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第9話 侘しい食事がキノコで華やかになったりする

「明日も来てくれるかな」

「ごめんなさい。本来行くはずだった現場があるので土方ギルドが決めるんです」


錬金術士さん、すごく喜んでくれた。

正規料金の大銅貨5枚にチップだと言って大銅貨3枚をくれると言うけど断固として断った。

土方ギルドでは、本来チップは禁止なのだ。


「だから、内緒にしていれば大丈夫だよ。明日も来て欲しいから収めておいてくれ」

「ダメです」


良い人なんだけど、強引なとこあるんだよね。

太っ腹だから、きっと喜ぶレンガ積み職人いると思う。

でも僕は1日500個積んで大銅貨5枚にこだわって行こうと思っている。


「2日続けて黒猫亭行ってしまったからなぁ。今日は我慢しなきゃ」


仕事が終わってひと段落。


買い置きをしてある黒パンと帰りに買ってきた野菜スープ。

これだけで夕食を済ませてしまおう。


黒パンがひとつ銅貨3枚。夕食には1個食べる。

朝と昼は仕事が控えているから2個食べてパワーをつけないとね。


野菜スープは、ちょっとだけ野菜が具として入っているスープ。

塩味でシンプルな味。一杯銅貨2枚。


毎日食費が銅貨19枚。たまにスープにトッピングを入れたりするから平均すると食費は銅貨20枚で大銅貨2枚と計算している。


黒パンは堅いのでそのままだと食べられない。

朝と夕はスープに付けながら食べる。

昼はスープがないから、水筒から水を木のボウルに入れてパンがゆにして食べる。


毎日、ほとんど一緒の食事。

もちろん、おいしいってほどじゃないけど、ちゃんと三食食べられるのは幸せだ。


寝ている部屋の前が縁台になっているから、それが僕のダイニングだ。

部屋の中だと、狭いからね。


ひとりでスープに浸したパンを食べる。


友達がいれば話をしながら食べるんだろうけど、ここでは友達ができない。

誰もが、寝にくるだけの場所で、話をして友達を作ろうと思っていないのだろう。

僕も含めて。


だから、黒猫亭に行くのが楽しみなんだ。

あそこなら常連同士、話が盛り上がる。

楽しいひと時になる。


「あ、いたいた。レンガ屋さん」

「あれ?ミリーちゃん、どうしたの?」

「今日、山菜採りに3段の滝に行ってきたの。そしたら、一杯採れておばさん達も喜んでくれたの」

「それはよかったね」

「マスターにも山菜おすそ分けしたら喜んで黒猫亭でも出すって」


残念。今日はいけないからなぁ。

明日、行くから山菜料理頼んでみよう。


「山菜の他にもいろいろと採れて。きのこも採れたから私が料理したの」

「へぇ、ミリーちゃん作のキノコ料理だね」

「単に炒めて塩味つけただけだから、料理ってほどじゃないけどね」

「それがそう?」

「うん。食べてもらおうと思って持ってきたの。ちょうど夕食中ね」


今日の夕食はいつもと違ってキノコ塩炒めが一品増えた。


「ミリーちゃんも一緒に食べる?」

「ううん。お店始まるから帰らないと」

「じゃ、お皿は明日持っていけばいい?」

「うん。それじゃね」


茶色なお皿に載ったキノコ炒めがひとつ。

ヒラタケというキノコだろう。


この辺りでは比較的生えているキノコだけど、美味しいと言われるもの。

ところどころ焦げているから、ミリーちゃんが火を通しすぎたのだろう。

炒め物は焦げるちょっと前までしっかりと火を入れるのが美味しく作るポイント。


そう黒猫亭のマスターが言っていた。

マスターの料理を見ていたミリーちゃんも真似したけど、一瞬遅くてちょっと焦がしてしまったのだろう。

もちろん、客に出す物ではないので問題はないが。


いつもの黒パン1個と野菜スープ。

それに今日はキノコ塩炒めが一皿ある。


まずはキノコ塩炒めを一口食べる。

塩の味と一緒にキノコのうまみがじわっと広がる。


「うまいな、これ」


これはきっと黒パンにも合うに違いない。

スープに浸した黒パンと一緒に食べてみる。


「やっぱりな」


黒パンのしっかりした味とキノコ塩炒めのうまみが重なって、うまさが広がっていく。


「さっきまでは侘しい食事だと思っていたのにな」


いつもと違って華やかな食事になっている。


「もうちょっと収入が増えて、食事に一品足せるようになりたいな」


屋台で一品料理を頼むと銅貨2枚か3枚。

それが追加できる収入があると食事が楽しくなるな。


「いけない、いけない。あんまり無謀な欲求を膨らませると碌なことない」


やっぱり1日大銅貨5枚で過ごせる生活を変えるのは良くない。


「こんな生活は嫌だ」と言って出て行ったレンガ積みの男が冒険者になってすぐ死んだって話はいやというほど聞いてきた。


「僕はそういう生き方、向いていないしな」


冒険者はパーティを組んでこそうまくいくものだ。

パーティを組むのが徹底的に苦手な僕にできるはずがない。


何年だって大銅貨5枚のレンガ屋を続けていく。

それでいいのだ・・・自分にそう言い聞かせていた。


そして、翌日の土曜日。

錬金術士のとこで実況中継を受けながら、窓がある壁のレンガ500個を積んで仕事は終わった。

そして、C級冒険者と約束がある黒猫亭に向かった。


毎日のご飯がちょっと楽しくなりました。

小さな幸せにありがとう・・・。


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