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クロスフォードの日課

俺ことクロスフォードはこの町の剣術道場に通っている。


道場に通い続けてかれこれ8年近くになる。


何故、剣術道場に通っているかといえば、魔法が使えない以上、それ以外の技能で少しでも補おうと考えただけであり、決して親が騎士爵だからという理由ではない。


そもそも、俺は騎士爵である親父から勘当されていて、この学園を卒業した後は一人独立しなければならない。騎士爵である以上、戦争時は戦場に赴かなければならず、そのためには魔法が使えることは謂わば前提条件のようなもの。魔法が使えない俺に務まるはずがないのだ。


剣で戦う騎士が魔法を使うのか?だって?

当然必要だ。攻撃力を高めるための肉体強化に、防御力を向上させる対物理攻撃耐性や対魔法攻撃耐性。最低でもこの3つは使えないと、騎士としての活躍は期待できない。


話を戻すが、勘当されているから家名は名乗ることを許されていない。家は1歳違いの俺の弟が継ぐことになっている。まぁ、それはそれで気楽でいいさ。


そして、木剣を構える俺の前にはこの道場における俺のライバルが鋭い眼光で同じく木剣を構えていた。

勿論、道場では魔法は禁止だ。純粋に己の肉体と技術のみで戦うのだ。


そして俺たちは動き出す。


初手は俺の突き。


それは相手に躱されてしまう。が、それはいつものこと。

次は相手のターンだ。そいつは突きを交わした流れで回し打ちを放つが、俺も上半身をそらして回避する。


そしてそのまましゃがみ込み、下段回し蹴りにより相手の足払いを試みる。


相手はそれをジャンプして躱し、上段からの切り落としを放つ。


「ふっ」


俺はそれを待っていた。俺は切り落としをぎりぎりで回避してカウンターとばかり木剣を相手の喉元に放つ。


「それまで!」


勝負は終わった。俺の勝ちだ。

俺は木剣を寸止めして、そのまま下す。


「相変わらずいい動きだのぉ。クロスフォード。」


審判を務めていたのはこの道場の師範。ダグラス・ブリューゲルだ。

この国では土地は持たないが男爵という爵位持ちのおじいさん。暇つぶしに道場を開いている。


そして、俺が戦っていた相手というのは・・・


「ふぅ・・・また負けた」


シルフィー・ブリューゲル。


同い年かつ、王国魔術学園の魔術師養成コースに通う女の子だ。


青みがかった、きっちり切りそろえられたきれいなロングの髪に、透き通るような白い肌。スレンダーなスタイル。いつ見てもきれいだ。


思わず見とれていると、シルフィーの白い視線が目に入った。


「うわっとぉ?」


「じっと見るんじゃないわよ。殴られたいの?」


「はぁ~。へいへい。」


この国の女は強い。

そんな俺たちのやり取りを見ながらダグラス師範はにやにやと笑う。


「これで魔法が使えたら(結婚を)許すんじゃがなぁ・・・」


「お父様、何を許すの?」


「いやぁ?何でもない何でもない。」


ダグラス師範は手を振ってごまかす。


師範の言うことを俺は理解できるわけだが、まぁ、現実的には不可能だ。この国の貴族が欠陥品と呼ばれ、家を追い出された俺を娘の夫に?ないない。ありえない。そんな現実が分かっているから当然俺は冷めたものだ。


「さて、じゃあ今日は上がります。」


「クロ。夕飯はどうするの?」


「いや、今日はいいや。寮の帰りにでも食べていくよ。」


「そっか・・・それじゃあ、またね。」


シルフィーは少し残念そうな顔をしたが、まぁ、よくあることだ。ブリューゲル家は俺をよく夕飯に誘ってくれた。誘いに乗る時もあれば乗らない時もある。それは毎度のことだ。


こうして、俺は道場を後にした。




私ことシルフィー・ブリューゲルは今日もクロスフォードことクロに剣術で負けた。


ううぅ・・・悔しい。


クロが道場に通うようになって8年になる。最初は私のほうが強かったが次第にクロが強くなって今では全く勝てなくなった。勿論、いい線までいくのだが、先を読まれてしまう。


勝負が終わって面を取ると、なぜかクロが私をじっと見つめてくる。

あれ?私の顔何か変かな?と少し考えたが、そんなことはないはず。


じっと見るのはやめてほしい。正直言って反則・・・


どんな顔していいかわからないし、下手すると顔が赤くなるのがばれる。


私は肌が白くて、顔が赤くなっても差が分かりづらいらしく、だからごまかせるんだけど、どんなタイミングでそれがばれるか分かったものじゃない。


「じっと見るんじゃないわよ。殴られたいの?」


思わずそんなことを言ってしまう。


でも、本当は私のほうがクロをよく見ている。たくましくなったなぁ、と思う。

彼は魔法が使えないが、私からすればそんなことはどうでもよかった。


魔法に頼らない強さ。


それを彼は持っている。きっと、魔法無しでの戦いなら、彼にかなう人は学園内でもそうそういないだろう。なんといっても師範である父とほぼ互角に戦えるのだ。


父は現役の王国騎兵団団長だ。戦闘となれば、魔法を駆使した近接戦で相手を倒す。だけど魔法無しでも剣の腕だけでトップクラスの戦闘のスペシャリストだ。だから、魔法無しの状態でも父とほぼ互角に戦えるクロの実力はすごいのだ。


「これで魔法が使えたら許すんじゃがなぁ・・・」


「お父様、何を許すの?」


正直、父が何のことを言っているのかは私にもわかる。

そして、魔法なんか使えなくても私はクロと一緒になりたいという思いがある。

だけど、それは叶わない・・・


私はブリューゲル男爵の一人娘。爵位は低くとも貴族の娘には違いない。

だから、当然結婚相手は貴族になる。


仮に貴族と結婚しなかったとしても、相手には相応の財力や社会的地位が求められるだろう。そして、クロは残念ながら魔法が使えない欠陥品という不名誉な名前が既に広がっている。だから、いくら私が結婚を望んでも、周りがそれを許してくれない。


まぁ、そもそもクロが私と結婚したいと思ってくれるかどうかさえ、今の私にはわからない・・・


はぁ・・・私はため息をついた。このため息は何度目だろうか。

そんな私のため息には気づかず、クロは帰ろうとする。


「さて、じゃあ今日は上がります。」


私は思わず引き留めようとした。晩御飯という話を使って。

クロ・・・もっと一緒にいたいよ・・・


「クロ。夕飯はどうするの?」


「いや、今日はいいや。寮の帰りにでも食べていくよ。」


だが、今日のクロは夕飯を一緒に食べたい気分じゃないようだ。無理に引き留めるのも不自然。私は引き下がるしかない。


「そっか・・・それじゃあ、またね。」


また明日会える。そうは思うけど、こうしてクロと会えるのもあと数年だと思う。

流石に学園を卒業したらクロはどこか違う世界に行ってしまう。そんな気がする。

そして、私にも結婚話が来るだろう。


苦しい。本当に胸の内が苦しいよ・・・クロ・・・

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