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第60話 予報屋は見た目が9割

「それで、どんな服が欲しいのかしら」


服を買いにいくと言っても、商業地区にはいろんなお店がある。どんなイメージの服なのか分からないとお店を紹介できないと言う。


「どんな服……どんな服がいいんでしょう?」


困った。いままで作業服と下着しか服は買ったことがない。

どんな服もなにも、服としか言いようがない。


「えっと。予報のお仕事の時に着る服なのよね。それは間違っていないかしら」

「はい。予報をするときに着る服です。どんな服がいいでしょう?」


全くイメージが湧かないから、逆に聞いてみてしまった。


「予報者としてふさわしい服。だけど、あのイケメン予報者みたいのは無理だと思うの」


試合でイケメン予報者が来ていたのは、真っ白なスーツにじゃらじゃら、金色の飾りがついた服だった。

まさか、あんな服、着れるはずがない。


「あれは、ちょっと……」

「もう少し、目立たない服でいいかしら」

「はい」


いくつかお店の候補があるみたいで、順番に見てみようと提案された。

僕も聞かれても困るから、実際に見ることには賛成だ。


「まずはここかしら」


あまり大きなお店ではない。

こじんまりとした男性用の服のお店らしい。


「いらっしゃいませ」


若い男性の店員さんが迎えてくれた。

だけど、一目僕をみた瞬間に顔が曇った気がした。


「この方の服を買いたいの。サイズを計ってくださいな」


また、若者店員さん、ちょっと嫌そうな顔をした。


「あのね。失礼がないようにしてくださいます?この方、有名な方なんですよ」

「えっ。有名なんて……」


彼女も店員が嫌な顔をしているのに気付いたらしい。

わざわざ注意してくれた。


「失礼しました」


ちゃんと頭をさげてくれる若者店員さん。

やっぱり、作業服でこういう店にくると、嫌がられてしまうみたいだ。


「サイズは中のものであれば、大丈夫です。こちらのコーナーが中サイズです」


棚にたくさんの服が折りたたまれて置いてある。

どれがいいのか分からないから、青いシャツを手に取ってみた。


「青、好きかしら。ジュートさんにはもう少し明るい色が似合うと思うの」


青いじゃない方がいいのか。

そう思いつつ、タグを見てみたら値段が載っていた。


「銀貨1枚と大銅貨2枚!」


高い!

だって、普通のシャツだ。

そんなにするものなのか。


いつも着ている作業服は上下セットで大銅貨3枚くらいだ。

シャツ1枚で4倍もする。


「服って高いわよね。だけど予報者をするなら、そのくらいの値段の服は着ないとダメだと思うの」

「そうかな」

「たとえば、この私が着ている服、いくらくらいすると思う?」

「銀貨2枚くらい?」

「そんなに安くないわ。銀貨5枚よ」

「うわっ、そんなに高いの?」


銀貨5枚と言えば、レンガ屋だけの頃は、2週間の生活費すべてだ。

そんな高額の服を買えるとは、クレアさんって、もしかしてお金持ちなのかな。


「もっとも、私が持っている服の中で一番高い服なの。予報屋さんに採用になったとき買ったの。人に接する仕事だから、いい服を着ないとお客さんにも失礼よね」

「そういうものですか」


これは考え方を変えないといけないのかもしれない。

予報者も接客業というのは、あの予報屋に行って感じたこと。

受付の人にしろ、彼女にしろ、確かに良い服を着ていた。


「もちろん、一番大切なのは予報が当たること。だけど、そのためには依頼者が信頼してくれてお話してもらわないといけないわけだし」

「それもそうですね。いままで、僕はただ予報が当たればいいと思っていました」


予報者って仕事は、いろんな人の人生に関わってしまう仕事。

だからこそ、しっかりとした服装も必要となるのだろう。


「ところで、予算ってどのくらい考えているのかしら」

「えっと、正直、服の値段がどのくらいするものなのか、まったく分からなかったので予算も考えていないんです」

「でも、予報屋をしているってことは、そこそこお金あるわよね。あの予報試合の賞金ももらったわよね」

「はい。僕は金貨5枚もらっています」

「そのうち、ある程度は服に使う気はあるのかしら?」

「ええ。それでは金貨2枚で、2日分の予報屋の服を揃えることはできますか?」

「それならば、十分ね」


よかった。あんまりケチだと思われるのも、イメージ悪いし。

だけど、金銭感覚、まだ、このあたりのお店に合っていないんだよな。


「その予算でこのお店で買うとすると、クレアさんならどれ選びます?」

「私が選んでいいの?」


なんかクレアさん、嬉しそうだ。

噂では、女性はお買い物が大好きだと聞いたことはある。

だけど、それは自分の買い物じゃないのかな。


「お願いしていいですか。自分ではどんな服がいいのか、全く分からないものですから」


このお店で予報屋としての僕に似合う服を選んでもらうつもりだった。

予報は使わなかったけど、結果的には、そうはならなかった。


「うん、だいたいの好みは分かったわ。次のお店に行くわよ」


えっ、ここでは買わないの?

次の店に着くと。


「このお店は色が豊富なの。その割にリーズナブルな値段でね」


お店の特徴を教えてもらった。

言われるがまま、試着してみた。


「うーん、思ったより着やせするタイプなのね。もうすこし、しまった形のシャツが似合うわね」


何着も試着してみて、その度に評価を教えてくれた。

だけど、僕にはどれがどうなのか、理解のはんちゅうを超えていた。


「やっぱり、3軒目のお店の方がいいわね。戻るわよ」


ええっ、またさっきのやたらと試着した店に戻るんですか。

店員さん、嫌な顔しないかな。


「うん、これにしましょう」


やっと、決まった。だけど、その後も二着目を探すのでお店周りをした。


綺麗なお姉さんと一緒に街を歩けるという初めての経験はすごく楽しかったけど、できたら次はお買い物はパスしたいな。


「ほら、気が付いた? 街の人達の反応。服が変わると違うでしょ」


確かに言われてみると。

作業服を着ていたときは、「なんで、おまえがここにいるんだ」って顔をする人が多かった。

店員の中にもね。


だけど、選んでもらった服に着替えてからは店の中に入ると店員さんが笑顔で迎えてくれた。


「服というのは、とても重要なのよ。とくに人に接する仕事においてはね」


そう言われてみると分かる。

いままではレンガ相手の仕事しかしてこなかったから、作業服さえあれば足りていた。


そんなことまでも、教えてもらった、買い物デートだった。


だんだんと、街の市民レベルの生活になっていく、ジュート。ちゃんと稼がないといけないね。

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