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第3話 監督官はケチな奴が多いのか

「今日はひとり病気で来れない奴がいる。お前らいつもより20%多くレンガを積むように!」


ええっー。500個ではなく600個?

そんなの無理だ。


何と言っても2年間ずっと1日500個積んできた。それをいきなり100個増やすなんて。


「お前らの仲間が病気で苦しんでいるんだ。代わりにがんばるのが筋だろ」

「でも、いままでの監督官は自分の分だけやればいいと言われてました」

「他の奴のやり方なんて知らん。とにかく全員でちゃんとやるんだ」


そう言うと監督官はこの現場から次の現場に行ってしまった。


どうもこの監督官。予定通りやるのが好きなタイプらしい。

僕も自分の分は予定通りやるのは好きだからわからないでもない。

しかし、このやり方はまずいだろう。


「さて困った。1日で600個か」


作業時間を延ばすのは無理だ。日没になってしまうから見えなくなってしまう。

同じ時間で600個積むには、スピードを1.2倍にするのか。

待てよ、それだと早くやろうとして雑になってしまうかもしれない。

作業中チェックをいつもよりしっかりとやらないと。

さらにやり直しが起きる可能性があがるから、スピードは1.5倍にしないと間に合わなくなる。


「今の僕でスピード1.5倍でレンガ積みできるのかな?」


《ピンポーン》


「無理なくできるでしょう」


本当か!やったことないけどできるのか。

まずは試しでやってみる。いつもより動きを早くしてちゃちゃっと。


レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!


連続で5つ積んでみた。確認してみると、なんと綺麗に積めている。

 

「やってみるとできるもんだな」


レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!


5個積んだら確認。この形で30個を積んでみた。時間が25分。

これなら予定より早く終わるかも。


レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!


いつもよりスピードが速いから集中してレンガ積みと確認をしていく。


レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!

レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・レンガ・確認!


「これで600個完成です」


《土木スキルDランクになりました》


なんと!早く積んでみたらスキルアップしたらしい。びっくり。


日没になるまでまだ1時間もある。しっかりと最終確認をしてもクオリティは落ちていないことを確認する。


「さて、他の人はどうでしょう」


どうみても日没まで終わらない人、雑になっている人。

それぞれだけど、もう終わった人はいない。


「おい、もう終わったのか。早いな」

「さすがはベテランだ」


この仕事を2年間ずっと続けているのは僕しかいない。

大抵は半年もすると辞めていく。仕事がない人が一時的にやる仕事だと思われている。


「終わったなら、手伝ってくれないか」

「ごめん。他の人のは手伝わないと決めていまして」


前に一度、手伝ったとき。不良個所が出てどっちが積んだか問題になったことがある。

自分が積んだ分は仕上がりを見れば分かるのだが、認めてもらえず責任があいまいになってしまった。


だから、自分の分は自分で。それがポリシーになっている。


「あ、そこ。はみ出していますよ」

「分かっているよ。ちゃんと直すから」


いけない。いけない。時間が余るとつい余計なこと言ってしまう。

それが嫌で500個をジャストで積めるようになったんだった。


「どうだ?順調か?」


残り1時間になった頃、監督官が見まわりに来た。いつもより多いノルマだから気になったのだろう。


「お、お前はすでに積み終わったのか。速いな」

「はい。600個を積みました」

「ほら、ちゃんとできるだろう? 他の奴らもサボらずやれよ」


サボっていないって。いつもより多いから大変なだけだ。

だけど、それだけ言うと監督官はまた出て行ってしまった。


ちょっと気になったので予報に聞いてみた。


「もし僕が2倍のスピードでレンガ積みしたら、うまくできるのか?」


《ピンポーン》


「無理なくできるでしょう」


本当かよ。じゃあ、もっと早くしたら?


「もし5倍のスピードでレンガ積みしたら、うまくできますか?」


《ピンポーン》


「品質が低下して体力の限界になるけど、なんとかできるでしょう」


そんなにできるものなのか。だけど品質が落ちるからやらないけど。

品質が落ちないで出来る限界を知るために予報を何度か繰り返してみたら。

3倍まではできると分かった。


2年間レンガを積み続けていたら、ずいぶんとスピードがあげられるようになっていたらしい。


「そろそろ時間だぞ。終わっていない奴はいないだろうな」


いつも手が遅いと言われている男がまだ終わっていないけど、暗くなる前には終わるだろう。

僕も含めて5人はレンガ600個積みを成功させていた。


「それでは今日の日当を渡すぞ」


今日はいつもより日当がいいから、居酒屋に行こうかな。


「ごくろうだった。日当の大銅貨5枚だ」

「えっ、6枚じゃないですか?」

「日当は5枚と決まっている。知っているだろう」


あ、この監督官。一人分ガメる気だな。


「おかしいだろう。600個積んだんだから6枚だろう」

「日当は5枚と決まっている。ちゃんと言ってあるはずだ」


他の男も抗議したけど無理ぽいな。

この監督官、自腹を肥やすことしか考えてないんだろう。


「また、明日がんばってくれ」


この監督官、ダメだな。明日、本当に全員揃うと思っているのだろうか。

半分は来なくなる。僕の予想ではそうなる。

ちゃんと作業員とコミュニケーションできない監督官はダメになる。

こいつは新人なのだろう、きっと。


「明日、何人の作業員が来ますか?」


《ピンポーン》


「全部で2人来るでしょう」


僕ともうひとり。

それで6人分の仕事はできないな。


どうするつもりだろう。この監督官。

まぁ、僕には関係ないことだ。なんかむしゃくしゃするから、また居酒屋に行くとするか。


仕事帰りに居酒屋に行くと、昨日のC級冒険者が仲間を連れて居酒屋に来ていた。


レンガを積むだけのお話です。

地味だなぁ~。でも、なんか地味な話も好きなんです。



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