第6話 隠れファンの存在はありがたいことだ
「あ、レンガ屋さん」
翌朝。良く寝られなかった僕は早くから散歩をしていた。
そんな姿を見かけた黒猫亭のお手伝いの女の子、ミリーちゃんに声を掛けられた。
「おはよう、ミリーちゃん」
「ちょうどよかった。頼みたいことがあったの」
「なんだい?」
ミリーちゃんは普通、黒猫亭の開店準備で午後2時くらいに出てくる。
今日は朝から出ていて、なにやら下ごしらえしている様だ。
「今日は村のおばさん達と山菜採りに行くのよ」
あ、用事があるから朝から準備しているんだ。
偉いな、ミリーちゃん。
「また、予報してくれない?」
そうだった。予報屋としての依頼の最初の顧客はミリーちゃんだった。
何かするときに、予報を聞いてくれるのだ。
本当は昨日の夜も予報を聞きたかったのかも。
別の話で盛り上がっていたから聞きそびれてしまったんだね。
「山菜採りの予報だね」
「うん。いい?」
「もちろんさ」
ミリーちゃんは予報を使ってくれているファンだ。
それだけじゃなくて、いろんな話し相手になってくれるごく少ない友達のひとり。
「今日、どこに山菜採りに行くか、私が決めていいことになっているの。どこが一番山菜が採れるか予報して欲しいの」
「オッケー。じゃあ、どこに採りに行くか、いくつか候補考えている?」
「うん。順番に聞けばいいのよね」
予報というのは、「どこだと一番山菜が採れますか」みたいな質問では答えてもらえない。
「どこどこに行くと山菜が取れますか」の形で聞くとピンポーンとなる。
「じゃあ、まずはオケラ山の林に行くと春の山菜がいっぱい採れますか?」
《ピンポーン》
「すでにオケラ山の林は山菜を採りつくされてしまっているでしょう」
「あ、やっぱり。あそこは村から近くて人気の山菜スポットだからね」
「そこだとダメだね。他には?」
「オケラ山の中腹には山菜がたくさん採れますか?」
《ピンポーン》
「まだオケラ山の中腹は山菜が育っていないでしょう」
「あそこって日当たりがあんまりよくないとこだよね」
「うん。まだ早いってことね。じゃあ、とっておきの場所聞いてみようかな」
「3段の滝の近くでは山菜がたくさんとれますか?」
《ピンポーン》
「今、3段の滝の近くでは山菜がたくさんあるでしょう」
「やっぱり!去年は山菜の季節に行ったことはなかったんだけど、夏のときに泳ぎに行ったとき山菜が採れるんじゃないかって思っていたの」
「うん。そこが当りだね。たくさん山菜採ってきて、黒猫亭でも出してね」
「うん、たくさん採れたらレンガ屋さんにもサービスで出すわね」
「それは、たのしみだ」
ちゃんと予報のことを分かってくれてうまく使ってくれているのがミリーちゃんだ。
もちろん、冒険者とは違って収入が多いわけじゃないから、報酬をもらうことはできないけどね。
ミリーちゃんが予報を使ってくれるおかけで、どんなことを聞いたら予報がうまく出るのか分かって来たんだ。
なぜかミリーちゃんの予報は当たることが多い。
天気予報だと70%くらいだけど、ミリーちゃんは90%を超えている。
なぜ予報的中率に違いがあるのかは不明だけどね。
ミリーちゃんに予報して楽しい気持ちで仕事場に到着。
そうだった。
今日の仕事場は波乱の予報が出ていたんだった。
本来6人の作業員が必要な現場なのに、昨日は5人しか来なかった。
昨日一人来なかったのは病気だったみたいけど、今日はそれ以外にも来ない人がいそう。
いつもより20%多い600個のレンガを積んだのにいつもと同じ大銅貨5枚の賃金しかもらえなかったから。
たぶん、今日、頭来て来ない人が多いと予報が出てきた。
来るのが2人って予報だからなぁ。
作業開始の10分前になっている。
いつもだったら、みんな来ていて準備をしている時間。
今日まだ僕ともうひとりだけ。
昨日、最後までレンガ積みしていたちょっと手が遅い男。
たぶん40代くらいのおっさん作業員。
あと4人は来るとは思えない。
あ、監督官がやってきた。
どうなるんだろう・・・わくわく。
ミリ-ちゃんと楽しく予報をしました。監督官はどうなるの?
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