第17話 ころり病はドロドロした物でした
「ころり病というのは、本当は病気ではないんじゃ」
賢者さんはころり病の解説を始めた。
ころり病は、大きな成功をした人とか、すごい美人とかがなることが多い。
成功した人は、その陰に泣かせてきた人がたくさんいたりする。
美人というのも、同じだ。
誰かの恨みや妬みを買ってしまう。それも強い妬みを。
ひとりの妬みだけでは問題にはならないが、多くの人が同じ様に妬んでいるとその気持ちは念となって妬まれている人にたくさん飛んでくる。
たくさんの妬みの念が1か所に集まることで合体してさらに強い妬みの念になる。
すると、近くにいる恨みや妬みを抱えたまま死んで成仏できない霊も集まり、精神生命体になってしまう。
その精神生命体は、妬まれている人から精神エネルギーを尽きるまで吸い上げていく。
その結果、ころりと死んでしまうのだ。
「うわっ。怖い。そんなに妬みの念って怖い物なんですね」
「違うもん!お姫様はみんなの妬みなんて買っていないもん!!」
ミリーちゃんが泣きながら主張する。
「そこなんだ。話を聞いていると、ころり病になるような女性ではないんだ」
「そうよ。絶対そうよ」
賢者さんもうんうんとうなずいている。
「だけど、ころり病なのは話を聞く限りでは確実だ。ころり病にはもうひとつ、別の形が存在しているのだ」
もうひとつのころり病のケース。
普通なら多くの人の恨みの念が合体することから始まるけど、時にはたったひとりの妬みの念から起きるケースがある。
「今回のケースは、誰かのとんでもなく強い妬みの念が原因だと思われるのだ」
お姫様を妬んでいる人。
そんな人なんて、いるのかな。
「話によると絶世の美人らしいな。すると、美人で恵まれた環境で育った女の妬みを買ってしまった可能性があるのではないか」
たしかに。それはあるかもしれない。
ちょっとくらい美人だと、お姫様に勝てないだろう。
何かの折に、お姫様とその女が一緒にいて、周りの反応で嫌な気持ちになってしまったのかもしれない。
「話にきくところによると、お姫様の美しさのひとつは内面から現れるものだろう。ただ環境が揃っているだけの美人では勝てないのも道理だ」
ミリーちゃんは泣き止んで、うんうん、とうなずいている。
「じゃあ。そんなことで強い妬みを持つ女性の念が原因だとしたら、どうしたらいいんですか?」
「そこじゃ。その女性が誰か、分かりさえすれば対策はある!」
やった。とうとう、お姫様を助ける方法に行きついたぞ。
「お願いです。大賢者様。お姫様を助けてください」
ミリーちゃんが手を合わせて賢者さんに頼んでいる。
僕も一緒に手を合わせて頼んだ。
「わしだけでは、それはできない」
「あと、誰かがいれば助けられるんですね。どんな人ですか」
「おぬしじゃ!」
えっ、僕?
いきなり、そんなことを言われて戸惑ってしまった。
「言ったであろう。妬みを持った女が誰か分かれば対策がある、と」
「あ。もしかして。その女を予報で探すんですね」
「そうじゃ」
だから賢者と予報スキルが必要だったのか。
「それでは、予報してもらうぞ。お姫様という女を妬んでいるのは誰か?」
「・・・・」
「なんで、答えない?予報スキル、持っているんだろう?」
「えっと、誰かって言われると予報スキルは発動しないんですが・・・」
「なんだそれ。ずいぶんとランクが低い予報スキルだな」
「・・・・」
賢者さんによると、予報スキルのランクが上がると、「誰か」とか「どこか」とかで予報が発動するらしい。
それができるんなら、変な情報屋にだまされたりしなかったのに。
「お前の予報スキルは、まだEランクだな。全然ランクアップしていないじゃないか」
たしかに。レンガ積みで土木スキルがランクアップしたけど、それ以外のスキルがランクアップしたことがないなぁ。
「では、Eランクの予報スキルでも発動する質問をするとしよう」
賢者さんは、紙に名前をたくさん書きだした。
全部で50人くらいあるだろうか。
「可能性がある女をあげてみた。ひとりづつ聞くぞ」
順番に名前を挙げて聞いていく。
結局、ひとりだけ、お姫様を妬んでいるという女が見つかった。
その女はベネックス男爵家の令嬢セレスティーヌ。
「そういえば、最近、婚約を解消したという噂がある女だな」
「もしかして、それにお姫様がかかわっていると?」
「そうかもしれんな」
確認のために予報で聞いてみた。
すると。
「婚約者の伯爵子息がお姫様を見初めてしまって、心変わりしたらしいのか」
「うわぁ、それは妬んでいるなぁ。怖い」
「だけど、何よ。お姫様は婚約者のいる男なんて興味ないわよ」
予報によるとその通りで、伯爵子息の勝手な片想いらしい。
「おいおい、片想いで家と家で決めた婚約を破棄してしまうのか、そいつ」
「それくらいお姫様は素晴らしい女性ということよ」
ミリーちゃん。お姫様の話になるとえらい断定的な話し方になるなぁ。
「よし。状況は分かった。すぐに行動するぞ」
「えっ、その令嬢のとこにいくんですか?」
「違うよ。お姫様のとこだ。ころり病の原因の精神生命体はそこにいるのだ」
それじゃ、ミリーちゃんの出身の村だね。
ちょっと遠いけど、今からいけば夜になる前につける。
「その前に、支度が必要だな」
賢者さんの頭の中には、もうお姫様を助けるプランができあがっているらしい。
あとは、それを実行するだけだ。
しかし、そのプランがとんでもない物だと、すぐに判明したのだった。
「悪役令嬢」と「婚約破棄」のキーワード、回収しました。
さて、どんな賢者の作戦が発動するのでしょうか。




