第39話 感謝の言葉のパワーに気づいた朝
「ふぁ~。昨日ちょっと飲みすぎたかな」
昨日の月向草依頼の成功祝賀パーティ。
みんな明るく楽しくお酒を飲んでいたから、ついつい飲みすぎてしまった。
本来お酒が強い訳ではなく、エールなら2杯が適量で3杯飲むと飲みすぎになってしまう。
冒険者パーティの人達はお酒が強い人が多く、中でもセシルが飛びぬけて強い。
最初はエールを飲んでセシルは途中からミードと呼ばれる蜂蜜酒に切り替えて飲み始めた。
ミードはエールより3倍くらい強い酒だ。
それをぐいぐい飲んでいるから、相当強いのだろう。
「あんたもエールばかり飲んでないで、これも飲んでみなさいよ」
ちょっと絡み酒の癖があるのかな。
僕に強引にミードを飲ませようとする。
ちょっと口を付けてみたけど、強すぎて僕には無理だった。
みんな楽し気でお酒を飲みまくっていたから、僕もつられて、ついつい飲みすぎてしまった。
たぶん、エールだと4杯くらい飲んだはず。
「でも、気持ちいい飲み会だったなぁ。その証拠に酒が残っていない」
これが辛いことがあった翌朝だと、昨日くらい飲むとあと朝は起きられない。
気持ちの持ち方でお酒の入り方も違ってくるらしい。
なんでこんなに気持ち良い朝になったのか。
それは、分かっている。
飲み会の席で感謝の言葉が飛び交っていたから。
みんながそれぞれ、感謝の言葉を口にしていた。
僕に感謝だけじゃなくて、リーダーに対する感謝も錬金術士さんへの感謝もあった。
神様への感謝、産んでくれた親への感謝。
いろんな感謝があった。
感謝の言葉って、本当に気持ち良いものなんだな。
改めて、感謝の言葉が持つパワーに気づいてしまった。
「昨日、たくさん、感謝の言葉をもらった。だから、今日は僕が誰かに感謝の言葉を返したいな」
感謝する人は、誰かいないかな。
故郷の両親・・・ちょっと遠くて仕事を休まないと無理だな。
いつかきっと、故郷に帰ったとき、必ず感謝の言葉を伝えることにしよう。
今日、できたら、朝のうちに。誰か感謝の言葉を伝えられる人って、いないかな。
「あ、ひとりいた」
思いついてしまった。
土木道具屋の女性店員さん。
ドワーフ匠印のコテを買おうか迷っていたとき、値引きまでして勧めてくれた。
そのうえ、コテの気持ちも教えてくれた。
「あのコテを使ったら、レンガ積みがまた楽しくなった。これは感謝の言葉を言わないと」
そう考えたら、なんか早く感謝の言葉を言いたくなってきた。
今日も早目で家を出て、道具屋に寄ってから仕事に行くことにしよう。
「よし、そう決めたら、朝食を食べて・・・あれ。お腹空いてない。そうか、昨日思い切り食べてしまったからなぁ。今日は朝ごはんパスしよう」
ずぐに仕事へ行く支度をして、ドワーフ匠印のコテをもちろん持って。
さぁ行こう、土木道具屋さんへ。
「あら、いらっしゃいませ」
「あ、どうも」
土木道具屋の前に来たら、さっそく、昨日の女性店員さんが声を掛けてくれた。
「実は、今日は買い物じゃなくてお礼を言いに来ました」
「はい?」
女性店員さん、きょとんとした顔をしている。
あんまりお礼を言いにくるお客さん、いないのかな。
「昨日、勧めてくれたコテ、すごく良くて。レンガを積むのが早くなったし、綺麗になったし。そのうえ、仕事が楽しくなりました」
「わー、それは良かったですね」
「これもあなたがコテの気持ちを伝えてくれたからです。ありがとうございました」
「そんな。喜んでもらってうれしいです」
《感謝ポイント1を獲得しました。次のランクアップまで895感謝ポイントです》
えっ、自分で感謝の言葉を言ってもポイントって入るんだ。びっくり。
たしかに、コテを買うのに予報を使っているから、かも。
「今日も、レンガ積みなんですか?」
「ええ。今日はですね。一昨日まで積んでいたレンガの数の2倍にチャレンジしようと思います」
「えっ、2倍。大丈夫なんですか?」
「まだ、わかりません。でも、この相棒と一緒なら出来る気がするんです」
コテを袋から出して、撫でてみる。
「すごいですね。いいですね、そういうの。あ、コテも喜んでいます」
「本当ですか」
「一緒に2倍積むぞーって言っています」
「よし、頼むぞ、相棒」
女性店員さん、にこにこ笑っている。
僕もきっと嬉しそうに笑っているはず。
いいなぁ、こんな感じって。
今日は何も買っていないのに、嬉しそうに女性店員さんが見送ってくれた。
とっても気持ちがいいまま、土木ギルドについた。
だけど、土木ギルドにつくと、そんな楽しい気持ちが吹き飛ぶ話が待っていたのだった。
感謝の言葉パワーはすごいんです。




