第62話 黒猫予報屋は再開しました
翌日。
朝起きたら、薄い野菜スープと黒パンの朝食を食べる。
最近は夕食は宴会だったり、肉料理だったり。贅沢になっている。
だけど、いつでも前の生活に戻れる様に、朝食だけは前と同じ物にしている。
その後、土木ギルドでレンガ積みの現場を紹介してもらった。
普通のレンガ積みで、今日は700個積むことにした。
ちょっと頑張ればレンガ1000個積めるようになっているけど、今日はそこまで積まないことにした。
それは、早目にレンガ積みを切り上げて、夜の予報屋に備えるためだ。
「たぶん、お客さんがまたたくさん来ているだろう」
その対策はもうしてあった。木の棒がたくさん入った筒がそれ。
これがあればなんとなるだろう。
☆ ☆ ☆
レンガ積みを終えて、そろそろ開店する黒猫亭に向かう。
「うわぁ~。もう、あんなにお客さんが来ているのか!」
黒猫亭の前は40人くらいのひとだかりだ。
黒猫亭は開店時にお客さんが並んだりしないお店だから、すべてが予報屋のお客さんだろう。
「皆さん。予報屋のジュートです」
ひとだかりに向かって叫ぶと、歓声があがった。
「早く予報してくれよ」
「ずっと待っていたんだから」
「俺なんか昨日も来たんだぞ」
それぞれが大声で言うものだから騒音になってしまっている。
「皆さんお静かに! 今、集まっている方たちから抽選で5名だけ予報をします」
また多数の人が大声で答えてくる。
何を言っているか良く分からないが、抽選ということに文句を言っているみたいだ。
「来た順番は関係ありません。予報屋を始めるまでに来ていた人は抽選をしてください」
棒が入った筒を用意する。人数を確認して棒の数を調整する。
「はい。ひとり一本これを引いてください。赤い印がついているのがアタリです。アタリを引いた人だけ残ってください」
なんだか、いろいろと言っているみたいだが、僕の前に列ができてくる。
順番にくじを引く人の列だ。
「残念でした。また、お願いします」
ひとりひとりに丁寧に言葉をかける。
中には。
「残念でした。また、お願いします」
「おい。なんとしても今日、予報してもらいたいんだ」
「ごめんなさい。ここに来ている人はみんなそう思っているはずです」
「だから……」
「おい、いい加減にしろよ。ハズレたならさっさと帰れ!」
列の後ろから声が掛かる。
並んでいる人達はみな同じ意見みたいだ。
さすがに諦めて帰っていく。
本当のことを言うと、できるだけ多くの人の予報をしてあげたいと思う。
だけど、前回のブームのとき、それで失敗してしまった。
たくさんやろうとすると、どうしても予報が丁寧にできない。
ただ、予報を伝えるだけになってしまう。
それでは、予報を聞きにきてくれているお客さんに申し訳ない。
だから、今回は1日5人限定というのを確実に守ることにした。
一回30分で銀貨1枚。
どんなにお客さんが多くてもそこは変えない。
レンガ積みも、予報も。
無理をすると、精度が落ちて良い仕事はできない。
今の自分がベストだと思う数をしっかりと把握して、それを守る。
それが結果的には、お客さんが喜んでくれることにつながる。
集まったすべての人が抽選が終わった。
残った5人が今日の予報のお客さんだ。
順番は棒に赤い印がついている数で決まっている。
赤い印が1つから5つまで。1つの人が一番最初に予報をする人だ。
あれ?クレアさん、じゃないですか。
それも、赤い印がひとつ付いた棒を持っている。
「うふふ。当たっちゃった。こっそりとさっき引いたのよ。気が付かなかったでしょ」
クレアさんなら、わざわざ来なくて昨日言ってくれれば予報したのに。
「正式に予報してもらいたくて、来ちゃった。そしたら一番くじ。やっぱり、私達の運命は繋がっている気がする」
嬉しそうに言っている。たしかに、抽選はインチキ無しに行った。もしかして、予感スキルはアタリくじが分かるのかな。
それとも、ただの偶然? それとも、運命が関わっているのか?
「それでは、一番くじの方からお入りください」
もう黒猫亭は開店している。
ミリーちゃんが僕がたくさんのお客さんをどうさばくのか見ていた。
「いらっしゃいませ」
僕とクレアさんは、黒猫亭に入って予報屋の定位置の奥まった席に向かう。
まずは僕が座って、クレアさんに椅子を勧める。
「あらためまして、黒猫予報屋にようこそ」
「こちらこそ。ジュートさん、その服やっぱり似合うわね」
昨日買った服だ。
途中で着替えた方じゃなく、持ち帰った方だから試着以外で着るのは初めてだ。
「ありがとうございます。クレアさんのおかけです」
にっこり笑って対応した。
なぜか、ここだと綺麗な女性のクレアさんでもドキドキしない。
予報屋として、ここにいるからだろう。
「それで、どんな予報をしましょうか?」
「それなのよ。わたしのこれからの仕事に関して予報して欲しいのよ」
あの予報屋の仕事を失ってしまったクレアさん。
次にどんな仕事をしたら、うまくいくのか知りたいらしい。
次の仕事のことは予感スキルは何も教えてくれないとのこと。
これは、予報スキルでサポートしてあげないとダメですね。
再開した最初のお客さんはクレアさんでした。




