第56話 ファイナルステージ
「いよいよ、予報試合最後のステージとなりました。どうでしょう。どちらが勝つと思いますか?」
「まぁ、順当にいけば、白馬チームでしょう。タイムではそれほど差はないですが、予報の精度が違います。最初から賭けも白馬チームの方が多いですしね」
「だけど、分かりません。仮に予報は白馬チームの方の精度が高くても、最終的には戦闘能力も関わります。最後の最後まで目が離せませんね。今は作戦タイムです。そろそろ、両チームの予報が出るころではないかと思います」
「最後の魔物は、白銀熊1頭。体長385センチ」
「出ました。白馬チームの予報。白銀熊です。それも、385センチと巨大です」
「すごい予報ですね。白銀熊ですか。B級魔物で、それも巨大サイズですから、4人のC級冒険者が力を合わせて初めて倒せるかどうか。面白い一戦になりそうです」
「どんな装備できますか?」
「たぶん、剣を中心にダメージを与える装備でくるでしょう。普通の長剣くらいですと、分厚い毛皮にはじかれてしまいます」
「魔法はどうでしょう」
「対魔法耐性を持った魔物ですから、魔法使いはあまり役立たずでしょう」
「最後の魔物は、キラービーが10匹だ」
「おっと、黒猫チーム。全く違う予報が出ました。いままでは似たような予報だったんですが、今回は全く違う予報になりました」
「キラービー、ですか。それも10匹。キラービーというのは、名前の通り、蜂型魔物です。大きさは猫くらいのサイズです。大きいのに速度が速い魔物ので、当然飛びますから戦うのが難しいでしょう」
「だけど、蜂ですよね。それも猫サイズの。いくら10匹いたとしても、あの両チームなら余裕ではないんですか?」
「戦闘力自体はそれほど強くはないんですが、怖いのが麻痺です。刺されると50%以上の確率で麻痺します。10匹同時に飛び掛かられたら、危険ですね」
「だけど、麻痺なら回復士でなんとかなるんではないですか?」
「残念ながら、キラービーレベルの麻痺を治せる回復士は両チームともいません。エリア魔法が使える魔法使いの方が良いでしょう」
観客はざわざわしている。どっちの予報が当たるのか。それで勝負が決まってしまう。
いままでが、似た様な予報だったので、予報よりも戦闘チームの作戦の違いで差が出ていた。
ファイナルステージでやっと、本当の予報試合になったのだ。
「それでは、おふたりの予報者さんにお越しいただきました。おふたりはまだ相手の予報を知らない訳ですね」
「「はい」」
「それでは、発表します。白馬チームの予報は、白銀熊1頭。体長385センチです」
「そんなバカな!」
ジュートはつい思ったことを口にしてしまう。
なんで熊になるんだ?
蜂でしょう。
「続いて、黒猫チームの予報です。キラービーが10匹です」
「はははーーっ。面白い予報を出しますかね。もしかして、ヤケクソって奴ですか?」
イケメン予報者が余裕の顔で言う。
「なんでファイナルステージが蜂になるんですか。そんな小物よりでかい熊の方が盛り上がるじゃないですか」
「えっと、それはそうなんですが。だけど、予報は蜂なんです」
「そんな精度の予報で冒険者に予報をしていたりするんですか。もし間違ったら死が待っているんですよ」
上から目線で言うイケメン予報者。
まるで、ファイナルステージの魔物を完璧に分かっているという感じだ。
「まぁまぁ、おふたりとも。勝負はファイナルステージが始まってみれば分かりますので」
「ちょっと待った!」
いきなり、乱入してきた人がいる。
この予報試合の主催者だ。
「ええっ、なんですか?主催者さんですよね。今は実況中継中なので・・・」
「もちろん、分かっているがな。ファイナルステージが始まる前に、観客の皆さんに知ってもらいたいことがあるんだ。これにしゃべればスタジアム全体に伝わるんだよな」
「そうです。では、どうぞ」
「今回のファイナルステージは、実はシークレットモンスターという趣向を用意してあります。第二ステージまでは、登場するまで魔物は控えの檻の中で待機していました」
「はい。では、ファイナルステージは違うんですか?」
「違います。今、まさにスタジアムに運びこまれているのが、ファイナルステージの魔物です。今、ステージ中央に向かって進んでいます」
「あ、あれですね。しかし、なんか変な靄がかかっていませんか?」
「はい。あれは、完全隠匿の魔法です。外からは絶対中は覗くことはできません」
「なんで、そんな面倒くさいことをしたんですか?」
「それは、どこからか、情報漏洩が起きたり、隠されている魔物をスキルや魔法で覗かれる可能性があるからです」
「なるほど。それだと、予報じゃなくなりますね」
