第59話 再会の予感
「あっ、あの時の……」
冒険者ギルドの前にあった予報屋で予報をしてくれた女性だ。
胸の谷間が気になる服を着ていた。今日も同じ服を着ているぞ。
「こんにちわ」
「あ、こんにちわ」
「びっくりしたわよ、昨日。トップ予報者が予報試合をするというんで観戦に行ったら、相手チームの予報者があなただったから」
「あ、はい」
「相談の仕事は向かないなんて予報しちゃって……恥ずかしいわ」
「まぁ、そのう…」
「だけど、私の予報を聞きにきたのは、敵情視察よね。ひどいわ」
「まぁ、そのう」
うーん。綺麗な女性を前にすると、まともに会話ができないみたいだ。
予報を依頼してくれた女性だと大丈夫なんだけど。
いったい何を話したらいいか、頭が真っ白になっちゃう。
「ちょっと付き合ってください。あのカフェに入りましょう」
ちょうど近くにあった、おしゃれなカフェに連れ込まれてしまった。
手をつかまれて…なんか、そのあたりがぽわっと暖かい。
「改めまして。私、クレア。お名前教えてもらえないかしら?」
「ジュートです」
それだけ答えて、その後が続かない。
沈黙。
なんか、しゃべらないと。
でも、頭が真っ白。
「ジュートさんは、黒猫亭で予報をしているって聞いたわ。噂によると予報のユニークスキルを持っているとか」
「はい」
「すごいわね。トップ予報者もあっさりと負かせちゃうくらいの特別なスキルなのね」
「えっと。まぁ」
ダメだ。会話が続かない。
だいたい、こんなカフェで綺麗な女性と一緒にいるって、まるでデートじゃないか。
そう思うと、ますます混乱してきた。
「実は、ジュートさんに謝らないといけないって思っていたの。前にね。予報を聞きにいらしたとき、いい加減なことを言ってしまったから」
「いい加減なこと?」
「相談の仕事は向かないって。あれ、まったく予報でもなんでもなくて。ただの私の意見なの」
「あ、そのことですか。僕に相談の仕事は向かないのは当たりです」
「そんな。すごい予報スキル持ちなのに」
「ただのスキルに依存しているだけだから。とても向いているとは言えません」
彼女はじーっと、僕の顔を見ている。
ダメだ。視線をそらしてしまう。綺麗な人と見つめ合うなんてできない。
「うふ。ずいぶんとジュートさんってずいぶんと謙虚なのね」
「謙虚なんかじゃないです。自分を分かっているだけです」
また、じーっと、見つめられてしまった。
やっぱり、視線をそらしてしまうなぁ。
「ね、私の秘密、知りたくない?」
「秘密?」
「そう、秘密」
「秘密って…」
「私の秘密、教えちゃうわね。私って、予報のスキルは持っていないの」
「あー。そうでしょうね」
「あ、やっぱり分かるわよね。本物の予報スキルを持っているから」
「まぁ、なんとなく」
「予報スキルは持っていないの。でもね。似たようなスキル持っているのよ」
予報と似たようなスキル、そんなのがあるのか。
いままで聞いたことがない。
「私のスキル。ユニークスキルなんだけど。それは、『予感』って言うの」
「予感スキル?」
これも聞いたことがないスキルだな。予報と予感。似た名前だけど、違うのか。
「予感は予報と一緒で未来を予想するスキルなの」
「すごいじゃないですか。予感スキルも」
「だけど、予報みたいに便利に使えないの。外れスキルよ」
「何が違うんですか?」
予報は質問をすると答える形で未来予想を答えることができる。予感スキルはいつ未来予想出るか分からないものらしい。
「だからね。予報屋になったけど、全然ダメなの」
「それは予報屋としては難しいですね」
いつ出るか分からないんじゃね。相談者は未来予想をしてもらいに来るんだから、予報が出なかったら怒りそう。
「そうよね。無理だって分かっていたのよ、予報屋なんて」
「では、なぜ、あの店で働くことにしたんですか?」
「それがね。予感があったの。私の運命の輪が廻り始めるって」
「運命の輪?」
そういう話、良く分からない。
