第参話 魔術ってなんでござる!?
パカラッ パカラッ
ーー走り続けて、1時間経った頃、
俺とシャルを乗せた白馬は、北を目指して走っていた。
砂の地平線の先に、なにやら尖った建造物らしきモノが見えてきた頃ーー
武士はと言うと、久々の 騎馬を楽しんでいた。
(ーー長い人間の歴史において、馬は人生の友だ。この関係は武士にとっても同じことだ。いや、特に強いかもしれない。)
昔は馬なしの生活は考えられなかった。だが今や、現代人は馬に触れる機会は、ほぼ無い。自動車や電車が生み出され、50年前まで人間は馬に乗るほうが一般的だったと言われても、今の若い(わかい)世代は信じないだろう。
「風が気持ちが良いな。」
騎馬は良い。この疾走感と、空気に押される感じ。何とも言いがたい心地よい感覚だ。
―― おれは、ここまで懸命に走ってくれた白馬に感謝を伝えた
「お前のおかげで助かったよ。がんばって走ってくれてありがとうな。」
ブルルルルゥ!(おうよ!馬生史上最高の走りだったぜ!!!)
綺麗な白毛を靡かせた相棒は、興奮気味に感謝を言ってきた。
(というか、馬生って言うのか…)
心の中でツッコミをいれる。
さっき、俺が発動した技
【侍技:乗馬スキル】 疾風迅雷 (しっぷうじんらい)
これは、最高速度の限界を解除する技である。
最初このスキルを使った時は、速過ぎて『死ぬかも!』と思ったのを覚えている。
本来、馬では到達できない超速度は、スーパーカーのフルスロットルに匹敵する。案の定、俺は操作しきれず、落馬した。
【侍技:乗馬スキル】 馬術の極み
乗馬を上手くなりたいなら、馬の気持ちになれ。単純に言うと、そんなスキルである。
操作性向上スキルであると共に、馬との意思疎通が取れるスキルだ。
車もそうだが、「走る、曲がる、止まる」この3つが揃って始めて、事故をせず、楽しい運転が出来る様になる。
最高速度が幾ら早くとも、操作不能になったら、その先に待っているのは落馬。最高速度で落ちたら、本当にシャレにならない…。
(初心者の頃は、よく落馬してたなぁ…落馬のダメージが大きすぎて瀕死になったこともあったっけ)
今思えば、初心者の頃の失敗も良い思い出だ。武士は馬の乗り方を覚えて、初めて一人前になる。
これからもお世話になるかもしれない、白馬(相棒)だ。ちゃんと挨拶しておこう。
「気持ち良かった。俺はエイジだ。ホント、最高の走りだったぜ相棒。」
ブルルルルルル(おうよ。俺の背中を貸したお前は友達だぜ)
というか、今更だが、この世界の馬って話すのかよ。
いや…シャルがこの馬と話してる様子はないのを考えると
技の影響って考えるのが妥当か。
ーーこの世界だと【馬術の極み】は馬の言葉も分かる様になるのか。
それとも…〝T2(ゲーム)〟の馬は、意思を持たないNPCだったから、心の声が聞こえなかった。どっちなのだろう。
...と言うことは、やっぱりこの世界は・・・仮想世界じゃないんだ。
ーー全ての動物が意思を持っており、作り物(NPC)がいないんだ。
考え事をしていると、不満そうなシャルが声を荒げて、馬との時間に横槍を入れてきた。
「な…な...なにが最高の走りよ!もう…死ぬかと思ったじゃない…?!」
「おいおい…許してくれよ、でも・・・お陰で逃げ切れたわけだし。」
「いやいや、そもそもよ!あの速度は何?!私のGo!Go!(イケ×2)白馬王に何したの?」
(なんなんだ…競走馬で、たまーにいるネタキャラみたいな名前は。)
どこの世界でも、キラキラネームを付けられた方は大変だ。
「お前もご愁傷様だな」
俺は、立派な白毛を撫でながら、ネーミングセンスの無いご主人様を持つ白馬の気持ちを察した。
ブルル...。(まったくな...)