「その通り!予報は未来を観ること。どんな隠匿をしていても、未来にはその姿は明らかになるんです。予報が当たっているかどうかの試合なら、この方法が一番差が出ると企画しました」
イケメン予報者さん、顔が真っ青だ。
唇がぶるぶる震えている。
「インチキだ!じゃあ、元々あったファイナルステージと書いた檻に入っている魔物はなんだ。それぞれの予報を聞いた後、後だしで魔物を替えるなんて、ただのインチキじゃないか!」
観客の中からも、「インチキだ!」と声が多数上がる。
きっと、白馬チームに賭けている観客だろう。
「あ、それも、そうですね。まずは、あっちのファイナルステージと書いてある檻を開けてみましょう」
檻が開いて、係員が中に入る。
「見ての通り、あの檻には何も入っていません。あれは、ダミーですから」
「そんなの、インチキだ。八百長をしたんだろう」
ぶるぶる震えて、イケメンが台無しになっている。
「まだ、結果は分からないんですから。あのシークレットモンスターが何なのか。開けてみるまでは。実は主催者の私ですらも、あれが何か知らされていません。今日の朝、捕獲されたばかりのモンスターです。このスタジアムにいる誰一人として、あれが何なのか分かる人はいません。いるとしたら、本物の予報者でしょう」
観客が一斉に、ジュートに注目した。
ジュートは、あれが、キラービーだと信じている表情だ。
対して、イケメン予報者は蒼い顔だ。
観客は、どちらが本物の予報者だか、分かってしまった。
「結果は最後まで分かりません。いよいよ、時間になりました。ファイナルステージが始まります」
「いやー、緊張しますね。白銀熊とキラービーでは装備が全く違いますから。予報が当たっているチームが勝つのは当然でしょう。つまり、このステージは、シークレットモンスターのゲートが開いた瞬間に決まるでしょう」
「さてさて、熊が出るか、蜂が出るか、いよいよゲートが開きます」
観客は誰も言葉を発しない。
完全な静寂が訪れる。
「ゲートが開きました。蜂です。大きな蜂が飛び出してきました!」
ファイナルステージは、白馬チームが全員麻痺でリタイヤになって、黒猫チームが勝利した。
☆ ☆ ☆
「カンパーイ」
予報試合の日の夜、黒猫亭で、予報試合の祝賀パーティが開かれた。
参加した黒猫チームの7名が集まっている。
最初に声を上げたのは、セシルだ。
「いやぁ、面白かったわね。イケメン男。最後の最後まで『インチキだ』と騒いで衛兵に連れていかれてしまったわね」
マセットが答える。
「あれは当分、まともな生活ができそうもないな。ああいう、かっこつけ男は無様な負けを経験すると立ち直るのに苦労するからな」
「いい気味よ。あの男に予報に騙された冒険者、何人もいるのよ。あの甘いマスクで、『あなたなら、きっと大丈夫』なんていわれてぼーっとした女冒険者が暴走して、大変なことになっているのよ」
「そういうけどさ。セシルだって、ああいうイケメンは、好意持つんじゃないの?」
「冗談じゃないわ。私より弱い男なんて。ごめんだわ」
「だけど、最後の最後までドキドキしたぞ。やっぱり、予報屋と言えばジュートしかいないな」
「そうそう。みんなでジュートにお礼を言いましょうよ。ありがとうっ」
「「「「「「ありがとう」」」」」」
《感謝ポイント103を獲得しました。次のランクアップまで653感謝ポイントです》
うわっ、みんなすごい盛り上がりだから、話に入れないでいたらいきなりお礼を言われてしまった。
それも、すごい感謝ポイント。
本当にみんな、あのフェイク予報屋には困っていたのだろう。
「遅くなってすいません」
黒猫亭に走りこんできたのは冒険者ギルド長さんだ。
ジュートに前に来て言う。
「早く来たかったんですが、仕事があって。一言、お礼だけ言いに来ました」
「わざわざ、すいません。忙しいなら別の日でも良かったんですが」
「何はともあれ、これでインチキ予報屋に騙される冒険者が減ります。ありがとうございました」
《感謝ポイント500を獲得しました。次のランクアップまで153感謝ポイントです》
うわっ、すごい感謝ポイントだ。
やっぱり、組織の長ともなると、抱えている物が違うな。
感謝の重みが違う。
賞金の金貨20枚のうち、金貨5枚。
合計603感謝ポイント。
得るものがたくさんあった、予報試合だった。
しかし、当然ながら翌日からの黒猫亭の予報屋は。
大変なことになるのだが。
そのことは考えないことにしているジュートだった。
MVPは、イベント主催者さんです。
怪しい情報屋がやっている予報屋だから、当然、何か仕掛けてくると予想して、対策をしていました。




