第44話 アーチ積みは匠の証拠だ
「すごいですね。アーチだらけですね」
「でしょう。だけど、あとまだ40のアーチを作らないといけないの」
設計図では、建物の周りにアーチが50あったから、今は10アーチだけできているということか。
「普通のレンガ積みなら頼める人がいるんだけど、アーチ積みができる職人さんは予約で一杯なのよ。だから、未経験だけどジュートさんなら美しくアーチを積んでくれると思いまして」
「はい。がんばります」
アーチを積むには、アーチの形をした木製の型を積む場所の下に置く。
積むレンガ自体は普通のレンガと同じだから、バルモルの盛り方でアーチになる様にするらしい。
「言葉の説明だけでは、良く分からないわよね。最初は私が積んでみせるから見ていて」
「はい。お願いします」
アーチ積みをする時は、レンガの横の小さい方。小口と言うんだけど、そこにバルモルを盛る。
これが均等にならないと、綺麗なアーチは完成しない。そんな説明をしながら、ミシェットさんが積んでいく。
ひとつのアーチには30個のレンガを積む。
ミシェットさんが積んだアーチはすごくきれいだ。ただ、ひとつのアーチを積むのに2時間も掛かっている。
「あの・・・アーチってそんなに時間が掛かるものなんですか?」
「えっ、私のスピードは早い方じゃないわ。だけど、特別遅いってこともないから」
「あ、すいません」
「いいのよ。レンガを積むペースは人それぞれだから」
もうちょっと早く、テンポ良く積んだ方が綺麗に積める気がする。
最初は1時間ペースで積んでみようか。
「それでは、ジュートさん。次のアーチをやってみて」
アーチの木型がいくつも用意されているので、そのうちひとつを選んで柱と柱の間に設置する。
柱の間は180センチらしく、木型もそのサイズで作られている。
実際に合わせてみると、柱の間と木型がぴたりと合う。
「あ、このぴったり感、気持ちいいですね」
「でしょう。柱も木型も精密に作っていますから」
これは、僕も精密に積まないといけないってことだな。
まずは、ドワーフ匠コテを使ってレンガの小口にバルモルを盛る。
どのくらい盛るのかは、ミシェットさんのをずっと見ていたから、これで間違いないはずだ。
上にあたる方を厚めに、下にあたる方を薄めに形成する。
よし、いくぞ。
ひとつ目を積んだ。近づいて確認する。ミシェットさんの積んだ分と比較する。
うん、完璧だ、さすがドワーフ匠印のコテだな。
次のレンガにバルモルを盛る。形成する。積む。
「盛る・形成・積む・完璧!」
うん、このテンポだ。
「盛る・形成・積む・完璧!」
「盛る・形成・積む・完璧!」
「盛る・形成・積む・完璧!」
5個積んでみた。ここで確認してもらおうと思ってミシェットさんを見る。
腹を抱えて爆笑している。
「えっ?」
「ごめんなさい。面白い掛け声なのね」
あ、つい、いつもの癖で口に出していたみたいだ。
錬金術士さんだと喜ぶから、口に出す癖がついていたのだ。
「あ、変ですよね。この方が僕やりやすいので」
「いいわよ、いいわよ。だいたい、すごく速いわね」
確かに速かったかも。ミシェットさんの倍速くらいだ。
「それにすっごく綺麗ね。寸分の違いもない」
あ、ミシェットさんのチェックはオッケーということだね。それじゃ、続いて積んでいこう。
「盛る・形成・積む・完璧!」
今度は一気にひとつのアーチが完成するところまで一気に行くぞ。
「盛る・形成・積む・完璧!」
「盛る・形成・積む・完璧!」
テンポがちょっとづつ上がってきている。
ひとアーチ30分ペースくらいだ。
「盛る・形成・積む・完璧!」
うん、このくらいのペースが一番しっくりくる。
「盛る・形成・積む・完璧!」
アーチの形ができてきた。
もうちょっとで完成だ。
「盛る・形成・積む・完璧!」
最後の1個。予定ではバッチリ収まるはずだ。
「盛る・形成・積む・完璧!」
よし、すっぽりとレンガが収まったぞ。完璧だ。
「ふぅ、できました。どうでしょう」
「すごいわね。スピードは速いし、テンポがいいし。そのうえ、超精密ね。レンガの間隔が全く違いが分からないくらい等間隔ね」
「ありがとうございます」
初めてのアーチ積みだったから、ちょっと緊張したけど、大丈夫らしい。
このスピードだと、今日はあと、11アーチは積めるぞ。
「それじゃ、残りは一気に行っていいですか」
「もちろんよ。一気にやって頂戴」
「盛る・形成・積む・完璧!」
テンポ良く積んでいく・スビードは同じくくらい。
違いと言えば、ミシェットさんが僕の掛け声に合わせてポーズしている。
「盛る・形成・積む・完璧!」
どうもミシェットさんが考えたポーズはしっくりこないみたいで、毎回違ったポーズをしている。
だけど、10個ほど積んだら、ポーズが決まった様で、ミシェットさんが掛け声に合わせてそれぞれ決まった4つのポーズをとる様になった。
「盛る・形成・積む・完璧!」
だんだんと周りのことが気にならない様になり、レンガだけに集中し始める。
気持ちいい。ずっーと積んでいたい気がする。
「盛る・形成・積む・完璧!」
ひとつアーチが完成する度にミシェットさんが確認してくれる。
「完璧だわ」とうっとりした声を出す。
結局、この日は12アーチが完成した。
「お疲れ様。おかげで思ったよりアーチが完成したわ」
「はい。このくらいのペースが一番きれいに積めるようです」
「私が積んだのも入れると13アーチ。残りが27アーチだから、2日で完成できるかしら」
「はい。1日16アーチは積めると思うので。2日あれば余裕です」
「よかった。ジュートさんに頼んで正解」
ミシェットさんが抱き着いてきた。うわっ、びっくり。
そういうの、免疫がないから困るなぁ。
この日は、銀貨3枚と大銅貨6枚も、もらってしまった。
どうも1アーチが大銅貨3枚が相場なんだって。
1アーチレンガ30個で、普通のレンガ積み300個分の賃金の大銅貨3枚。
1個あたりにすると、10倍の賃金らしい。
「こんなにもらって却って申し訳ないです」
「何言っているのよ。それだけすごいのよ、ジュートさんは」
そんなうれしい褒め言葉も、もらってこの日のレンガ積みの仕事は終わったのだった。
レンガを積むだけのお話だなぁ。いいのかな。こんなの書いていて。




