表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/112

第96話 黒い霧の秘密


装備を揃えて、黒い奴を倒しに向かう。


レンガニの鎧に長剣。

長剣は僕のではなく、借り物だ。


後ろから、クレアさんとミリーちゃんも走ってくる。

彼女たちも、皮の鎧と剣を借りて装備している。


「だけど、僕で倒せるのかな」


なんといっても、いままで剣を使ったことがない。

藁束を試し切りしたことはあるけど、全然ダメだった。


冒険者になるのをあきらめたのは、それもあった。

ユニークスキルに期待したけど、『予報』だったから、完全に冒険者向きじゃない。


少し先に戦っているふたりが見えてきた。

他の人達はゴブリンと闘っている。

優勢らしく、立っているゴブリンの数が少なくなっている。


「だからな。お前ごときに彼女を任せる訳にはいかないんだよ」

「ふざけるな。俺の恋人に横恋慕するなんて、とんでもない奴だ、喰らえっ」


どういうことだ。

レイドリーダーさんの恋人なら、大公様の執事の孫娘。

ジェラドさんにとっては従妹だろう。


なんで、彼女のせいでふたりは闘ってのだ?


「彼女は皇太子さまの恋人にだってなれる美しさをお持ちだ。いずれは王妃にだってなれる。だから俺は騎士になったんだ。彼女を守る騎士に」

「そんなことは知らん。お前の勝手な思い込みだ!」


ふたりの力量は拮抗していて、簡単には勝負がつきそうもない。

今はふたりではなく、黒い奴をなんとかしないと。


黒い奴に向かって全力で走る。

あと、5mくらいのところで身体が止まった。

前に進めない。


「おや、なんか、弱そうな男がやってきましたね」

「!」


黒いゴブリンが言葉を発した。

ゴブリンが話すなんて聞いたことがないぞ。


「後ろから女性がふたり、来ていますね。あなたの奴隷ですか?」

「奴隷なんかじゃない。チームの仲間だ?」

「ほう、チームですか。3人で私と闘うとでもいうんですか」

「そうだ」


そうは言っても、前に進むことができない。

何か見えない壁がある感じがする。


「あなたは剣士でもないのに、なぜ、闘うんですか?」

「おまえがあのふたりを操っているからだ。変な術を解け!」


「別に私は操ってなどいません。ふたりは自分の意志で闘っているのです」

「ふざけるな。おかしな黒い霧でふたりを操っているんだろう」


黒い奴と話していると、クレアさんが追いついてきた。


「大丈夫? ジュート」

「僕は大丈夫です」


だけど、クレアさんも前に進めないようだ。

すぐにミリーちゃんもたどり着いた。


「3人お揃いになりましたね。おや、面白いことがありますね」

「なんだ?」

「スーパーレアがふたりに、レアがひとり。珍しいユニークスキルを持っているんですね」

「なぜ、分かった?」


世の中には鑑定スキルというものがあるのは聞いたことがある。

だけど、人のスキルを鑑定することなどできると聞いたこともないぞ。


「まぁ、私は分かるので。あなたには分からないというだけでしょう。私は優秀なのです」

「なんか頭くる奴だな!」

「剣を振り回しても無駄ですよ。私に近づくこともできないでしょう」

「本当に頭にくる奴だな」


こんな奴を倒すなんて、どうしたらいいんだ。


「どうしたら、こいつを倒せるのか?」


予報に頼ろうとしても、こいつに関しては予報がでない。

目の前にいても、それは同じらしい。


「無駄ですよ。私は予報スキルは効きません。私はあなた達より高次な存在なのですから」

「たかがゴブリンの癖して!」

「差別はよくないですよ。私から見たら、あなたもゴブリンも低次な存在で同じようなものですから」


そんな会話を聞いていて、クレアさんが割り込んでくる。


「もしかして、あなた。悪魔なの?」

「ほう。こちらの予感持ちの方はするどいですね。はい、悪魔ですよ」


黒いゴブリンから、黒い光が発せられて一瞬見えなくなる。

黒い光が収まると、そこには身長120センチほどの魔物がいる。


真っ黒な身体でかぎ爪がついたしっぽ、コウモリのような羽、とがった耳に牙。

吟遊詩人が語っている物語に出てくる悪魔の姿だ。


