第28話 こんなにうまい物があったとは!
ショウユウに合うのは、これだ。
「マスター、それは何ですか?」
ミリーちゃんがマスターがもってきたものを見て絶句している。
1m近くある丸々と太った魚。
「もしかして、マスター。それは伝説のあれか」
「そうだ。伝説のあれだ」
錬金術士とマスターは「あれ」で会話が成立してしまうらしい。
「なんと言っても伝説の調味料ショウユウに合う料理と言ったら、これ以外にあるまい」
「それは正しい。私は中トロを刺身で」
いきなり、錬金術士さん、オーダーしたぞ。
中トロって何だろう。
刺身って何だろう。
分からないことだらけだ。
「しかし、残念ながらワサビは手に入らなかった。辛みラディッシュで我慢してくれ」
「もちろんだ。ショウユウで中トロが食べられるなら文句は言うまい」
ふたりはうなずき合う。
マスターは、おすすめ料理が書いてある黒板をすべて消してしまって、「今日のおすすめ 刺身定食」と書き直した。
「あ、僕は刺身定食お願いします」
「了解した」
マスターがいつもと違う雰囲気だ。
「あれはな。魔グロっていう魚だ」
「えっ、魔物の魚なんですか?」
「違うぞ。魔物なんかじゃない。あ、でも。一度食べたら忘れられないという意味では魔物かもしれない」
すごい。その日暮らしの僕がそんなすごい料理を食べてしまっていいのか。
あまりのうまさに、忘れられなくなりそうだけど。
今日は錬金術士さんのおごりだから支払いは気にしないでいいから助かるな。
「もちろん、魔グロは高級魚だ。そしてな。私が頼んだ中トロは高級魚、魔グロの中でも最高の部位だ」
「はぁ」
そんな魔グロの話を錬金術士と話していたら、D級冒険者たちは帰っていった。
追放しちゃった元メンバーを迎えに行くのだろう。
うまくいったらいいな。
予報もうまくいくって言ってるから、大丈夫かなと思うけど。
「それでは、これから魔グロの解体ショーをお見せします」
「なんだ、なんだ」
お店の常連連中が騒ぎだす。
いつもとは違うマスターの雰囲気で興味をそそる。
「魔グロの解体ショーって言ったぞ」
「なんだ、それ?」
マスターが70センチくらいありそうな細身の包丁を構える。
魔グロを大きなまな板の上にどしんと置く。
バサリ。一気に包丁で魔グロの頭を落とす。
返す包丁で真横の前から後ろにかけて、包丁を入れ、続いて後ろから前へ上方から包丁を入れる。
マグロの背の部分の半分が切り取られた。
その後は背のもう半分、腹の半分、また半分と。
次々と魔グロが解体されていく。
さらに、薄いレンガサイズの赤い魚身の冊になっていく。
「これが中トロです」
「うむ。いい色だ」
マスターが少しピンクがかった冊を錬金術士に取り出して見せる。
嬉しそうにうなずく錬金術士。
その冊を別の細い包丁で丁寧に切り分けていく。
「どうぞ」
皿に盛られた中トロの刺身。
小皿には、伝統の黒い調味料、ショウユウが入っていて、辛みラディッシュのすったものが添えられている。
錬金術士は、1枚の中トロの刺身を目の高さにあげて、しみじみ見る。
「本魔グロの中トロだな。うまそうだ」
どんな味がするのだろう。
味見させてくれないかな。
錬金術士は、丁寧にショウユウをつけて、辛みラディッシュをすこし盛った。
そして、一口でぱくっと食べる。
錬金術士の顔がふにゃーって顔になる。
「なんて甘いんだ。極上の甘さだ」
うまそう。ついつい、よだれがでてしまう。
「一切れどうぞ」
「はい。いただきます」
錬金術士の真似をして、ショウユウにつけて辛みラディッシュを盛って、ばくっ。
「なんだ、これは?」
《ピンポンパンポーン》
「最高級の本魔グロの中トロの刺身。ショウユウと辛みラディッシュ添えでしょう」
ありゃ、勝手に予報が出てしまった。
そうじゃなくて、なんで、こんなにうまいんだ。
もう、その後は中トロ、赤身、そして大トロと。
刺身三昧で、最後に〆ご飯と一緒に食べた。
「うまい。こんなうまい飯、初めてだ」
昨日もそんなことを言ったけど、毎日うまい物ばかり食べている気がする。
「それはよかった」
「当然だ。最高の素材と調味料だからな」
錬金術士さんも、満足気に膨れた腹をさすっている。
そんな二人をマスターも満足気に見ていた。
「しかし、あなたは素晴らしい料理人とみた。なぜ、こんな安酒場をしているのだ」
「すべては、ショウユウが手に入らなくなってしまったからだ」
「なんと。どういうことだ?」
「私は極東料理の専門家だ」
あれ。もしかして。
ショウユウが手に入る様になると、黒猫亭やめて極東料理人に戻ってしまうの?
それは困るなぁ。
黒猫亭は無くなると困ってしまう。
そんなことを思っていると、また新しいお客さんが入ってきた。
魔グロはその後、どうしたの?・・・続きを読みたいなって方は、
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もうひとつ、今、毎日更新している「レンガ積み」の話です・・・チートなレンガ積みだけど。
『超強力な土魔法使いの実力。土建チートで巨大建造物を作って世界を変えてしまっています』
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