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ラスボスが強すぎて勝てる気がしない!  作者: スタンドライト台灯
一章
1/7

夢がかなった

第一主人公の鈴木 健編です!

本来、王と臣下が居るべき玉座の間は赤く塗られ、あたり一面には手や足が無かったり、腹が裂け中の物が飛び出た冒険者や兵士がたおれている。金属糸で編まれたタペストリーのあった壁も、大きなシャンデリアのあった天井も破壊され、凄惨な光景が広がっていた。その中で一人の少年の呻き声とともに、少女のすすり泣く声が玉座の間に響く。


「大丈夫…か… お前にそういえば……名前をあげられていなかったな…。…ずっと考えていたんだ……。……これが一番お前に…合う。」


《人間(仮)の名前がシリウスに設定されました》


左足の足首から下が食い千切られ血が出ている、骨もいくつか砕け神経も切られ感覚もないはずだ。

そんな状態でも他人の心配をしている。私は彼のそういう所が嫌いだから好きになった。

シルノ村でのワイバーン退治のクエストの最中で、危なくなっても傷はすぐ治るから、気を使わなくてもいいと言った事がある。それでも、この人は私や仲間、守るべき人が危なくなると助けに来た。


「なんで……?助からないのに………私は大丈夫ですから逃げてくださいって言ったじゃないですか……?」


この世界で死んであちらに戻るということはありえない、この人はそれをあの女神に忠告され分かっていたはずだ。それなのに、この人は助けに来た。分かっている、彼が私を助けに来た理由など。 私が苦しむ様を見たくなかった。おそらく、そんなくだらない理由だろう。


《スキル:怨念のレベルが4になりました》


戦いの最中、段々と傷が増えていく彼を眺める私にできることは何も、何一つ無かった。

いくら戦って経験値を稼いでも、レベルが異常と言っていい程上がらない。普通の人と比べて必要な経験治療が圧倒的に多すぎた、というだけの話だ。

取り柄として、誰にも負けない程の再生力がある私は、いざとなったら守るからなどと言ったのだ。大嘘だ。

只、耐えることしかできない私が何をどうやって守るつもりだったのだろう。


勇者の剣を持ち、出口へ歩く。私はきっとこれから自分と、この世界と、何もできず眺めることしかできなかった私自身を、意味の無いまま悔悟の情を懐き、怨み続ける。


《スキル:怨念のレベルが5になりました》


外から沢山の足音がしている。あの時は持ち上がらなかった(つるぎ)を構えて扉の方へ行く。


《スキル:怨念のレベルが10のMAXになりました》

《淵源への干渉を確認しました》

◇◇◇◇◇◇

1200年後 


「………うぅ。」


ジリジリと鳴る目覚まし時計とともに目が覚める。バンバンとベッドの横の勉強机の上を叩いて探す。爆音と書かれた置き時計を買ったのが悪かったのか、どうも寝起きが悪い。


「おはよう、健」

「おはよ」

「朝ごはん、早く食べなさいよ」


顔を洗い、歯を磨いて台所へ行くと母さんが朝ご飯を用意して待っていた。父と妹は先に家を出ていったらしい。母さんが皿を洗っている。

米と鮭、味噌汁、サラダ、それに納豆を使った奇っ怪な料理と牛乳、夜ご飯にしても申し分ない量の朝食を平らげる。


「行ってきます!」

「いってらっしゃ~い!」

◇◇◇◇◇◇

曇天、玄関を出ていい朝だと思ってきてみれば。なんとも言えない気分になる色をして出迎えてくれた空を軽く睨む。きっと午後から雨なのだろう生温い風が吹いている。一応折り畳みの小さな傘を持っているが、帰る頃には雨が降るだろう、すぐ目の前の信号機の音を聴きながら歩いて、今から傘を取りに戻るか考える。