白馬は俺にしか聞こえない、小さな声でつぶやいた。
「なによー…私の命名に文句あるの!?」
「いやー…どの世界でもキラキラネームってあるんだなと思って。」
「キラキラ?めっちゃくちゃ、かっこいいの間違いでしょ!酷い!」
ぷっくりとシャルの頬っぺたが膨らむ。
「で…話を戻すけど、さっきのは俺の国の技なんだ…」
「技!?あれが?」
シェルがありえない と言う表情で俺を見る。
「もはや、技とかそういうレベルじゃないと思うんだけど…!馬の速度じゃ無かったわよ、あれ。」
「割と、俺のいた世界では広まってた技術でさ」
シェルは驚きのあまり、口がぽっかりと開いてしまっている。
「移動する時は、みんな使う技なんだよ」
「エイジの世界ってさ...私が居るこの世界と、本当に別の世界みたいね…」
(〝T2〟の当たり前が、この世界では『異常』なんだと再認識する)
「シャルが言う通り…俺の世界と、この世界は別物なのかもしれないな…。まだ確証はないけど。俺とシャルの『当たり前の基準』が違いすぎる」
(別の世界か…そうなのかもしれないな…)
「ほんとどうなってるんだか」
「私ね、貴方と出会って、驚かされてばかり…だけど、だけどね!」
(ん…?シャル…?)
「でもね…エイジといると、全然飽きない。ほんと面白い人だわ、貴方って!」
「ビックリ箱みたいな人!ふふっ!ホント、楽しっ!」
不意に、その幸せな表情に、俺は目を奪われてしまった。
くすっ、と微笑んだその顔は、さっきまでの不機嫌な顔とは、真逆の...凄く楽しそうな表情だった。
(色々あって、まじまじと見てなかったけど…シャルってかなりの美人さんだよな。)
声に出してないつもりが、言葉として、不意に出しまう。
「シャルってやっぱり美人さんだよな、笑ってた方が良いと思うぜ」
「な、、なっ//////!」
(何よ!もう私をまた、からかうんだから!)
「お前って奴は、そうやって私を…」
赤面するシャルを横目に見ながら、段々と目の前に近づいてくる、建造物に目線を合わせた。
砂漠に聳え立つ、巨大な三角錐の建造物。
初めて来た世界だが、俺はこの建物に既知感を感じた。
(初めて見たけど…これって…エジプトのあれだよな。)
「なぁ、シャル。この、どでかい三角の建物ってピラミッドだよな?」
「あれー?!エイジ知ってるんだ!?」
「おう…俺の元いた国じゃないが、エジプトって国にピラミッドがあるはずだよ」
シャルが『エジプト』を知っていれば、ココは現実世界だ。
「聞いたことない国ね...。でも、私が知らないだけなのかもしれない。世界は広いし...。」
(そうは...上手くはいかないか...)
この世界は...〝T2〟でも〝元の現実〟でもないのかもしれない。
「やっぱり不安だよね!違う世界から来たかもしれないんだもんね!」
(おっと、悩んでいたのが表情にでちゃってたか...。シャルに心配をかけてしまったかもしれないな。)
「大丈夫だ!俺は元々、新しい人生を歩みたいと思ってたし。知らない世界で過ごすのも、悪くないさ。」
ーーそうだ。今は、この世界を知るところから始めよう。俺は何も知らな過ぎる
「それに、今はシャルを助けることが優先だしな!その中で、ゆっくりとこの世界を知れば良いさ。だろ?」
「う...うん。ありがとう。私も...エイジが困ったときは助けるからね」
「サンキュ!」
ーー俺とシャルと喋ってる間も、白馬は、休むことなく歩を進めてくれていた。
眼前には、悠然と聳え立つ〝巨大な三角の城〟
「こりゃーすげーや。〝T2(ゲーム)〟の天守閣よりでかいんじゃねーか?」
(俺の世界の遺跡より、よっぽどデカくないか?)
