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第21話 もやもやした物を抱えていると力が出せないよね

賢者さん。いやいや、カニ仙人の活躍で無事、お姫様は助かったらしい。

そんな噂が街にも流れてきた。


よかった、よかった。

ミリーちゃんは、昨日は故郷の村に泊まったのだろう。

久しぶりの家族と過ごす時間だね。


僕はというと、結局、銀貨3枚、貯金が減ってしまった。

ミリーちゃんは喜んでくれただろうし、良いことしたから後悔はしていない。


だけどなぁ。

やっぱり、僕にはそういう大活躍って向いていないと思う。


実際に助けたのはカニ仙人でカニ戦闘員の僕は大したことしていないし。


昨日は、賢者さんの家に戻って、そのまま帰ってきた。

レンガニ鎧だけをもらって。


「これはお前の物だ。また活躍するとき、使えばいい」


そういうけどさ。次に活躍するときなんてあるんだろうか。


あんまり難しいことするよりも、レンガをしっかりと積んでいた方がいいんだけどな。


せっかくくれるというから、レンガニ鎧はもらってきた。


もちろん、あの後、着てなんていないよ。ちゃんと、いくつかのパーツにバラして袋に入れてもってきた。

定宿のベッドの横に置いてある。


そして、今は次の日の朝。


いつもの様に、レンガ500個とこねたセメントの前にいる。

レンガ積みの現場だ。


「今日はひとり500個、丁寧に積んでくださいね」


前の無理なことを言う現場監督はクビになって、一緒に仕事をしてきたソニンが監督になったらしい。

レンガ積みはあまりうまくないけど、話好きだし友達が多いし。人を動かすならソニンはうまくやるんじゃないかな。


「ジュート、現場監督、やらないか」


もう1年前になるかな。僕もそう言われたことがある。


もちろん、断った。

自分が積むんじゃなくて他の人の積んだレンガの責任なんて持てないからね。


それ以来、僕はずっと自分でレンガを積んでいる。

日曜日を除いて、週6日、毎日レンガ500個。


レンガを前にすると、積まなきゃって思う。

ひとつづつ減っていくのが妙に気持ちいい。


そして、全部なくなって、積み上がったレンガを見ると晴れやかな気持ちになる。


はずだった・・・


ちょっと今日は変。


レンガがそこにあるのに、なんか気持ちが集中できない。

「心、ここにあらず」って感じかな。


だけどさ。

身体が覚えているから1日で500個レンガ積むのは全然問題はない。


いつもの通り、綺麗に積めている。

だけど、レンガ積みするときの気持ち良い感覚が生まれてこない。


慣れた現場だから大丈夫だけど、特殊な現場だったら問題になってしまうかもなぁ。


今日は、時間もいつも通り、個数もいつも通り、積み方もいつも通り。

しっかりとレンガを積む。


ひとつひとつズレが起きないに丁寧に積んでいく。

少し少し、レンガの壁が高くなっていく。


いつものことで、いつも通りのレンガ積み。


だけど、なんか、いつもと違う。


レンガ積みに入ると無心になれる。

レンガだけみて積むことができる。


いつもはそうなのになぁ。

今日はそうならない。


それでも、丁寧に積んでいく。


ちゃんといつも通りの時間で積み上がった。

細かく検査をしてみても、どこにも問題はない。


「レンガ500個積み上げ、完了しました」


監督官のソニンに報告して、出来上がりをチェックしてもらう。


「はい。ごくろうさん。いつみてもジュートの積むレンガは綺麗に揃っているね」

「そうかな」

「監督官になると分かるんだ。ジュートが積んでくれていると安心感がある」


そう言ってもらえるのはうれしい。

だけど、今日はいつもと違って、自分では安心感がない。


「今日の分、大銅貨5枚ね」

「はい、確かに頂きました」

「どうした?ちょっと元気ないね」

「そうかな」


ときどき一緒に仕事をしているソニンには分かってしまうらしい。

微妙な変化だろうから、前の監督官じゃ分からなかったと思う。


こんなことをしていると、そのうちレンガ積みが楽しくなくなってしまうんじゃないか。

もっとしっかりと気合を入れてレンガ積みをしていかないとダメだ。


心機一転でレンガ積み道を歩んでいくんだ。


よしそうだ。


今日は黒猫亭に行く日だ。

月曜は行くと、冒険者達に約束していたんだ。


そう考えたら、なんか急に気持ちが軽くなった。


レンガ積みしていた時、いや。

賢者さんの家から帰ってきたときからか。


なんか、もやもやしたものが、自分の中にある。

何かが足りない。


そんな気がする。


だけど、黒猫亭に行くと思ったら、それが薄れた感じがする。

やっぱり、僕にとって黒猫亭は大切な居場所なんだなぁ。


あそこに行くと、常連達がいる。

冒険者たちが『予報』を聞きにくるかどうかは分からないけど、来ても来なくても楽しい時間にきっとなるから。


「よし、片付けも終わったし、黒猫亭に繰り出すとするか」


誰に言うのでもなく、つぶやいた。


その夜、黒猫亭にはすでに、ある人が来ていて大盛り上がりをしていた。


そんなことは知らないジュートだった。


なんか、悩んでいるみたいです。悩むことがあまりないから、悩んでいることも分かっていない様子ですが。


続きが読みたいな思ってくれたなら、ブクマや評価をしてくれるとうれしいです。



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