても、顔写真とか無いんですか?」「無いね。まあ、大丈夫、向こうにはお前の写真を送っておいたから」勝手に写真はやめてくださいよと言いたくなったが、黙っておいた。
翌日、俺は駅に向かった。北山さん、、そういえば、
下の名前は何だろうか。いや、男なのか?女なのか?
駅に着くと「斯波翔さんですか?」と呼ぶ声がした。
「はい、そうですが。北山さんですか?」「はい、北山里香です」あー、女か。アシスタントになるのか。うーん、どう扱えばよいのか。
仕訳2に続く。