信号を渡り切ると山田が待っていた。あの呑気な感じは、俺の送ったメールを見ていないようだ。


「おはよー!鈴木君!」

「君付けで俺を呼ぶなよ、山田君」


そう言いつつ俺はこいつを君付けで呼ぶ。

山田 優助、小学一年生の二学期に引っ越してきて、いつの間にかクラスのみんなと仲良くなり、いつの間にかクラスに馴染んでいったやつ。ムードメーカー、それが初めて彼を見た時の第一印象だった。

いつだろうか、学校が終わり、自転車で片足だけで乗って遊んでコケた事があった。その時、自転車を運んだりしてもらったりして、助けてもらって以来、たまに顔を出しては俺の家に来たり、山田の家に行ったり、ゲームやサッカー、花火大会。何でもしていた。


「山田、昨日俺が送ったメール読んだ?」

「いや、俺読んでねぇよ?なんか送ってくれたの?」

「やっぱりか……。お前、またケータイで動画ばっかり見て、メールの確認し忘れてるだろ。俺はお前に今日は黒板係だぞ、て送ったんだよ。当番表を確認し忘れてたじゃないか」

「なんで俺が表を確認してないこと知ってんだよ……。え……マジ、今日、俺?」

「マジ、今日、お前」

「先に学校行って来る!」


元サッカー部だった彼は学校に向かって住宅街を走り抜ける。


「おーい、真理も黒板係忘れてるからアイツの分も頑張れよー!」

◇◇◇◇◇◇

クラスが騒がしい。昨日、テレビで山の断崖絶壁を駆けるロッククライマー魂を語る番組があった。おそらくそれがみんなに火をつけたのだろう。ロッククライマーという人達に関して、なんら関心もなさそうな人たちが熱中するほどのことを話している番組内容だった。

少し過剰な表現かもしれないが、機関銃の弾丸のように音速でしゃべっている。

多分ジャムったら痛いだろう。


「鈴木、お前は異世界行ったら何したい?俺はエルフに囲まれウハウハのハーレムっだ!」


唐突に始まる、いつも通りのなんの脈絡のない話。俺はこのやり取りが嫌いではない、好きな方だ。他の人から見たら頬杖に、ため息のセットを作れるぐらいの内容だとしても好きな方だ。


「山田、お前本当にろくなこと言わないな」


俺はため息と苦笑いを使って、少し浮ついた気分で返事をする。もちろん頬杖も忘れない。

そう…だな……。


「あー、勇者になってみたい」

「お前、そんな痛い奴だったのか……」

「何だよ、いいだろ別に。や、やめろそんな目で見るな!」


悟りを開いたかのような目をされるほど、おかしな事を言った覚えはない。かっこいいのだから憧れるだろう、なんかすごい技とか、仲間のために戦う最後の決戦みたいな、そういうところに。


「何故そのような目をするのだ、山田よ……。」

「…で、何で勇者になりたいんだ?」


…で、という一言でつぶやきは塵のように飛んだ。クラスメートによる哀れみの視線を向けられ続けるのは、嫌なので手をヒラヒラとさせながら質問に手早く答える。


「カッコ良さそうだから、……だ、だから悟りを開こうとするな!」


またアルカイックスマイルをする山田と、騒ぐ俺と山田を眺めてくる横の席の二人の腐女子。


「おい、なぜそのような目で俺と山田を見るのだ………」

「俺は、……俺はお前のこと見捨てたりしないぜ!」

「うるさ…い……?」


なんの前ぶりも無く頭上から降ってきた紙を拾う。色は羊皮紙を彷彿とさせる淡い茶色で、縁には金の装飾をあしらったものだった。どう見ても現代社会において場違いな物だ。どことなくキラキラして見えるのはこういうのを実際に見たことがないからだろうか。


-----------------------------------------------


異世界への訪問許可が降りました。

称号:勇者

を与えます。


異世界への訪問を同意する場合、名前をご記入して下さい。

同意されない場合はしばらくそのままお待ち下さい。


名前【      】


-----------------------------------------------


「おい、山田これーーー」


外で大きななにかの破裂音のような音がした。


外で何の音がなったのか気になる。


窓の方へ走って中庭の方を覗くとそこには、三人組の鎧を着込んだ者たちがいた。何かから逃げて、息を切らしているように見える。額から血を流して気絶した女性を、ボロボロになりながらも男性二人が守っている状態だ。遠くから見ても分かるほど、防具も武器も壊れてほとんど意味がないように見える。どうやったらあんな壊れ方をするのか。それ以前に、なんで鎧やら槍やらを持った人がこんなところにどうして来たのか。


