第弐話:拙者、無職でござる!?
全く知らない土地に来て、拾ってくれた可愛い女の子から、突然の申し出を受けた。
(そう、それが愛の告白だったら…俺の人生はどれだけ…そんなイージーな人生あるわけないか…)
女の子からの申し出、それは、可愛い見た目からは想像出来ないものだった。
「君さ、私を守ってよ!」
「私ね…追っ手から逃げてる途中なの。だから、守ってくれたら嬉しいんだけど•••」
(え・・・?)
ちょっと聞き返したくなる様な単語が、目の前の可愛い女の子から飛び出した。そして、余りにも唐突なお願いに、俺は頭の理解がついていかなかった。
(追っ手から逃げている?だって、犯罪者•••?
いや、悪事を働く見た目じゃ無いし…というか、見た感じ…ただの可愛い女の子だよな•••)
「ダ、ダメ…かなぁ?」
目の前の女の子は、不安そうに、俺の顔を覗いてくる。俺は、いきなりの申し出に即答出来ずにいた。
(訳ありって感じだな…自分の状況も良く分からない状態で、厄介事に首を突っ込む不安はあるけど…。
いやいや…待つんだ俺。命の恩人だぞ?!
ここで逃げたら武士の名が…というより男としてどうなんだ?
…というか、俺の人生どうなっているんだ。知らない土地に飛ばされたかと思えば、次から次へと…。ハプニングが尽きないとは…この事だな。)
「ど、どうかなー…ダメ、かな?」
俺は思考を巡らせる。知らない世界に舞い降りた武士が、必死に必死に、頭を回らせる。
目の前の女の子の困り顔と、上目遣いが、女性経験の皆無な俺に、ここでヒーローになれと、変な英雄願望を目覚めさせ様とする。
(それにだ…昔のサムライが見たら、困っている女子を置いて逃げるなんて…
――『武士の風上にもおけぬ』 なんて、笑われちまうかもな。)
「よし…分かった。俺がこの世界でどこまで強いか…君の役にたてるか、分からないけどさ…」
「命の恩人のお願いだ。俺で良ければ、その逃亡劇、協力させてもらえないか?」
パッと、目の前の子は嬉しそうな表情になる。
「ありがとー!!さっすがー!持つべきものは拾いモノだね!!」
「おいおい、拾い物って…ひどい言われようだな•••」
(とは、言ってはみたものの…この世界で俺が使い物になるか、全然分からないんだけどな!)
(そもそも、〝T2(ゲーム)〟のスキルが使えるのか…??)
「これで技が使えなかったら、完全にお荷物だな…。」
(やばい…めっちゃ不安になってきた。)
俺は、〝T2〟とは明らかに違う今の環境で、本来の力が出せるのか、一抹の不安に駆られる。
(まあ、当たって砕けろ…かな。)
なるべく、砕けたくはないけど…。やってみるしかないよな…。
そんな不安と戦っている最中、少女は俺に、思いがけない質問をぶつけてくる。
「私思ったんだけどさ、君、結構強いでしょ?」
「お?…俺がか?」
「そう…多分の多分なんだけど、筋肉の付き方とか、何というか、私なんかよりずっと戦ってきたってオーラがあるんだ。古傷も多いし…」
天然な性格かと思いきや、見るべきポイントは、ちゃんと見ているんだな。
(まぁ、古傷は歴戦の戦士風でカッコいいかな!と思って、キャラメイクの時につけた痕だけどな!〝T2〟はゲームだから、傷とかはアイテムで治るんだよ)
「強いか…実際どうなんだろうな。俺はこの世界の事を全然知らないんだよ。役に立つかどうか…。」
はたして、この世界で俺は強いのだろうか…。
確かに、〝T2(ゲーム)〟の中では、1対1の一騎打ち(PVP)の勝率ランキングはトップだった。
領主になってからは、万が一にでも死んではいけないので、仲間内での模擬戦が多かったが…。
「君の力になれるか…分からないけど。命の恩人に恩返しがしたい。」
「その気持ちだけで嬉しいよ!でも、本当にこの世界のこと全然知らないんだね。どうやって来たのかも…」
「俺はさ...元の世界で一回死んで、目が覚めたらここにいたんだ」
普通信じないだろうな…。
「へぇ…不思議なこともあるんだね。君は、さっき行ってたニホン…?って所から来たんだね?!」
「まあ、そうだな。」
正確には、戦国時代をモチーフにした〝T2(日本) 〟だが。
「と言うか…俺の話、信じるんだ。何処か知らない世界に、生き返ったらいましたーなんて、普通嘘だと思うだろ。」
「んー…私ってさ、小さい頃から色んな国の人に会って来たから、結構人を見る目あるんだよね。」
「それに、君が僕に嘘着く人には見えないんだ!勘ってやつかな!」