「ふふっ!驚いた!?エイジは初めてだもんね!私の国にも負けないぐらい大きいピラミッドよね!」
「シャル...の国にもピラミッドがあるんか?」
(この世界は遺跡だらけなのか?)
「ううん、微妙に違うよ!国土の中に建物があるんじゃ無くて、ピラミッドの中に国家があるのよ!この中に沢山のひとが生活してるの」
確かに...ピラミッドの外は、何も無い砂塵の平野だ。生活している人も、建物も見かけない。
ーーこの中が、国家だなんて...にわかには信じがたい。
「とりあえず、お城に入ろうか!入り口は、このまま真っ直ぐ行けば着くよ!」
(俺の世界では、ピラミッドは遺跡ってイメージが強いけど、シャルたちにとっては、生活するための城なのか。)
「お、おう。」
言われるがままに、俺たちは歩を進めた。
城の最下段ーー守衛らしき男が数人立っているのを見る限り、あそこが入り口なのだろうか。
「あそこから入るのか?」
「うん。たいていピラミッドは一番下の階に入城する入り口があるのよ。ほら、あそこに検問所があるわ。」
入り口に、たどり着くと、黄金の鎧を着た衛兵らしき男に呼びとめられる。
「おい、お前たち。止まれ。『魔術師の国 ウレト=ヘカウ』何用だ?」
衛兵の顔は蛇を象った兜に隠れている。ーーだが、その声には緊張感が漂っている。
「警戒しないでくれ!俺たちは怪しい者じゃない!」
衛兵が手に持っている槍を、少し強く握ったのが分かる。
「馬に乗っている男。お前の...その服は見たことがない。どこの国の者だ?」
「ったく。和服は、やっぱりこの世界には無いようだな…」
この世界の当たり前とのギャップが分からない事に苛立ちを感じつつ、目の前の問題ごとを片付けるほうが先だと、独り言の様に不満を破棄捨てた。
(仕方が無いか。ここは...技を使ってやり過ごすか...)
ーー忍者職業の技を使おうとしたその時、シャルが俺の肩に手を乗せた。
「エイジ、貴方の不思議なワザを見たいのは、山々(やまやま)なんだけど...ここは私にお任せあれ!だよ!」
白馬から降りたシャルは、小さな鞄の中から、一通の書状を衛兵に渡す。
(通行証・・・みたいなものか?)
「これは...。確かに...隣にある友好国『魔術帝国 イシス』の皇女殿下の印が押されている。」
(シャルが...なぜ隣の国の皇女の手紙なんて...)
「で?私たちは通っていいかな?まだダメかな?」
傭兵たちは、先ほどまでの緊張感を解き、敵対の意思なんて最初から無かったかの様に、高貴な身と接する態度をとる。
「た...大変失礼致しました。御身の身分を疑うような真似をお許しくださいませ。」
「うん!分かってくれたなら、全然いいよ!お仕事お疲れ様!!」
(シャル、お前はいったい...)
身元不明な俺がいる中、入国は驚くほど円滑に進んだ。一件落着と安堵しつつも、彼女への謎が深まった。
(まぁ、誰しも秘密のひとつや、ふたつあるよな。)
「シャルは隣の皇女様と仲良かったのか?結構偉い人だったりしてな!」
「えぇ!?そ、そんなことは無いよ。全然偉くなんてないんだから!ごくごく普通の女の子なんだから!」
(シャル...ウソを付くにも下手すぎるぞ...)
