第78話 依頼者レイド・イエロー
いつものように、土木ギルドにやってきた。
いつものように、ソニン監督官がいる。
だけど、この日はちょっと違った。
「ジュートさん。よかった来てくれたんだ」
「いや、基本的に日曜以外はだいたい来ていますよね」
「もちろん、分かっているって。ただ、今日は重要な依頼があってな」
子供達がまた増えていて15人になっている。
「子供達の指導だったら、やりますよ」
「もちろん、それもあるんだが」
「他にも何かあるんですか?」
「今週末から魔物討伐が始まるって知っているよな」
そう。マセット達冒険者が参加する大規模な魔物討伐が今週末からスタートする。
レンガ屋の僕は関係ないけど、予報屋は関係するかもと思っていた。
「その魔物討伐に参加するチームのひとつに、レイド・イエローというのがある」
「あ、知っています」
予報はマセット達がそこに入るのが良いと出ていた。
「そのレイド・イエローが討伐のための拠点づくりをしているんだが、遅れていてな」
「あれ。そんなこともしているんですね」
「土木ギルドに応援依頼が来ていて。だけど困ったことに人手が足りないんだ」
「そういえば、最近、あんまり他の人見ないですね」
「実は、ギルドメンバーで来ていない職人がずいぶんいるんだ」
元々、毎日働いた分だけの賃金をもらうタイプの仕事。
来たり、来なかったりするのは、珍しくない。
逆にジュートみたいに日曜以外毎日来る方が珍しいのだ。
「えっと、前からそういう人、多くなかったですか?」
「そうじゃなくて。登録している30人のうち20人がほとんど来なくなっているんだ」
「それは人手不足になりますね」
「その上、急ぎの仕事が入ってしまった。レイドイエローから」
「どのくらいの仕事なんでしょう?」
「4日でレンガ2万個分だ」
「そりゃ、無理だ」
普通の職人だと1日500個。4日で2万個というと、毎日10人の職人が必要になる。
「ジュートさんのレンガ積みの速さと子供達の協力でなんとかならないだろうか?」
「保証なんてできませんよ」
「やってくれるのか?」
「だって、やらないとレイド・イエローが討伐できないじゃないですか!」
討伐というのは、街にとって重要な行事だ。
それができないとなると、街の安全に関わる大きな問題だろう。
「でも、なぜ今頃、そんな話になるんですか?」
「どうも、レイド・イエローは内部分裂が起きてぐちゃぐちゃらしい。本来、討伐に参加する人達が協力しあって完成させるのが手つかずになってしまったんだ」
まぁ、事情はともかく。
やるしかないってことだな。
「しかし、子供達はまた増えましたね」
「ああ。急ぎの仕事だからシバ君たちにも言って友達を誘ってもらったんだ」
「それでこんなにたくさんいるんですか」
「指導は大丈夫か?」
「もう慣れたから大丈夫なはずです」
まずは、シバ君に話しかける。
「いいか。今日から4日間でレンガを2万個積まないといけません。できますか?」
「もちろん。師匠が受けた仕事なら僕らもがんばらないといけないよね」
「そうですね」
うん、子供達はやる気だ。
なんとかなるかもしれない。
子供15人を連れてレイド・イエローの拠点づくりの現場に来た。
現場は魔物の森から200mほど離れた場所。
200名のレイド・メンバーがすべて入れるように大きなレンガ造りの建物を造っている。
シェルターと呼ばれる建物で、森から魔物に追われたときに逃げ込む場所だ。
それがないと、魔物の反撃を受けると大きな被害が出てしまう可能性がある。
とても重要な建物だ。
現場に着くと、レンガがまだ1mほどしか積まれていない建築途中のものがあった。
そこには、冒険者姿の男達が5人ほどいる。
彼らは慣れない手つきでレンガ積みをしている。
「こんにちは」
「なんだ、お前は?」
「土木ギルドから派遣されて手伝いに来ました」
「それはいいが、後ろの子供達はなんだ?」
「彼らもレンガ職人です」
「おいおい、ふざけないで欲しいな。こっちは手が足りなくて困っているんだぞ。子供の相手なんてできるはずはないだろう」
「大丈夫です。僕が指導してちゃんと4日後までに完成させますよ」
「本当かよ。そんなに簡単な物じゃないだろう、レンガ積みは」
いや、あなたにレンガ積みのことを教えてもらわなくても……
だいたい、なんですか、その積み方は。
「えっと。正直に言っていいですか?たぶん、あなた達よりこの子達の方がしっかりとレンガ積みますよ」
「おー、言ってくれるな。こっちはやりたくもない仕事をされられて頭来ているんだ。その上、子供以下だと。喧嘩売っているのか?」
「そうだよ。僕たちの方が絶対レンガ積みうまいよ。おじさん達下手だね」
「ちょっとシバ君。言いすぎだよ」
おじさんと呼ばれた25才くらいの冒険者さん。
まだおじさんの認識がなかったからショックだったらしい。
その上、子供にバカにされてうとう頭に血が上ってしまっようだ。
「よく言ったなクソガキ。それなら俺と勝負するか?」
「あ、ちょっと待ってくださいよ。子供にケンカはダメですよ」
「喧嘩じゃないさ。勝負だ。どっちが綺麗に多くのレンガが積めるか勝負で決めよう」
「いいよ。おじさんになんか絶対負けないから」
「僕だって勝てるよ、こんなヘナチョコなレンガ積みするおっさんなんかに」
ヤバイ。シバ君だけじゃなくて11歳の子にもそんなことを言われて、完全に怒ってしまった。
ここは、ちゃんとルールを決めて勝負させるのが一番だな。
勝負には、シバ君はじめ何度かレンガ積みをしたことがある子供5人が参加することになった。
冒険者もちょうど5人いる。
「よし。ハンデはどのくらい欲しいか?」
「えっと。ハンデはお互い無しってことで。子供達はまだそれほど経験ないけど、ハンデをもらうほどじゃないと思うんです」
「言ったな!それじゃ、ハンデ無しのガチンコ勝負だ」
「それでは勝負は今日、1日の積んだレンガの数で。負けた方は残りの3日間、言うことを聞くというのでどうでしょう」
「おう。子供達が負けたら、お前も俺たちの言うことを聞けよな」
「もちろんです」
本気を出した冒険者達がどのくらい積めるのか不明だけど、シバ君達もしっかりと積めるようになっているから。
本気で積むというのもいい経験だなと考えた。
ついでに言うと、みんなが本気で積めば早く終わるから、とってもいいことだしね。
「それでは、レンガ積み勝負、スタート!」
がんばれシバ君たち!




