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前世の夢

作者: 美桜

不思議な夢は沢山見たんですけど

この話はいつまでも忘れねぇんで、ずっと引っ掛かってました。

前世とは三世(さんぜ)の一つ。この世に生まれ出る前の世。過去世。


まだ若かった頃、夢を見たんですよ。

夢物語だと思って聞いて下さい。




前世って信じますか?

私の前世じゃないかな?って夢の話です。




見た目は今の自分とは全く違うんですけど

自分自身なのはわかりました。

場所は日本だったと思います。

性別は女性です。



場所は東京だったんじゃないかな?って思います。

戦争があった時代です。


私には息子が3人いました。

みんなヤンチャでしたが、とっても親孝行な息子達でした。


10代後半から20代前半の息子達。

大切に育てた息子達。



私は彼らを戦争で失いました...。

戦地に赴いた子、特攻隊もいました。



終戦間際の夏でした。


3人の戦死の知らせが次々に届きました。


彼らの死をすぐには受け入れられません。

信じられるはずないですよね。


こんな時なのに

思い出すのは彼らの笑顔だけです。

「母ちゃんのメシが一番うめぇわ!」って

ついこのあいだまで3人で奪い合いながら

ガツガツ食べてね。

ちゃぶ台囲んで笑ってたんですよ?



出征の時、「母上様、お国の為に行って参ります。」と言い私に敬礼しました。


彼らは覚悟を決めた涼やかな瞳をしておりました。


「必ず無事に帰って来ますように!!」

涙を堪えて声に出さずに心の中で呟きました...。



戦時中は「必ず生きて帰って来なさい!」とか

「絶対に死んではいけない!」なんて言ってはいけなかったんです。


「貴様は非国民か!!お国の為、天皇陛下の為に喜んで命を差し出すのが日本国民の義務である!!」なんて怒鳴られた時代です。



背筋を伸ばして凛々しく去って行く...

軍服姿の我が子の後ろ姿...。



皆、振り返ることはなかったです。


目に焼きつけるように...ずっと見つめていました。



父親はいませんでした。

早くに病で亡くなったんです。



息子達は私の全てであり宝物でした...。



私は髪を振り乱して泣きじゃくりながら走って走って、川の土手に行きました。


膝を落として手の平に血が滲むほど強く砂利を握りしめました。


「子供なんて要らない!!こんな思いは2度としたくない!!」


涙で滲んだ目に夕焼けがオレンジ色に染まっていました。


こんな時にも空は変わらず...美しく...。


隅田川か荒川辺りだと思います。


近くに煙突がある工場が見えました。



悲嘆にくれるその人(私)を今の私は黙って見ていました。



そして、その時、神だか仏だか、

わからない白い服を着た老人が現れ、私に言いました。



「お前が自分で強く望んだのだ。だからお前は今世では子供が出来ることはない。」



19歳の私には理解出来なかった夢の意味が

年月を得て今なら...わかりました。




前世も来世も、もしかしたらあるんじゃないかな...って思います。



ただの夢の話ですけどね。



今は平和な良い時代になりました。



心の豊かさはあの頃の方がありましたけどね。



この時代にもし、彼らがいたらどう生きて行くんでしょうか?

きっと、よく働き、よく遊び、よく呑み、よく笑い、人生を謳歌したのでしょうね。


戦争の犠牲になった若い命。


彼らの名は歴史の闇に葬られ、生きた証を知る人もなく、子孫に語り継がれることもないのです。


あの夢から月日が経ちましたが彼らの「生まれ変わり」に会えないかと、ずっとずっと探していました。



「それで、会えたのか?」って?



そうですね。


皆さんのご想像にお任せ致します...。




(完)






前世とか来世とかあながち嘘じゃねぇって思ってます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 前世、あるんですかね〜?なんか不思議な気持ちになるお話です。こんな幸せな時代に子育てできて感謝です。
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