「ははっ。俺がこんな慣れ慣れしくしてたら、どこかの誰かに小突かれるかもしれん。〝様〟付けしといた方がいいか?」
「えー、様なんてやめてよー!!私は、いたって普通!!〝普通の〟女の子なんだからね!今までどおり、呼び捨てでいいから!」
そんな、普通、普通って連呼されたら、否が応でも〝特別な〟存在なのかと、気になってしまうな。
(まぁ、シャルがそういうのだ、そういうことにしておこう。)
ーー別に何者だろうと、シャルはシャル。変わらない。何処から来たかも分からない俺を受け入れてくれるように。
「さて、そんな普通の女の子は、おれを何処に連れてってくれるのかな?」
「ふふっ!私のね、親友がいるとこよ。」
シャルの足取りは軽い。これから会う相手が仲の良い友達なのだという事を示すかのように…。
俺は白馬の手綱を引きながら、シャルの後ろをついて行く。
そして…
入り口から数分歩くと、視界がひらけた空間にでる。
そこにはピラミッドという室内に巨大な街が形成されていることに、俺は驚愕する。
(おいおい...城の中に、こんなデッカイ街があるなんて...)
「エイジ。ここは、ウレト=ヘカウ。魔術師が住む国よ。 私の故郷のイシスの同盟国。」
「魔術師の...城の中なのに、空と太陽が見えるのも、魔術ってことなのか?」
「そうよ。詳しい魔術式までは私も分からないけど、この城の日の光も、雲や空、運河の水も、全てが魔術によって生み出されたもの。」
(驚きだ...。現実世界とも、〝T2(ゲーム)〟とも違う、第3の技術。この世界が生んだ、独自の技術文明が〝魔術〟というわけか。)
「俺の知っている世界には無かったものだ。...そうか、魔術か!夢が広がるな!」
未知との遭遇。魔術という言葉は、予想以上に俺の心の好奇心に火をつけた。
「エイジ、目がキラキラしすぎよ!ふふっ!ほんと、男の子なんだから。」
「だってよ、シャル。魔術って、魔法だろ?ファンタジーの世界とかにあるやつ。」
「ファ...ファンタジー?が何かは分からないけど、私たちはこの〝魔術〟を使って、生活しているわ。水も何も無い砂漠じゃ、作物も育たないもの」
(厳しい砂漠の世界で、人が生存するために生まれた技術か...。)
「私ね、貴方と出会ってから、色々と驚かされっぱなしだったもの。私もエイジをビックリさせたくて!お返しできたかな?」
「ああ...十分すぎるよ。久しぶりに心が躍ってるよ」
シャルには、俺が、何か新しい遊びを覚えた子供の様に映っていたかもしれない。
「じゃあ...今から行く場所は、もっと驚くことになるわね!」
(まじかよ...これ以上すごいことがあるのか!?)
「今から行くのは幼馴染の隠れ家なの。この国家(ウレト=ヘカウ)で、10本の指に入る魔術師の研究所よ。」
(よく分からないけど...なんか凄そうだ。)
魔術という、未知の技術。〝T2(ゲーム)〟にも陰陽術とか巫女術があったが、明らかに系統が違う。
シャルにつれられ、街の中を進んでいくと、大きな木に紫の怪しげなドアが付いている家が建っていた。
(これ...家なのか?)
そんな俺の疑問をさて置くかの様に、シャルがドアをノックした。
返答の声が無いまま、シャルがドアを開けて中に入ろうとする。
『ギィ』をドアが音をたてる。
「お邪魔するわよー。ティイー?いるなら返事してー。」
十秒ほど待っても返事の声はない。
「入っちゃおうか!」
「おいおい!良いのかよ、魔術師の家なんていかにも危なそうな...」
「大丈夫大丈夫!知り合いの家だから!」
俺の忠告も空しく、シャルはその怪しげなドアを開いて中に入ってしまったのだった。
「ったく。現実だったら不法侵入で訴えられるところだぞ。」
俺は一瞬ためらう心との葛藤の末、勢いのままに、自分にGOサインを出した。
「ええい、ままよ!」
新しい世界の、新しい技術。そして、新しい仲間との出会いが、この先待っているとも知らず。
<<第四話に続く....>>
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第四話にて、またお会いできることを楽しみにしています!
ではでは、皆さん!
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