表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/112

第23話 ご指名を受けるのは気持ちいいものだな

翌朝。

あたたかな日差しと小鳥の声で目覚めた。


清々しい気持ちだ。

昨日の朝のやる気の無さに比べて、今日はなぜかやる気に満ちている。


レンガ500個が気持ち良く完璧に積める気がする。


「なんで、こんなに違うのかな」


昨朝の状況と、今朝の状況の違いを比べてみた。


昨日はお姫様を助けて帰ってきた。結果はまだ分かっていなかったけど、賢者さんが大丈夫だというのだから、それを疑う理由なんてない。

お姫様は助かったんだ、と思っていた。


それなのに、もやもやしていた。


今日はお姫様が黒猫亭に来てくれて、助けたお礼を言ってくれた。

だから、当然、元気になったのを確信した。


だけど、あんまり違わないんだよね、昨日と。


「そうか。違いは感謝の言葉を言ってもらったことなんだ」


自分の持っている力以上を発揮してお姫様を助けた。

だけど、誰も感謝してくれない。


カニ戦闘員していたから、それが僕だと知っているのはミリーちゃんだけ。

そのミリーちゃんも昨日の朝は故郷村だ。


誰も感謝してくれてなかったんだ。昨日は。


その状況だと僕はやる気がなくなってしまう。


もしかして、僕って、感謝を言ってもらいたくてお姫様を助けたのか・・・


それだけじゃないとは思うけど、それもあるというのが昨日と今日の違いなんだ。


それに対して、賢者さんはすごいなぁ。


当然、一番、感謝されて当然なのに、完全にそれをさせない行動をする。

賢者さんは、感謝を求めての行動なんて一切していないということ。


「やっぱり、賢者と言われる人は違うな」


もっとも、この時、考えていなかったことがある。


賢者さんにとってお姫様を助けることくらい簡単なことでしかなかったということ。

その話が広がって、変に頼ってくる人がいるとかえって困るということ。

元々、感謝されたいなら、いくらでも感謝される行動なんてやろうと思えばできてしまうこと。


感謝されたり頼られたりする経験がほとんどなかった僕にはとてもじゃないが真似できないことなのだ。


だけど、感謝の言葉ってすごいな。

僕の気持ちをこれだけ変えてしまうパワーがあるんだ。


そういえば、昨日、予報スキルがランクアップしたのも、感謝の言葉を言われた瞬間だった気がする。


あ、そういえば感謝ポイントって言葉がアナウンスで出ていた。


感謝の言葉を言われると、感謝ポイントが貯まるのかな。

感謝ポイントが一定以上貯まると、ランクアップする。


予報スキルをランクアップするには、感謝の言葉を言われるようにするといいんだ。


おっと、なんか、もっと感謝の言葉を欲しがってしまいそうな僕がいる。

気を付けないとね。


賢者さんみたいに、感謝の言葉なんてどうでもいいって言えたらカッコいいんだけどなぁ。


「さて。気持ちがいい朝だから、がっちりレンガを積むぞ」


気分一新で500個のレンガを積む。

そう思って、いつもの土木ギルドに行ってみた。


「あ、よかった。来た来た、ジュートさん」

「なんですか?」

「今日の作業は、前に一度行ってもらったことがあるとこだよ」

「どこですか?」

「ほら、ダメ監督官から帰されて、その後行った現場だよ」


あ、錬金術士さんのとこか。

あの現場は、いろいろと注文が細かいけど、錬金術士さんが気持ちいい人だからうれしいな。


「ジュートさん、ご指名だよ」

「本当ですか。気に入ってもらったみたいでよかったです」

「気に入ったどころか、絶賛だよ。ジュートさん以外はいらないって言われてしまった」

「ああ・・・あそこは、本当に細かい注文が多い施主さんだからね」

「実は昨日も別の職人を派遣したんだけど、1時間で追い返されてしまって」

「うわ。そんなことあったんですね」

「職人が怒ってしまって。ちゃんと積んでいるのにねちねち言われて追い返されたってね」


うーん。何が悪かったのか。

あの錬金術士のことだから、なんか細かいことじゃないのかな。


「だからジュートさんじゃなきゃダメらしいんだ」

「わかりました。行きます」

「行ってくれるか。ご指名だから大銅貨6枚な」

「えっ、600個積むんですか?」

「何言っているんだよ。大銅貨1枚多いのは指名料だよ。レンガは500個積めばいいんだよ」


そんなルールがあったんだ。

いままで指名なんて受けたことがないからびっくりだ。


「指名を受けるというのは職人にとって名誉なことなんだぞ。施主さんのいうことをよく聞いてしっかりとやってくれよ」

「えーっと・・・分かりました」


あの錬金術士さんのいうことをよく聞く。なんか大変そうなんだけど。

まぁ、気に入ってくれたみたいだから、大丈夫か。


土木ギルドから12分くらい歩いて、錬金術士さんの現場に着く。


「あ、ジュートさん。待っていました」

「ご指名ありがとうございます」


最高の笑顔で迎えてもらった。

やっぱり期待されるってことは、うれしいものなんだな、と思った。

レンガを積むのは同じだけど、気持ちがなんか違う。


そんなことを感じていた。

しかし、この後、予想もできない隠し玉を錬金術士は繰り出してくるのだった。


『感謝の言葉』は大切ですってお話でした。


錬金術士さんが再登場

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