俺が君を裏切るメリットが無いとは言え、こんな怪しいオレを信じてしまって良いのだろうか…ちょっとこの先が心配だぞ。
「そう言えば、名前を聞いてなかった…名前はなんて言うんだ?」
「私? 私はクレオパトラ・シャルルだよ!みんなからはシャルって呼ばれてるかな!よろしくね!」
シャル…か。確か、俺の知ってる世界にもクレオパトラってお姫様が昔いたな…。
「良い名前だな。」
「ありがとー!君の名前は?」
「俺は…のなか、えい…」
俺(野原英二郎)は、〝T2(ゲーム)〟ではエイジを名乗ってプレイをしていた。
「え?もしかして、名前も忘れちゃった?記憶喪失とか?」
いや…忘れたわけじゃない。ちゃんと2年も使った大切なキャラの名前は覚えている。
「俺はエイジだ。前職はサムライでござる!今は無職だけどな!よろしくお頼み申す!!」
そう。俺は、侍だ。
「無職じゃないよ!君は、今から僕の〝守り手〟なんだからね!!」
(ボディーガード...。俺は、この子の傭兵ってわけだ。)
どうやら、俺は、無職は免れたらしい。ただ、次の就職先の採用担当は、少し強引らしい。
何もない砂漠で、落ち武者として、飢え死にするよりか、ちょっとしたパワハラを我慢する方が全然マシだった。
(それに、嫌な感じはしない。)
「ねぇねぇ、でさ!さっきも言ったけど、私、今追っ手に追われてるんだけど!」
そう言えば、忘れてた…。
「こんな悠長にお話ししてると、追いつかれちゃうかもね!」
(おいおいおい!…聞いてないぞ!)
「まじかよ!言うの遅すぎるだろ!そんな切迫した状況なら先に言ってくれ!」
「あははっ!だって、エイジと話すの面白かったんだもん!私の知らない世界から来たなんて、最高に面白い人が見つかったなーって!占い(タロット)は正解だったんだなって」
「占いってなんだよ!ったく…急いでここから離れるぞ」
「はーーい!…でも、手遅れじゃないと良いけど。もう追っ手に見つかっちゃってたりして…」
手遅れって…お前が乗ってる馬に乗って逃げれば…。
いや...冷静になれ。もし、シャルが言うように、相手に既に見つかっている可能性もある。
「下手に動くのも、危険か。」
なにか良い方法は...。
何かグッドアイディアがないか考えてみる…
ーー良い機会だ。物は試しだが、使ってみるか。
さて、〝T2〟のスキルは、この世界で通用するのか...。
ゲームの頃の感覚を呼び覚ます。
(お願いだから、発動してくれよ!)
深呼吸をして、精神統一をする。
スキルをイメージ、そして心の中で叫ぶ。〝T2〟の中では、頭の中のイメージと、コトダマによるスペルが、スキル発動のキッカケとなる。
(ええい、ままよ!!)
「熱源探知 / 殺気察知 /鷹の目を同時発動!!」
――スキル発動を確認。世界への干渉を許可します。
システムチックな声が頭の中に流れた。
【忍術】甲賀流《索敵の型》熱源探知 / 殺気感知 /鷹の目 同時発動
―― 視界良好。
半径500メートルに存在する生命体の位置情報が入ってくる。
鷹の目の技効果により、上空から見下ろす景色が投影される。隠れている追っ手の姿が丸見えだ。
――どうやらうまくいったらしい。
「に、しぃー、ろう、やー…全部で12人か。100メートル先の砂山の後ろに隠れているな。ただ…不可解だな。お前を追っているにしては、殺気は全然感じられないが…」
ちらっと横を見ると、シャルはちょっと驚いた顔をしている。
「えー、すごいね!? (数までばっちり当たってる...。) 」
「エイジってさ、何かの達人??」
「ま...まあな。オレにかかればこんなもんよ。」
余裕ぶってみたが、本音のところドキドキだった。これでスキルが発動しなかったら、完全なお荷物である。
(発動してよかったぁぁあ....とりあえずは役に立てそうだ)
そう言えば、シノビ系【探索スキル】をサムライが使えるのは、〝T2〟の前世引継ぎシステムのおかげである。
前にも言ったが、〝T2〟では前世で会得したスキルを来世に引き継ぐことができるのだ。
余談だが、俺の前職はシノビだ。見た目こそ、サムライだが、俺のアビリティーは【武士系】と【忍術系】の〝ハイブリッド〟なのである。
サムライは戦いには特化しているが、敵の情報収集能力には乏しい。目の前にいつも敵が現れるとは限らない。 隠密や策的に特化した、シノビのスキルを併用してこそ、対人戦で花が開くというものだ。