「∅⊗∂%∀!∝∣⊃∏⊃νυ!!」


何かに畏縮する様に、畏怖するように彼らは目を離したら死んでしまうとでも言うかのように黒い球を見続ける。先程の謎の紙と同じく、あれはここにあってはいけないもの。あるはずのないもの。


「なんだ、あれ……」


全身に怖気が走る。理由は分からない、ただあれは駄目なやつだ。視たり、触ったりしてはいけない。


「なんだありゃ?」

「ふぉうっ!何だ、山田か……」

「鈴木、お前ふぉうっ!て、可愛い反応だな。」

「いや、ありがとう」

「な、何だよ急に。可愛いとか言って悪かったよ。」

「いや、お前のおかげで落ち着けたから」


黒い穴から誰かが来る。

色白の肌に赤い目、シルクの様な白銀の髪と対象的なフードのない真っ黒なコート、赤いシャツを着込んでいる彼女は、光を吸い込むかの様な異質な黒い一振りの(つるぎ)を持ってゆっくりと三人組の方へ歩いて行く。

彼女がいるそこだけが虚妄の世界のように壮麗な様に感じる。いや、彼女自身がそうなのだろう。

彼女はあの武装した三人組の方へ歩いていく。あと七メートル程の距離だ。

黒い剣がゆっくりと、植物が根を伸ばすように彼女の身長よりやや大きいほどの巨大な斧へと形を変えてゆく。


「〘鑑定眼〙!」

「フォウっ!お、脅かすなよ。てか何だそれ?もしかして、お前あれに名前書いたのか!」

「おうよ!にしても本当にこりゃ何だ……?」


山田と同じ事をしてみたいと、好奇心で名前を書く。


《称号:勇者 獲得》

《称号:勇者 獲得によりステータスの閲覧が可能になりました》


唐突にゲームみたいな能力と世界観が向こう側からやってきた。嘘みたいだ。まだ何か起こるのではないかと、目の前に表示された文字をじーと眺める。何も起きない。何かが起きたとしてもそもそも、ここからどうすればいいのだろうか。


「で、どうすればいいんだよ……。」

「ステータスオープンて、言ってみ」

「サンキュー、山田!〘ステータスオープン〙!」


-----------------------------------------------

鈴木 健 lv1

種族:人間

HP:30∣30

MP:50∣50

SP:63∣63

攻撃力:5

防御力:4

装備:制服一式

   光剣ドラゴン・アイ

スキル:異世界語lv--

    鑑定眼lv1

    アイテムドロップ率上昇lv1

    聖属性攻撃力上昇lv1

    運勢アップlv1

魔法:聖結界lv1

   浄化lv1

   聖属性付与lv1

称号:勇者

-----------------------------------------------


「勇者か……鈴木、お前、夢かなったな」

「装備に光剣ドラゴン・アイて、やつがあるんだけど何処に持っているのか分からないんだけど。あ、持ってた」


せっかくだし、光剣ドラゴン・アイを山田のマネをしてみる。


「〘鑑定眼〙」


《聖剣:光剣ドラゴン・アイ》

《攻撃力+3 0000耐久性+9 9999 9999》

《王家の者が国最高の鍛冶師に作らせた聖剣で、ドラゴンの目を使っているため魔力を込めると2秒先の未来が見える。 勇者にしかこの剣を持ち上げることはできない。勇者と共に成長し攻撃力や耐久性があがる。切れ味より耐久性が高い事で名高い聖剣である。》

