~プロローグ・1~
「ちょっ、ちょっと待ってください!
私には無理ですってば!!」
「どうかお願い致します!
我々には貴女が必要なのです、【戦神子】様!!」
私は目の前で土下座してくる美麗な男性の集団に引きつつ、どうしてこうなった…と途方に暮れていた。
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「はぁ~、今日もダメかぁ…。」
私はトボトボと街中を歩いていた。
私は望月花梨25才。
どこにでもよくいる平々凡々のフリーターだ。
バイトをしながら声優を目指してワークショップに通うも、そう簡単に仕事になんてありつけやしない。
アニメ声と呼ばれる可愛い声…なんて持っていなくてどちらかと言えば、ハスキー寄りの低めな声が特徴だ。
名前の可愛さに対し、浮いてる感満載で私はあまり好きじゃない。
「外画では重宝されるだろう」ってクラス仲間には羨ましがられるし、「花梨ちゃんの声は説得力がある!」なんてバイト先にでは言われて調子に乗ったこともあるけど、それだって監督に気に入って貰えなかったらなんの意味もない。
今日もワークショップでは監督に「悪くないけど決め手に欠ける」なんてなんとも言えない評価でズーンと落ち込んでる最中だ。
気持ちを切り替えて、自主トレでもしようといつもの公園に向かった。
そこは街の喧騒から外れた所にあって、あまり人が寄り付かない。だから、声を出すのに丁度いいのだ。
ー私が声優になりたいと思ったのは中2の頃ー
学校でいじめを受けている時期に見たアニメがきっかけだった。
異世界転移もののそれは、平凡な女の子が異世界に飛ばされて戸惑いながらも聖女として頑張って魔王を倒し、幸せになるというありがちな物語。
それでも当時の私はあるキャラに共感し、頑張る勇気を貰いいじめに耐えることが出来た。
そこで初めて声優に興味を持った。とは言え、自分に自信を持てない私は、人前で演じるなんてもっての他で、結果レッスンに通い出したのは20才を過ぎてから。
最近の傾向を考えれば遅すぎるくらいだ。
1人でエチュードをしている時は大胆に出来る芝居も、人に見られていると思うと小さくなってしまう。だから、克服するためにも外で自主トレをするようになった。
そして、今日も私はいつもの台詞を口にする。
『貴女は私が守ります。
魔物には…指一本触れさせはしない!!』
そう…それは聖女の台詞…などではなく、私が好きだった聖女であるヒロインの護衛をしていた、女騎士の台詞だった。