第88話 自由すぎる女性は心配だね
「無理言ってすいません」
そう言って黒猫予報屋に入ってきたのは、レイドイエローのセントラルリーダー。
公国の騎士さんで、ジェラド・マスカーナという名前らしい。
マスカーナ家は公国の名門で大臣や騎士を多く輩出している。
公爵様の執事さんもマスカーナ家だ。
今夜の予報屋の最初のお客さんだ。
「公国騎士さんですってね。どんな相談かしら?」
まずは、クレアさんが聞き取りをする。
最初のお客さんのときは、僕は15分休憩している。
「従兄妹のことだ」
「えっと、公爵様の執事さんのお孫さんよね」
「そうだ。その彼女のことだ」
彼は公国の騎士をしている。
公国というのは、この街が所属している王国の一部ではあるが、
大公様が治める領地で、半独立の立場。
王国に対して納税の義務を持たない反面、有事の際には軍隊を派遣する義務を持つ。
公国は独自の軍隊を持っていて、騎士団も持っている。
その公国の騎士団に所属しているのが彼、ジェラドだ。
「どんな相談かしら?」
「彼女がレイドリーダーと付き合っているのは知っているか?」
「ええ。聞いているわ」
「問題だとは思わないか?」
「えっと……そうなの?」
「レイドリーダーだから、冒険者としては素晴らしい実績を持っているのだろう。しかし、貴族
ではないだろう。結婚するとなると家柄の違いは明らかだ」
「そうかもしれないわね」
「要は結婚する気がないのかも、しれないと思ってな」
「レイドリーダーさんを見ていると、結婚するつもりではないかと……」
「それは貴族における結婚の意味を知らなすぎる人の言葉だ」
「えっと。何の相談なのかしら?」
ジェラドさんが、従兄妹のことを心配しているのは、傍で聞いていてわかるけど、
それならば、予報屋ではなく本人に言えばいいんではないかと。
クレアさん、なんか困っているみたい。
そろそろ、15分経つし、バトンタッチしようか。
「はい。話はだいたい聞きました。あとは予報をしましょう」
「あ、ジュートさん、あとはよろしくね」
貴族相手はクレアさんも苦手らしいな。
次の冒険者の相談者さんのとこにそそくさと移動している。
「それでは、従兄妹さんとレイドリーダーが結婚するかどうかを知りたいのですか?」
「いや。そうじゃない。レイドリーダーが本当に結婚するつもりがあるのかが知りたいのだ」
「ごめんなさい。人の気持ちを予報するのはできないんです」
「……そうだったな。予報だな。なら、公爵様が公国に帰るとき、従兄妹は一緒に帰るのか、
それとも、ここに残るのか」
《ピンポンパンポーン》
「彼女はこの街に残るでしょう」
「なに!そんなこと、許されると思うのか!」
「あ、僕に言われても」
「おっと、すまん。予報だったな」
この人、本当は連れて帰りたいんだなぁ。
この街にレイドリーダーと一緒に残るのは心配でたまらないって感じだな。
「もしかして。従兄妹さんの親御さんから、お目付け役を頼まれていたりします?」
「あー。そうだ。あいつは昔から、考えなしに行動するところがあってだな。
こんな問題を起こすんじゃないかと彼女の父上から頼まれてな」
なるほど。
そういうことか。
もちろん、祖父にあたる執事さんにも頼んでいたのだろうし、
いろんな人に心配かけている人なんだね、彼女。
「しかし、どうしたらいいのか。困ったな」
そういう相談だと予報が役に立たないから、沈黙していたら、
ミリーちゃんが麦茶を持ってきてくれた。
「どうしたの?」
「いやぁ、執事さんのお孫さんのことなんだけどね」
僕も困ってミリーちゃんに話してみた。
「うわー。身分違いの恋なのね。ロマンティック」
いかん。テンプレスキルは発動しないらしい。
「えー、正直な話をすると、当人同士の話でもあるので、
僕らでは、どうしようもないことでありまして」
「そうだよな。すまん。変な相談をしてしまって」
「お力になれなくてすみません」
もやもやした顔のまま、ジェラドさんが帰って行った。
身分違いの恋は大変みたいです。