女性の間で、結ばれる人は運命の赤い糸で最初から繋がっているという話があるってことは知っている。
だけど、運命とか、あんまり信じていないし。
「もうひとつ、秘密があってね。あのお店で相談を受けていて、一回だけ私の予感スキルが反応したことがあるの」
「あるんですね。そういうことも」
「ええ。それがジュートさんの時なの」
「えっ」
「覚えているかしら。最後にジュートさんが質問したこと」
えっと、何を聞いたんだっけな……
「あ、忘れちゃったのね。ひどいわ」
「えっと・・・」
「もしかしたら、これを言うと思い出してくれるかしら。『また、お姉さんに会うことはありますか?』ってジュートさんが質問したのよ」
「あっ。そうでした」
あのとき、なんかそう聞きたくなって、聞いたんだった。
「あの時の、私の答え。覚えていてくれるかしら」
「えっと、確か、『あなたと私は何度も会うことになる』だと思います」
「正解だわ!あの時の答えは予報じゃなくて、予感。予感スキルが反応したの」
すごい。
こうして、また会えたってことはその予感が当たってことか。
「あの時はね。ジュートさんがまた予報を聞きに来てくれるんじゃないかと期待したの。最初の常連になってくれるのかもって」
「あ、実は僕も同じこと考えてました」
「だけど、予感じゃなくて頭で考えて出した答えなのよね」
「えっと。またお店行こうかなと思っているんですけど。変装して」
「それでは無理ね。あのお店では、ふたりはまた会えることはないの。今日、私はあそこをクビになってしまったから」
なんか、嬉しそうにそんなことを言っている。クビになったのに変だ。
「もしかして。クビになったのは、僕の予報試合のせいだったりします?」
「それもあるわね。昨日の負けたことで、お店のお客さんが激減したから」
「これは……迷惑かけました」
「いいのよ。どうせ、そんなに長く働き続けることは、たぶん無理だったと思うから」
「そうなんですか」
「クビになったのは全員じゃないの。上から3人の成績がいい人は残っているわ」
「あー。成績上がらなかったんですね」
「そうなの。クビを言い渡されて、むしゃくしゃしているとき、また予感スキルが反応したのよ。さっきの場所に行くとなんかいいことがあるって」
もしかして、いいことって僕と再会すること?
「そして、分かってしまったかも。あのお店で働く前の運命の輪が廻るって予感。もしかしたら、ジュートさんに出会うことだったんじゃないのかなって」
ええーーーー。それって。なんかすごいこと言っていませんか。
考えすぎだと思うんですが。
どうしよう。
「あら。驚かせてしまったかしら。ごめんなさい。私の想像で勝手なこと言ってしまって。ジュートさんくらいの人気者なら、運命の相手は別にいるでしょうね」
「そんな。えっと」
彼女の気持ちが分からない。
そんな話をするって、僕になんか期待しているってことなのか。
でも、何を言ったらいいのか全く分からない。
「それが当りかどうかは、ゆっくり検証していけばいいのよね。あせってはダメね」
「えーと」
「私って、気が短くて、いつも失敗しちゃうの。特に予感が発動したときは」
「えっと」
「ごめんなさい。私の話ばかりしてしまって。ジュートさんのお話も聞かせて。ジュートさんはなんであそこにいたの?」
「あ、服を買おうと商業地区に向かう途中だったんです」
服が全くないこと。レンガ屋だったときは気にならなかったけど、予報屋になって、予報試合したら、自分がいかに人と会うための服がないか実感したこと。でも、作業服以外買ったことがないから、まずは下見をしなきゃと思ったこと。
「わかったわ。服を選ぶのね。それ、私がお手伝いしてはダメかしら」
おっと。カフェデートの後はお買い物デートかぁ。
いきなりのデート攻勢。どうなってしまうのかっ。
自分で、実況中継してしまいました。それぐらいテンパっていた。
この後の展開が全くイメージできないんだ。
予報のお姉さんとデートもどき。本当に運命の輪は廻るのか?




