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欠陥品と呼ばれる少年

少年は眠りから目を覚ました。


まだ夢の余韻が残っている。そして体中から噴き出す汗のべとつく感触が余計に少年の気分を害する。


「いつ見ても嫌な夢だ。」


少年はすぐに起きると身支度を始めた。

このアイリス王国の「王立魔術師学園」の制服を着こみ、顔を洗い、歯を磨き、学園に向かった。


学園の寮生である彼は、朝食は学園の食堂でとるため、部屋では食べない。


少年の名前はクロスフォード。


この国の騎士爵の長男であり、王立魔術学園の1年生。16歳の若者だ。


少年というより青年といったほうがいいだろうか。ただ、まだ幼さの残る顔に黒髪黒眼ときている。



彼の通う王立魔術学園には2つのコースがある。


・魔術師養成コース

 文字通り、魔術師を目指すもののためにあるコース。

 学園の卒業生は将来的に国軍の幹部候補生や警務隊といういわば警察官のような組織の幹部候補生、はたまた高名な冒険者となって一旗揚げるなど、そのような道を志す者が集まる。

 この国でも魔術に堪能で優秀な学生が集まるコースであり、超難関である。


・魔工技師養成コース

 いわゆる魔道具と呼ばれる魔法を用いた道具の製造技師になるためのコース。

 将来的には商人や工人となり、社会を豊かにしていくことを目的としている。

 魔法の実戦よりは魔法理論・魔術式の理解、そして魔道具の作成が教育の主な内容である。

 魔術師養成コースに比べて入学の難易度は下がるが、それでも優秀な学生しか入ることは許されない。



共に魔術の学習を行うことには変わりないため同じ学園となっているが、その性向は全く異なる。

日本の大学で言えば、防衛大学と工学部が一緒になったようなものだ。


そして、クロスフォードは魔工技師養成コースの学生だった。


彼は騎士爵の息子であるため、本来は魔術師養成コースを目指すべきなのだが、彼には魔術師養成コースに入れない理由があった。


その理由は・・・


「お!欠陥品のクロスフォードが来たぞ!」


「おお、あれが魔法が使えないという・・・」


「どうやって学園に入れたのかしら・・・」


「でも、魔術理論と魔術式のテストの点数は相当いいらしいぜ?要は頭でっかちだろ。」


クロスフォードが学校に向かう途中、このような冷やかしが後を絶たない。

クロスフォードは慣れっこなのか、冷やかしには一切目をくれず、図書館から借りていた魔術書を読みながら歩いている。


クロスフォードは魔法が使えなかった。


それは脳の魔術処理機能に障害を抱えていたためであり、かなりのレアな症例だった。



---魔術処理機能---

それは脳内にある機能であり、魔法を使う以上必須な機能である。通常、人間は誰でも持っている機能である。魔術処理機能は以下の機能に細分化される。


①魔術式引用機能

術者が口にした魔法名から魔術式を呼び出す機能。術者が使える魔法の魔術式は、無意識に脳内に記憶保存されているので、魔法名をキーワードとして魔術式を取り出す。


②魔法発動機能

上記の①で取り出された魔術式と体内の魔力をインプットに魔法を発動させる機能。魔術式をロードして魔力を動力にして魔法を発動させる。


③魔術制御機能

魔法の規模、密度、発動方向、消費魔力などといったコントロールを行う機能。および、体内の余分な魔力を体外に放出する機能。




教室についたクロスフォードはようやく一息ついた。

基本的に、クロスフォードを冷やかす連中は魔術師養成コースの連中だから、流石に魔工技師養成コースの彼の教室まではやってこない。


「クロスフォード、今日も大変だったね。」

「ああ、ハンザ。まぁ、いつものことさ。」


ハンザはクロスフォードの男友達の一人。家が商人のちょっとしたボンボンだ。

ハンザはクロスフォードの学力面での実力を知っているし、魔法の実戦よりは理論に価値を置いていたのでクロスフォードとウマがあう。


「まぁ、卒業までの辛抱だよ。」

「はぁ・・・卒業まで3年もあるんだが?ま、慣れてるから別にいいけど。」

「そういうとこ、クロスフォードは強いよね。尊敬しちゃう。」


とまぁ、そこそこ友人にも恵まれた?クロスフォードの学校生活はこうして始まる。

授業をきちんと聞き、空いた時間に図書館で魔術書を借りて読み、魔道具作成を行う部活動に励む。


なかなか充実した毎日・・・のように見える。ある授業を除いては。

その授業というのは、勿論魔法の実戦授業。


「はぁ、2限目が憂鬱だ。」

「ああ、今日は確か火魔法の実戦だったね。」

「必須授業だから仕方ないが、俺になにしろと?」

「まぁまぁ、そういわず、行こうか」


ハンザは苦笑いしながらクロスフォードを引っ張っていく。



魔術実戦の教師、リリア女史は鬼教官と呼ばれていた。

金髪のロングに碧眼で、身長は175センチ。年齢は27歳という若さ。学園内の男子生徒からビジュアルだけは絶大な人気を誇っている。


だが、彼女に言い寄る男はそう多くない。なんせ彼女は元王国軍の魔術師団に所属していた猛者であり、性格は女性にして実質剛健かつ教育はスパルタ。


「おし、お前ら!そこに並べ!」


ドスの聞いた声がグラウンドに響くのである。


「黙ってたらかわいいのにな」


誰かがボソッとつぶやく。途端、その生徒にリリアの無属性の魔力弾が炸裂する。


「ふごっ」


どさっ・・・・


「なんか言ったか?」


リリアのドスの聞いた声が再びグラウンドに響く。


「「「・・・」」」」


勿論、だれも何も言えないのであった。


「さて、今日からお前らには実際に火魔法を使ってもらう。要領は前回の授業で分っているな?さぁ、撃て!」


生徒は思い思いに目の前の的をめがけて火魔法を放つ。


「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」

・・・・(以下省略)


ファイヤーボールとは、火の玉を作り出し、対象めがけて放つ魔法。その威力は術者によってまちまちだが、強いものであれば家1件を1発で丸焦げにできるほどだ。

この魔法は初級魔法に分類されるが、それでもかなりの威力がある。


魔法の発動は1人を除いてうまくいった。


「またお前か、クロスフォード。」


リリアはため息をついた。


「・・・すみません」


「クスクスッ」


というクラスメイトの嘲笑う声がクロスフォードの耳に聞こえてくる。

慣れているとはいえ、クロスフォードはぎゅっと拳を強く握りしめた。


「はぁ、もういい、お前は端で見学してろ」

「分かりました」


そうして授業は進む。


「よし、全員で来たな。では、次はファイヤーランスの魔法を発動させる。準備はいいか?」


「「「はいっ!」」」


そしてまた生徒たちはそれぞれ魔法を発動させる。


それを端で見学しているクロスフォードは、ただじっとそれを見つめるのであった。

何故自分は魔法が使えないのか?どうしてそんな体になってしまったのか?

クロスフォードがそれを自問自答しない日はない。


この国でたった一人の魔法が使えない欠陥品と呼ばれる、苦悩と挫折を存分に味わう16歳の少年。それがクロスフォードだった。

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