過去の夢
魔法。それは神が人類に与えた祝福の力といわれている。
この世界の住民は個人差はあるにせよ誰でも魔法を使うことができる。
魔法とは一般的には魔法の名を呼ぶだけで発動する。
体内の魔力を糧に、名を呼ばれた魔法名を脳内の魔術処理機能が魔術式に変換・ロードし、魔法が発動する。そして、魔力も魔術処理機能も基本的には誰にでも備わっている。
ごく一部の例外を除き。
<プロローグ>
「ミーちゃん!ミーちゃん!しっかりしてよ!お願いだよ!」
一人の少年が横たわる少女を必死に揺り動かす。少女には意識ばかりか生気がなく、この様子ではあと数刻も持たずに死に絶えるだろうとさえ思われた。
現に、少女の脇腹からは血があふれ、重傷を負っていることは誰の目にも明らかだ。
「くそっ、くそっ!とまれ!とまれよ!」
少年は必死に少女の脇腹を抑える。だが、少年の必死の看病も空しく血はあふれるばかりだ。
「ヒール!」
少年は回復魔法を唱える。それは回復魔法としては初級の初級。この致命傷を治すには全くと言って程効果が薄かった。
だが、少年は続ける。それはもう、狂ったように。
「くそっ!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
少年はハァハァと息を荒げた。無理もない。この年齢の少年がヒールを使えることがまず驚きであるし、それをこれほどの回数繰り返したのだ。普通の少年なら魔力を枯渇させて昏睡状態に陥っても不思議ではない。
だが現実は残酷だ。
少女の傷は塞がらない。
それでも少年は続ける。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
少年の魔力が底をつきかけたとき、奇跡が起こった。
なんと、少女の傷が塞がったのだ。そして少女は意識を取り戻した。
「あ・・・ここ・・・は? まだ・・・いき・・・てる?」
「ミーちゃん、よかった!本当によかった・・・」
少年は涙を流し少女の無事を喜んだ。そして、そのまま気を失った。