「本当の悪魔のようね。ただ、悪魔にしては小さいわね。子供なのかしら」

「子供ではありません。悪魔は歳をとることもない。だから、生まれたときからこのサイズなのです」

「なら、悪魔というより、小悪魔ね」

「失礼な! 小悪魔っていうな!」


あれ、いきなりしゃべり方が幼くなったぞ。

さっきまで、偉そうだったのに。


「しかし、私の正体をみやぶるとは、あなたは才能をお持ちのようだ。なぜ、こんなつまらない男のチームに入っているのですか?」

「ジュートはつまらない男なんかじゃないわ」

「しかし、チームで稼いだお金をほとんどがこの男が取ってしまうのでしょう?」

「それは。ジュートの力が中心だから、当然よ」


いいことを言ってくれるな、クレアさん。

仲間に認めてもらえているのはうれしいな。


「本当にそうなのでしょうか。頭にそう考えていても、本心ではどうなのでしょう、ジュートさん」


いきなり、こっちにふってくるな、小悪魔め。


「彼女がそう言っているのだから、そうなのだ。いい加減にしろ!」


仲間の気持ちを疑うなんて、そんなことはできやしない。


「では、そちらのふたりの女性の気持ち、そして、あなたの気持ち。すべての人の本心を知りたいと思いませんか?」

「ふざけるな!」

「あのふたりは、協力して私を倒すと言っていませんでしたか? しかし、本心ではお互いのことを邪魔だと思っていた様ですよ」

「彼らに何をしたんだ!」

「彼らを素直にしてあげただけですって。あの黒い霧で」


やっぱり、あの黒い霧が原因か。

小悪魔の霧ってことか。


「今から、あなた達も黒い霧をプレゼントしますよ。素直になれていいですよ。階級とか役割とか、つまらないしがらみから解放されるんです」

「・・・」

「そのとき、あなた達3人の関係はどうなっているでしょうね。楽しみじゃないですか?」


大丈夫だ。僕ら3人はちゃんと信頼しあっている。

お金のことは・・・予報屋がどうなるかわからないから、僕が預かっているけど。

もしかして、本当は不満だったりするのかな。

本心ではどう思っているのかな。


「ほら、不安になってきましたね。いいですね。そういう気持ち。悪魔は大好きなんですよ」

「ふざけるな! 僕らはお前の変な霧なんか負けたりしない!」

「それでは、受けてみてもらいましょう」


どわっと、小悪魔から黒い霧が湧きだして、一気に周りが見えなくなる。

身体が熱くなる。頭が痛い。


しばらく黒い霧に包まれていたけど、だんだんと晴れてくる。

クレアさんとミリーちゃんがいる。


クレアさんが僕の方を見る。

こっちに近づいてくる。


まさか、ジェラドさん達みたいに闘うのか?


「ジュート!」


ミリーちゃんも近づいてくる。

どうしよう。


「ジュートさん、好きです!」

「私も好き」


えっ、いきなりふたりから告白?

だけど、僕も言いたい。


「クレアさん。ミリーちゃん。好きだ」


うわっ、三角関係決定ってこと?


「あらあら3人は愛し合っているというんですか。つまりませんね」

「ふざけるな。私達は信頼しあっているんだ」

「愛は憎しみに変わるって知っていました? あ、予報ではありませんよ。人とはそういうものです」

「誰もがそうなる訳ではないだろう」

「まぁ、今は愛し合っているということですか。そういうの、悪魔は嫌いなんです。せっかく育てたゴブリン達も強いのはだいたい倒されちゃいましたね」

「私達の勝ちだぞ」

「ええ。又、憎しみ会うようになったら、会いましょう」


コウモリのような翼をはばたかせると、上空に向かって飛んで行った。


「逃げるな!」


しかし、危険は去ったということかな。


振り向くとクレアさんとミリーちゃんが見ている。


その後ろでは、剣を降ろしたジェラドさんとレイドリーダー。


さらにその向こうでは、ゴブリン達を倒したセントラルチームのメンバー達。



「勝ったみたいですね」


まだ、森の中では闘いが起きているだろうけど、ゴブリンロードと正体不明の敵はいなくなった。

あとは、なんとかなるだろう。


悪魔は去りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