第45話 予報依頼のお客さんが大群で現れた
「あ、来た来た。良かった」
「ん?ミリーちゃん、どうしたの?」
黒猫亭に入ったら、いきなりミリーちゃんが言う。
なんか、あったのかな。
「予報屋のお客さんがたくさん来ていて」
「なんとなぁ~」
確かに予報屋のお客さんだと思われる人がたくさんいる。
元々、黒猫亭は常連ばかりのお店だから、知らないお客さんはほとんどいない。
それなのに、今日のお客さんは常連以外にも10人以上いそうだ。
「整理札を作っておいたの。前回、予報が受けられなかった人が先で、後は先着順で整理札を配ってあるわ」
「うわ、ありがとう。助かる」
「だけど、もう10番まで整理札を配ってしまっていて」
「すると10人も予報を待っている人がいるってこと?」
予報屋は銀貨1枚で30分。1日5人と決めていた。
だから、整理札6番以降の人は、明日になってしまう。
「1日5人まで、と言ったんだけど。もっと予報をしてほしいと言われてしまって困ったの」
「どうしよう。お店が終わるまでだと3時間だよね。さすがに僕も食事したいし」
困ってしまった。
前回は5人だけ予報したんだけど、今回は5人だと今の時点で明日の分も売り切れになってしまう。もしかしたら、まだ後から来る人もいるかもしれないし。
「それで、半分の15分にして、今日10人予報してくれないか、ってみんなで話していたの」
あら、そんなことが決まっていたのか。
30分かけてしっかりと予報したいけど、さすがにそれだと待たせてしまうことになる。
「わかった15分にしよう。ひとり15分で大銅貨5枚ってことで」
「値段は銀貨1枚でいいってみんなが言ってるわ」
「えっ」
時間だけ半分にして、料金は同じ。
そんなことしていいのかな。
「元々、安すぎだって、言ってるわ。だから、15分銀貨1枚にしてほしいって」
うーん、そんな。だって、1日10人予報したら、銀貨10枚、金貨1枚になってしまう。
そんなにもらっていいのかな。
「今日は、それでやって欲しいって。もし、明日が待っている人が少なかったら30分にすればいいじゃない」
「それもそうか」
どうも、僕は値段を決めるのが苦手だ。
レンガ屋だと相場っていうものがあるから、心配ないけど予報屋は僕しかいないから、相場なんてないし。
「それじゃ、今日の予報屋は15分で銀貨1枚。それで良いって人だけにしよう。整理札1番の方」
「おうっ」
真っ赤な鎧を着たおっさん。
昨日来て、整理券をもらっていた人だ。
「俺はB級冒険者パーティのリーダーだ。予報して欲しいのは、新しいメンバーのことだ」
「新しいメンバー?」
「ひとり欠員が出たから、補充をするんだが、候補者が3人いてな。どいつがいいか予報して欲しいんだ」
「ええっ。B級パーティのメンバー選択ですか。責任重大じゃないですか」
「もちろん、予報の通りに決めるとは限らない。最後は俺が決める。ただの参考意見だ」
「わかりました」
ひとり、ひとりの名前をあげてもらって予報をする。
単純に「誰がふさわしいか」の様な単純な質問ではなくて、この人をメンバーに迎えたら起きる可能性があることを確認していた。
「やっぱり、こいつは無理だな。危機的状況で怯むなんて」
「協調性はやっぱりこいつが一番か。だけど、スキルでいうと・・・」
赤い鎧のおっさん。悩んでいるな。
「すいません。そろそろ時間になるんですが」
「わかった。最後にひとつだけ行くぞ。俺のライバルになるのは、どっちだ」
《ピンポンパンポーン》
「候補Bの剣士でしょう」
「よし、そいつに決めた!」
おおっ、ライバルになる男を選ぶのか。
赤鎧のおっさん、かっこいいな。
「はい。次の方、2番の整理札の方」
ひょろっとした、フォーマルな服装の男が手を挙げた。
ゆっくりと歩いてくる。
「私は、交易の商会をしていまして」
「あ、商会の人でしたか」
僕も成人する前は商会に入って商売したいと思っていたんだよなぁ。
「今、大量に仕入れようとしている商品がありまして」
「はい」
「中級ポーション・ネオって商品なんです」
「中級ポーションというと、ヒーリングの、ですよね」
「そうです。ご存じの様に、今、この街では中級ポーションが足りません」
「はい。聞いています」
今、錬金術士さん、月向草で中級ポーションをたくさん作っているはず。
それができても足りないって言っていたな。
「その代わりになる商品がありまして、それが中級ポーション・ネオです」
「えっと、同じポーションなのですか?」
「いえ。レシピは全然別のポーションですが、効果はちょっと落ちるけど似ています」
「ちょっと落ちる・・・値段は同じくらいとか?」
「値段は3割ほど安いんです。今ではなく普段の中級ポーションの値段に比べて」
「そうなんですか。売れそうですね」
「だけど、新しい商品だから、売れるかどうか心配で」
「それなら予報してみましよう。質問してください」
「えっと、これから中級ポーション・ネオを仕入れてこの街で販売しようと思っています。ちゃんと売れて儲かりますか?」
《ピンポンパンポーン》
「飛ぶように売れて、大儲けできるでしょう」
「ありがとうございます。早速、仕入れします!」
それだけ言うと、黒猫亭から飛び出して行った。
3分くらいしか予報していないのに。
もちろん、銀貨1枚は先にもらっているけどね。
この日はそんな感じで全部で10人。
冒険者だけじゃなくて、いろんな人がいろんな相談をした。
中には恋愛相談をした人がいて、まったく脈無しって予報で泣きながら帰って行った。
人の気持ちはどうしようもないよね。
10人終わった後、エールを一杯と、かつ丼という極東料理を食べた。
今日だけで、レンガ積みで銀貨3枚と大銅貨6枚。予報屋で銀貨10枚。
すごい高給取りになったもんだ。
おかけでくたくただけどね。
予報の話に戻りました。うまくいくかな。




