第7話 仕事のスタイルは突き通した方がいい
「なんだお前ら。なぜ二人しか来ていないんだ?」
「知りません」
そんなの知るはずないじゃない。
別に仕事が終わったら別々の行動しているんだからさ。
「ひとりは昨日に続いて病気だと連絡があった。他の3人はどうしたんだ?」
「知りません」
だから、そんなの知らないって。
「ふたりでレンガ3000個積むことができるというのか、お前たちは」
「できません」
「それなら、どうしたらいいと思う?」
「知りません」
だから、そんなの僕たちの責任でも仕事でもないし。
昨日までだったら、どうしたらいいのかって悩んでいた気がする。
なぜか、今日は全然気にならない。
おっさん作業員を見ると、なんかあたふたしている。
監督官が困っているのを感じて、なんとかしないとと考えているのかも。
「しかしまぁ。こうやってただ突っ立っていても、仕方ないな。ふたりで出来るだけ多くレンガを積むんだ。どのくらいできるか?」
おっさん作業員、僕の顔をみている。
僕ははっきりと答えてみた。
「500個です」
「なんだと?たった500個だ? ふざけるな!」
「僕は1日500個のレンガを積んで大銅貨5枚の賃金を受け取るように言われています」
「それは、通常のときだろう?今は非常事態なのが分からないのか?」
あー、怒っている、怒っている。
そもそも、昨日が間違ったんだよな。
本来500個積めばいいだけなのに、監督官の言う通り600個積むにはどうしたらいいかって考えてしまった。
確かに土木スキルがDランクになるという良いこともあったけど、仕事としては納得できない結果になってしまった。
僕の仕事は1日500個のレンガをしっかりと積むこと。
それをはみ出すようなことしたから、納得できない結果になったんだ。
だから、今日ははみ出すことはしないで、いつもの通り仕事をすることにした。
「それで、何個、積めるのだ?」
「500個です」
「ふざけるな!昨日だって600個積めただろう。もっとできるだろう」
「500個です」
監督官がじーっとこっちの顔をにらんでいる。
おっさん作業員はあたふたしているだけで何も言えない。
「わかったよ。お前が何を言いたいのか。金だろ。多く積むなら金が欲しい、そういうんだろう?わかったよ。大銅貨7枚だそう。それで何個、積めるんだ?」
「500個です。賃金は大銅貨5枚です」
「おまえはバカか。500個、500個って。お前はオウムか何かか?同じことしか言えないんだろう」
「500個です」
「もういい!」
あーあ。監督官、切れてしまったよ。
本当に自分都合でしか考えられない人だな。
結局、この日の仕事は無くなってしまった。
監督官が帰れというなら、帰るしかないだろう。
「そういう訳でして。これから入れる現場ってありませんか?」
現場から帰った後は、土木ギルドに来ている。
そこで今起きたことを説明して、別の仕事がないか聞いている。
対応してくれているのは、いつもの受付さんだ。
20歳くらいのひょろっとした男で「受付さん」とみんなが呼んでいる人だ。
「それはひどい目にあったな。あの監督官はダメだな。前から作業員からクレームは出ていたんだよ」
「でしょうね、あれじゃ」
「あいつ、元々、奴隷の監督をしていたみたいなんだよ。奴隷だと命令すればなんとかなるからな。普通の作業員だと納得できないことを言われたら、次の日こないの当たり前だよな」
「ですよね。ただ、1日仕事がないのもつらいので、別の現場紹介してくれませんか?」
「もちろんさ。お前なら安心して任せることができるしな」
毎日500個レンガを積み続けて2年間。
多少体調が悪くてもなんとか仕事はし続けてきて、一度として休んだことはない。
もちろん、雨の日は仕事ができないけど、そんなときは日曜日に代わりにやっていた。
そんなことを確実にやっていると信用というのが付くらしくて、ちょっと難しそうな現場を頼まれることもある。
今日は僕が頼んでいるので、どんな現場でも歓迎だ。
「なにやらアトリエ付きの個人宅らしくて。設計がややこしいって予定より遅れてしまっているんだ。行ってくれるか」
「もちろん、喜んで」
なんだかんだで、2時間ほどロスしてしまった。
新しい現場に着いたらあと2時間でお昼休みになる時間だった。
「こんにちは。土方ギルドでここに来るように言われまして」
「おおっ。レンガ積みをしてくれる人だね」
「はい」
今度の監督官さんはいい感じの人みたい。
よかった。
「さっそくだけど、ここをこんな具合に積んで欲しいんだ」
地面に線を引いている。真っすぐではなくカーブを描いてS字になっている。
へぇ、変わった積み方をするんだな。
「ここがアトリエになる予定なので綺麗なカーブにしてほしいんだ」
「わかりました」
「今日だけでどのくらい積めそうかな」
「500個です」
「そんなに積めるんだ。いつもより時間短いでしょ」
「なんとかなります」
うん。昨日は500個もっと速く積めたら今日も日没までで500個積めるだろう。
変な監督官がたくさん積めと言われると嫌だけど、ちゃんと話が通じる人でよかった。
「早くアトリエ作って、錬金したいんだよ。頼んだよ」
錬金?じゃあ、このすらっとしたちょっと背が高い男性は、錬金術士かな。
監督官ではなくて、この家のご主人様か。
「任せてください。すごくきれいなカーブで積みますよ」
気持ち良くレンガ積みができるのはうれしいな。
ご主人様もいい人みたいだし。
ところがこの感じが良いレンガ積み。
何事もなく500個積むことはできなかったのだ。
錬金術士が現れた。レンガ500個積む攻撃をした。って感じかな。
錬金術士はレンガ500個を積ませてくれるのか・・・なんてね。




