第30話 やっぱり最初のミッションは薬草探しですか
「ちょっとお邪魔していいかな」
マグロ尽くしを食べ終わって、一息ついていた錬金術士さんが冒険者たちと僕の話に入ってきた。
「えっと、大丈夫ですよね、皆さん。あ、こちらは錬金術士さんです」
「錬金術ですか、珍しいですね。もちろん、歓迎ですよ」
C級冒険者の3人と僕、そして錬金術士さんの5人で話し出した。
「つい、話しを聞いてしまったんですが、『予報』って何ですか?」
「あれ?『予報』は知らないんですか?予報屋さんのお知り合いですよね」
「うーむ。この人は私から見ると優秀なレンガ屋さんなんです」
話がこんがらがっているので、簡単に僕の自己紹介をしてみた。
レンガを積む仕事をしていること。
錬金術士さんは、レンガを積んでいる工房の主だということ。
予報スキル持ちだということ。
先週から冒険者相手に予報屋をはじめたこと。
予報を銀貨1枚で教えていること。
「もしもし?なんで予報が銀貨1枚なんです?」
「ですよね。ありえない値段だと思いますよね」
冒険者と錬金術士さん、意見が一致している。
「だって、その予報によって命は救われるわ、報酬はゲットできるわ。すごく効果があるものですよね」
「そうなんですよ。僕らだとまだC級なので金貨1枚と言われてしまうときついというのはあるんですが、銀貨1枚は格安ですよね」
「ありえない」
錬金術士さんは、どのくらいのランクなのかは分からないけど、きっとC級より上な感じがする。
「だけど、レンガを1日かけて500個積んで大銅貨5枚ですよ。銀貨1枚だと2日分の賃金です。決して安くないでしょう」
錬金術士さん、ちょっと困った顔をしている。
「えっと。私の立場だといいづらいとこあるんだけど。そんなスキル持っているなら、レンガ積む必要なんてないってならないの?」
「レンガ積むのは天職なんです。やめる気はありません」
「私からするとレンガ積みを頼めるのはうれしいことだけど・・・」
錬金術士さん、頭がぐるぐるしているみたい。
複雑に考えすぎている気がする。
「あ、そうそう。その話はおいておいて」
「はい」
「聞きたかったのは、薬草の話なんだ」
「薬草?」
あ、錬金術士さんって、もしかしてポーションを作るのかな。
だから、冒険者さんに薬草探しをしてほしいとか。
「薬草のある場所は予報で教えてもらえるんだろうか?」
「錬金術士さん。薬草くらいなら予報がなくても見つけられますよね」
冒険者のリーダーが言う。
「あ、ごめんな。薬草と言っても、特別な種類の薬草で月向草なんだ。中級ポーションに使う薬草。ほら、そろそろ、秋の討伐が始まるからね」
「あ、そうか。秋の討伐に向けたポーション作りをしているんですね」
秋の討伐というのは、11月の初旬から2週間に渡って実施される魔物の森の大規模討伐。
街の冒険者ギルドに登録している冒険者のうち、D級以上は基本的に参加を強要されるイベント。
冒険者じゃなくても、錬金術士だとそれに向けた錬金アイテムを作ることが強要されるのだ。
「そうそう。中級ポーションを頼まれているんだけど、素材の月向草が足りなくて採取の依頼を出しているんたけど、あまり集まらなくてね」
「あ、噂で聞いています。私達はもう薬草集めはしないけど、D級のパーティが依頼を失敗したと言っていました」
薬草集めはF級くらいの冒険者の仕事だと思っていたけど、中級ポーション用になるとD級でもうまくいかないほど難しい。
「いえね。いつもなら採取できるはずのポイントで、まったく見つからないって報告がきているんだ」
「それはお困りですね」
「ポーション不足は、討伐の犠牲者増加につながるから避けたいことだ」
「それは大変だ。討伐に参加する側としても、なんとかしてほしいこと」
みんなの目が僕をみている。
「わかりました。予報をしましょう。銀貨1枚です」
「やっぱり銀貨かい」
みんなあきれているけど、値段は簡単に変えない方がいい。いちいち相手によって値段を交渉するのは僕には荷が重いし。
「それでは、銀貨1枚を出して質問をお願いします」
この予報が大きな流れにつながる第一歩になるとは、誰もこの時は気づいていなかった。




