第54話 予報試合の第1ステージ
「始まりました!今、話題の予報屋のトップ2が直接対決!勝つのはどちらだ」
予報試合は街の外にあるスタジアムで行われる。
普段は1000人収容のスタジアムだが、今日は追加席が用意されていて1200人収容になっている。
空き席は全くなく完全に満席状態。
司会者と解説者がスタジアムの放送席に座って進行役をしている。
もうひとり、なにもしゃべらないけど、放送席に座っているおっさんがいる。
彼はユニークスキル《放送》の持ち主。
この放送席で話されている内容をスタジアムに来ている人すべてに音声で伝えることができる。
こっちの世界のマイクとアンプとスピーカーがひとりでできてしまうスキルの持ち主だ。
「解説は、いつもの通り剣闘士評論家のクラッキーさんに来ていただきました。よろしくクラッキーさん」
「こちらこそ、よろしく。いやぁ、楽しみですね。予報屋対決」
「はい。普通の剣闘士試合と違って、今回はチーム戦です。それも予報屋をしている人が指示を出す形です。そのふたりの予報屋のことを教えてくれますか?」
「はい。白馬チームの予報屋は今や飛ぶ鳥も落とすと言われている大人気予報屋で、冒険者ギルドの斜め向かいにお店があります」
「そのお店、知っています。どでかい看板が出ているので知っている人も多いでしょう」
「その予報屋は、12人の予報をする人がいて、今回はそのなかでも一番人気のジェイミーが予報を行います」
「だいたい、予報というのは当たる物なんですか?」
「噂では、当たるという人もいれば、あんなのインチキだという人もいます。どっちが正しいかはあなたの目で確かめてください」
「それはたのしみですね。もうひとつの黒猫チームの予報屋はどんな人なんですか?」
「そちらは、黒猫亭という酒場で冒険者向けに予報をしているジュートさんです」
「えっと、酒場で予報しているんですか?ひとりで?」
「はい。酒場の端っこで予報をしています」
「なんか、地味な感じですね。ジェイミーに勝てるんですかね?」
「そもそも、予報屋を始めたのはジュートが最初です。ジュートが人気が出てきたので、あの予報屋ができたんです」
「すると、黒猫チームのジュートの方が元祖予報屋だというんですね。今、人気の予報屋に元祖予報屋が対決を申し込んだ。ってことですか」
「まぁ、ざっくり言うと、そうなりますね」
放送の内容は、スタジアムに設けられた予報室にも流れている。
今、予報室はジュートと、マセットがリーダーの6名の冒険者チームがいる。
「さて、始まりましたね、ジュートさん。最初のステージの敵の予報からいきますか」
「はい、マセットさん。質問してください」
「第一ステージの敵はどんな奴らでしょうか?」
《ピンポンパンポーン》
「5頭のオークでしょう」
「第一ステージの予報は、5頭のオークよ」
セシルが予報室に置かれた銀色の魔石に話すと、それが放送スキルによって、スタジアム全体に伝わる。
「黒猫チームの予報は、5頭のオークと出ました。どうなんでしょう、戦力として」
「はい、第一ステージの戦力はC級冒険者が4名です。オークはC級モンスターですから、1頭多い分、どうしたらいいか、が作戦の立てどころでしょう」
「ただ、それは予報が当たった場合ですよね。外れたらどうなるんでしょう」
「それがこの予報試合の面白いところです。予報を聞いて、メンバーと装備を選ぶんです。もし、予報が全然違ったら、いきなりピンチになってしまいます」
「それはどうなるか展開が気になりますね」
「第一ステージの予報は、オーク。6頭だ」
「白馬チームも予報が出ました。こちらもオークです。ただし、5頭ではなく6頭」
「ほぼ同じ予報ですね。同じようなメンバー選抜、同じような装備になると思います」
「すると、あとは冒険者達の力量の差ですか」
「そうなりますね」
「今、予報者のおふたりが放送席に到着しました。予報が終了ししだい、放送席に来るようになっています。よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
僕とイケメン予報者は放送席に座る。
観客席からよく見える場所だから、すごく緊張するなぁ。
「黒猫チームは、オーク5頭、白馬チームはオーク6頭の予報です。自信のほどは黒猫チームさん」
「えっと、だいたい合っていると思います」
「白馬チームさんは?」
「もちろん、合っています。私の予報ですから。1頭でも違うような予報など出したりしませんよ」
「おおっ、いきなりの完璧発言です。さて、第一ステージは今、始まろうとしています。魔物のゲートがオープンしました」
うおーーーーっ。
「すごい歓声ですね。ゲートからはオークが飛び出してきました。予報は当たりですね」
「はい。最初はオークというのは、魔物試合の定番でもあります。そうなると、頭数が気になりますね」
「6頭ですよ。私の予報がそう告げていますから」
「数えてみましょう。1…2…3…4…5、5頭か………いや、もう1頭いた、6頭、もう終わりか。6頭です。すごい、白馬チームの予報完璧です」
うわっ、当てられてしまった。
僕のもだいたい当たってはいるけど、ドンピシャだと霞むなぁ。
「やりましたね。白馬チームさん」
「まぁ、当然の結果です。予報というのは完璧だから意味があるのです」
「すると、1頭違うというのは、ダメですか」
「ダメですね。ありえません。そんな外し方するなら、予報なんてしない方がいい」
むかつく。当たったからと言って偉そうだ。
だいたい予報なんていうものは、そんなに確度高くないんだから。
Dランクになって確度あがったけど、それだって外れることはある。
「予報はあまくで予報です。冒険者の場合は、予報を参考にした上で冒険をするように言っています」
「そういうものなんですようか?白馬チームさん」
「ははは。あんまり自信のない予報者ならそういうかもしれませんね」
イケメン予報者は、僕をガン見しながら言う。
本当にむかつくやつだ。
「さて、試合は中盤に差し掛かっています。おや、両チームに差が出ています。白馬チームがもうオークを3頭倒しています。ほとんど損害無しです」
「それはすごいですね。メンバーより多いオークだと苦戦してもおかしくないんですが」
「白馬チームの力量でしょう。ちなみに4名のメンバーは、剣士3名、魔法使い1名です。これは黒猫チームも一緒です」
「どちらも、剣士が前衛で壁になりながら、後衛の魔法使いが魔法攻撃する作戦です。冒険者ならオーク戦は慣れている感じですね」
「今は、白馬チーム、残りオークが2頭。黒猫チームは4頭です」
マセット達、ちょっと遅れているな。まぁ、大丈夫そうだけどね。
あせらずに倒して欲しいな。やっぱりダメージを受けるとこはあまり見たくないし。
「やりました。白馬チーム、オークを2頭一気に倒しました。開始から3分15秒です。黒猫チームも善戦しています。あと、1頭。包囲しています。今、最後の1頭を倒しました。時間は4分5秒です。その差50秒です」
予報勝負の最終勝敗はそれぞれのステージで掛かった時間を合計して速い方が勝ちになる。
途中で全滅できないことがあれば、そのステージまでで敗退が決まる。
まずは、50秒差か。まだまだ、いけるぞ。
予報試合が始まりました。相手チームの予報者は嫌な奴でした。