俺は、最初からサムライを選びたかったのに、あえて、シノビを選んだ。そして、一年間、わき目も振らず、修行にいそしんだ。ハイエンドクラス:上忍まで到達して、そして転生したのだ。全ては城主として、情報収集にも長けたサムライになるために。
「さて、どうしよっか、馬で駆け抜ける?逃げ切れるかなぁ・・・?」
「いや...部が悪いな。相手も全員、馬乗りだ。」
12対1では、万が一にも、逃げられないであろう。
ただ、問題はない。 普通じゃ逃げられない、だけだ。今の俺にはスキルがあるのだ。
(あとは・・・この世界のスキルが、それより優秀じゃないことを祈るぜ)
【忍術】甲賀流《隠密の型》気配隠蔽 /無音の足袋 / 幻惑の蜃気楼 同時発動
気配隠蔽 は<気の消失>、無音の足袋 は<足音の無音化>、幻惑の蜃気楼 は錯覚による<透明化>を可能とする。
さて、準備は整った。
急に消えた俺たちに驚く追っ手の姿を、スキル<鷹の目>で捉える。どうやら、追っては俺の隠密スキルを無効化する手段は無いようだ。
(――追っ手の皆さんが慌てふためく間に、さっさと、トンズラをこきますか。)
『いくぞ』と声をかけようと振り返ると、慌てふためく人が、ここにも一人
「ちょ!ちょ!ちょっとまった!えええええ!私が透明になってる!ウソでしょ!」
「おいおい!せっかく、無音の足袋で、〝足音を消した〟のだから、大きな声出すなって! 」
(シャル...お前まで慌ててどうする!?)
「えええっ!だって驚くでしょ!なにこれ!!」
(ええい、だまらっしゃい!)
シャルの口を押さえる。(...もごもご)
「良いか!?後でいくらでも説明してやるから、今は逃げることに集中するんだ。振り落とされないように、しっかり俺にしがみつけよ!」
「えええ!抱きつくってそんなっ!はずか...」
「ずべこべ言わない!いくぞ!」
「あーーもう!分かったわよ!後で、色々と説明してもらうんだからね!」
シャルは俺の後ろにすわり、ぎゅっと、ぬくもりを感じるぐらいに、しがみつく。
シャルの、いい感じに育った二つの実りが俺の背中に当たる。
最初からこれを狙ってなんか・・・いないぞ。可及的速やかに、現状を打破するための最善策を実行しているだけだ。
「シャル!どっちに逃げれば良い!?」
「あっち!北に逃げましょう!私の友人がいるの。隠れ家にはぴったりよ」
「了解した!あっちだな!」
そして、この世界において、始めてサムライのスキルを使用する。
――スキル発動を確認。世界への干渉を許可します。
〝T2(ゲーム)〟のときには、聞こえなかった声が頭の中に木霊する。
【侍技:乗馬スキル】 疾風迅雷 / 馬術の極み
疾風迅雷 <最高速度の大幅上昇> 、馬術の極み<馬の操作性アップ> どちらも馬の能力を限界突破させるスキルだ。
戦闘に特化したサムライの中で、数少ないスキルだ。
「しっかりつかまってろよ、こいつはもはや普通の馬じゃない!スーパーカーに匹敵する、2秒で100キロも夢じゃないぜ!!」
びゅん。
馬は2秒で110キロまで到達する。その加速度は現代においても超高級車にしか不可能な次元である。
「きゃぁああああああああ!!!!!!」
(シャル声出しすぎ... 透明なのに位置ばれちゃうじゃん。)
俺はより高度な忍術の使用を試みる。
――スキル発動を確認。 許可。
【忍術:隠密スキル】 無音の極み を発動。
この技は無音の足袋の上位互換。
足音のみならず、対象者の全ての音を一定時間消失させる効果がある。
――シャルの悲鳴に近い絶叫が虚空に消える。
静寂に包まれる中、俺は後ろの二つの柔らかい感覚を楽しみながら、北の町へ向かうのだった。
<<第参話に続く....>>
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読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
まだまだストーリーは序盤ですが、少しずつ、主人公のサムライとしての
一面を覗き見れる場面があったかと思います。
これからも、皆さんが〝おもしろいな〟と思っていただけるストーリーを書きつつも、
私自身、楽しんでこの物語を書いていこうと思うので、是非応援宜しくお願いいたします。
ではでは。第三話にてお会いしましょう。またね!!
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