第4話 スキルで金儲けはどうなのだろうか
「おい。レンガ屋。おまえ、すごいんだってな」
「なんのことですか?」
居酒屋にやってくるとバッファローが声をかけてくる。
「あ、昨日の方ですね」
C級冒険者の剣士が話をしてくる。
「実は出たんです。占い通りに猛毒コウモリが」
「当たりましたか」
占いじゃなくて予報なんだけど。
当たったのか、よかった。
「占い信じて、毒消しを買っていったんです。猛毒コウモリが出てきて用心したんですがうちの魔法使いがやられてしまって」
ローブを来た女魔法使いがお辞儀をする。
きっと彼女だね、やられたの。
「闘いが終わってすぐに毒消しを使いました。おかけで大ごとにならなくて済みました」
「あなたは命の恩人です。ありがとうございました」
「いえいえ。それはちょっと大げさでしょう」
「大げさじゃないですよ。毒消しがなかったらたぶん街までもたなかったと思います」
C級冒険者パーティの5人は揃って僕に向かってお辞儀した。
なんか、うれしいぞ。予報スキルを使ってこんなに喜んでもらったことなんてないから。
「レンガ屋さん、すごいです」
「見直したぞ、レンガ屋」
バァッファローとミリーちゃんが褒めてくれる。
「いえ。大した事ないですよ」
僕がしたことは単に質問に予報で答えただけ。
その予報をしっかりと活用して対策をしていった冒険者の皆さんがすごい。
ちゃんとC級までなれる人達というのは違うんだなぁ、と思う。
「大したこと、あるわよ。今、私がここにいられるのも、あなたの占いがあったからなのよ」
「あ、占いじゃなくて予報なんですよ」
「予報?天気予報みたいな?」
占いって言葉はすぐに理解してもらえるけど、予報って言葉は分かりづらいものらしい。
だから、時々、僕のスキルを説明するとき周りの人は占いって言葉を使ったりする。
「そうなんです。僕のユニークスキルです。予報っていうスキルで正に天気予報みたいなものです」
「じゃあ、明日の天気はどうなるの?」
《ピンポーン》
「明日の天気は晴れ時々曇りでしょう」
「あ。本当だ。天気予報もできるんだ」
「でも、こいつの天気予報は当たらないことも多いんだ。的中率70%くらいじゃないのかい」
「そうそう。翌日雨だというから仕事休みだと思って大酒飲んだら晴れてひどい目にあったことあるよ」
そうなんだ。予報スキルの問題は的中率100%じゃないこと。
当たらないことも多くて、その度に文句言われてしまう。
天気予報は特に当たらないことが多くて困るんだ。
「でも的中率70%もあれば、うまく使うとすごく役立つスキルよね。予報スキルって」
「えっ。そうですか?いままで役立たずのスキルとしか言われてこなかったんですが」
「そんなことない!現に私がここに元気でいられるのは予報スキルのおかげなのよ」
ここまで予報スキルを褒められるっていうのは初めてかも。
うれしくなってしまうな。
「そうそう。忘れるところだったわ。これを受け取ってくださいな」
女魔法使いが小さな袋を手渡してくれる。
「これは?」
「今回のお礼よ」
「見ていいですか?」
「もちろん」
袋を開けると金貨が1枚出てきた。
「えっ?これは?」
「予報のお礼よ。命を助けてくれたんだから、もっと欲しいと言われてしまうかもしれないけど」
「ええーっ。逆ですよ。こんな大金」
金貨1枚。銀貨だと10枚分。大銅貨だと100枚分。
毎日500個のレンガを積んでもらえるのが大銅貨5枚。だから金貨1枚は20日分のレンガ積みの賃金にあたる。
大銅貨5枚を毎日もらって、6帖程度の部屋にベッドが3つ入った僕の寝床の料金が1日大銅貨1枚。
1日の食費として黒パンを5個買って、朝夕に露店でスープを一杯づつ買って。そんな1日の食費で大銅貨2枚かかる。
居酒屋『黒猫亭』でエール2杯とつまみを頼むと大銅貨3枚で週2回で大銅貨6枚。
週に6日レンガ積みをして大銅貨30枚をもらう。だけど残るのが大銅貨3枚。
毎週大銅貨3枚をこつこつ貯めてもう2年。すべて貯めることができていれば大銅貨150枚になるけど、いろんな出費もあるから貯金として残っているのが大銅貨70枚。
「金貨なんてもらえません!そんなに簡単に手に入るものじゃないでしょ、金貨なんて」
だいたい金貨を見たのだって数えるほど。
手に触れたのは初めてだ。
「今回の依頼はね。金貨10枚になったのよ。5人パーティで。だからひとり金貨2枚が配分なの。そのうちの半分を私の命を助けてくれた、あなたに、と思って持ってきたの」
「そんな。皆さんがすごい依頼を達成して高額の報奨金をもらったのは分かります。だけど、僕がやったのはただ予報をしただけ」
「その予報が金貨1枚の価値があったのよ。受け取って」
そんなやり取りを聞いていた周りの連中が騒ぎだす。
「もらってやれよレンガ屋。感謝の気持ちなんだから」
「それだけの価値があるって認めてくれたんだから、素直にもらうのが筋だって」
「なんなら俺がもらってやろうか?」
最後の余計な一言を言った若い男はどつかれてしまったけど。
「リーダーの私からもお願いしよう。彼女の気持ちだ。受け取って欲しい」
誰もが受け取るように勧めてくる。
いいのだろうか、受け取ってしまっても。
そんな気持ちになったとき、冒険者のリーダーが言ってくる。
「ただ、一つお願いがあるのだが」
あ、やっぱり・・・高額なお金には必ず何かある・・・そういうモノだよな。
レンガ屋の毎日の収支を書いてみました。
カツカツの生活にいきなり現われた金貨。