《素材:ドラゴンの目、ドラゴンの爪、オリハルコン》


「「おお!」」


具体的にどれくらい凄いのか分からないが何か凄いことはわかる。


「∅⊗∂%∀!∅⊗∂%∀!∅⊗∂%∀!」

「おい!山田、冒険者を助けるのを忘れてた!」

「しまった!」


不味い。ゲームっぽい世界観に浮かれて三人組を忘れていた。彼らからしたら命の危機が迫っているのだ。こんなことをしている場合ではない。


「山田!冒険者ぽい人たち助けるぞ!」

「イヤでもさ、なんかあの女の子怖いもん。やばい気がするし〜、俺まだ死にたくないし〜、鑑定眼あるならあの白髪の子を鑑定してみろし〜。俺と同じ鑑定眼あるんだろ?」

「いや、確かにあるけどさ……〘鑑定眼〙!」


-----------------------------------------------

エリー(仮) lv6732 6500 0000 5434

種族:人間(仮)

HP:1 0098 9750 0000 5434∣1 0098 9750 0000 5434

MP:8752 4450 0000 7069∣8752 4450 0000 4002

SP:∞∣∞

攻撃力:3366 3250 0000 2712

防御力:4049 4875 0000 4057

装備:気配隠蔽コート

   黒いズボン

   吸血鬼のシャツ

   ミスリルのガントレット

   銀スライムブーツ

   魔剣エクスカリバー(剣)  

スキル:痛覚耐性lvMAX

    怨念lvMAX

    恐怖耐性lvMAX

    ど根性lvMAX

    聖属性耐性lvMAX

    森羅万象lv--

    神殺しlv--

魔法:神殺し:召喚lvMAX

   シェブ·ニグラス:召喚lvMAX

称号:勇者のゴーレム

   闇の魔法使い

   神殺しの友

   影の領域の女王

-----------------------------------------------


「エリーさんですか……じゃなくて!」


頭を抱えて少し考える。

あの三人組を救って大丈夫だろうか……。ちょっかいを出してこちらに矛先が向かないだろうか。そもそも桁を数えるのが大変なレベルのやつ相手にどうすることができるのか。助けられそうな力がさっきの一瞬で手に入っているとは思えな………いや、一個だけ。助けられる確率は低いけどあった。このスキルなら、多分。


「勇者召喚の儀がもうすぐ完成してしまう、あまり余に時間を取らせるな。」


凛とした、芯のある声で彼女が喋った。ずっとほほえみながら表情を変えずにしゃべる彼女は先程までキレイだと感じていたが、もう一度見ると不気味に見える。

遊んでしまったり、色々悩んでいる間に三人組の目の前まであと一歩までというところまで移動していた。

あとは行動あるのみ、悩む時間はもうなくなった。


「〘運勢アップ〙!」 


こちらを見て斧を構えながら彼女がしゃがんだ。こちらに跳ぼうとしている体勢に見える。飛んでくると思った瞬間、彼女の反対方向へと走る。


《これより異世界へ転送します》


文字が表示され、ガラスが割れたと同時に、こっちに斧を構えながら、予想通り大きく跳んでここまで来た彼女が、斧を構え目の前にいる。赤い目がこちらを見据える。

あの冒険者達助かるだろうか……。俺の予想なら、あるスキルをあの三人にかけて異世界に、転移か、転生のどちらかをするとき、あの三人の冒険者を巻き込んでくれるはずだ。それよりもまずは、転移するのが先か、斧が俺の首に来るのが先か。

だが、どうやら俺が転移する方が早いようだ。結局、彼女の斧は届かず、そのまま、俺は真っ白な空間に放り出された。


体が作り変えられていると感じる。足場はなく、何も見えない。その代わり何かモワモワするくすぐったい感覚が体中を、頭から順番に駆け巡る。


あのエリーという名の女の子はは結局なんなんだろう、三人組はちゃんと巻き込まれたんだろうか。

そんなことを考えていると後ろから声がする。いつの間にか俺は地面に両足でしっかりと立っていた。


「勇者様方、此度の我々のの勇者召喚の契約に応じてくれてありがとうございます。私はセイルーン王国第一王女クリスティーナ・セイルーンです。」


目の前にいた美しいドレスを着た金髪の女性がそう言った。

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