第102話 レンガの親分が予報屋にやってきた
「あれ? どうしたんです? 急用ですか?」
ミリーちゃんが洋服屋店長と出かけているから、僕とクレアさんだけで準備している予報屋に、ひとりの男がやってきた。
土木ギルド長をしている男だ。
「いや、実は予報をしてほしくて」
「ギルド長がですか。どんなことでしょう」
「実は最近、土木ギルドのメンバーが仕事をしてくれなくてな」
土木ギルドはメンバー登録制だ。
もっとも、土木仕事は賃金が安い割りに肉体労働だから、あまり人気がない。
他に収入を得られる道がある人は、土木ギルドなどに来たりしない。
予報屋を始める前の僕のように、他の仕事がうまくいかない人が仕方なくメンバーになり、仕方なく仕事をしているというのが実情だ。
「レンガの職人が足りないんですか?」
「レンガはシバ君たちが頑張ってくれているから大丈夫なのだが、他の土木仕事の職人がいなくてさ」
「メンバーの家に行ってみました?」
「もちろんだ。しかし、なんか調子が悪いとか言って出てきてくれないんだよ」
そりゃ、調子が悪い人もいるとは思うけど、みんなが調子悪いというのも変だな。
「あ、わたし思いついちゃったわ。ほら、なんとかってポーション配ってなかった?」
「エナジーポーション・ネオかな?」
「そう、そう。そんな名前だったわね。あれがあればみんなちゃんと働くんじゃない?」
「あれはもう、無くなってしまってな」
「そうなの?」
「もともと、ライオン商会が取り扱いを始める商品のサンプルとして配ったものだったのだが。その後、正式に発売するって話になってね」
「じゃあ、もうサンプルはもらえないのね」
あ、僕はそれ、5本ほど持っているな。
習慣性があるって予報が出たから飲むのやめていたんだ。
「それなら5本持っていますよ。いります?」
「5本じゃ、仕方ないかな」
「そうですよね」
結局、いい方法が見つからず土木ギルド長は帰っていった。
もっとも、正式な予報の依頼じゃなくて、単なる相談だね。
その後、ちょっとお偉いさんが金貨予報の依頼でやってきた。
衛兵長という立場の人だ。
衛兵というのは、街の治安を守る人たちのこと。
異世界の警察官みたいなもの。
その衛兵をまとめる人が衛兵長さん。
街の治安を守る重要なお仕事の人だね。
「実は、今、困っていることがあってな」
「どんなことでしょう?」
「エナジーポーション・ネオという薬が原因なのだ」
「また?」
「えっ、また? どういうことだ?」
「先ほど、土木ギルド長さんが来て、エナジーポーション・ネオの話をしていったんです」
「なるほど。労働者を中心に普及している薬だからな」
衛兵長さんの話によると、エナジーポーション・ネオを毎日のように飲んできた労働者が問題を起すようになったらしい。
ケンカや盗み等々。中には殺人も起きているらしい。
「エナジーポーション・ネオというのは危険な薬なのか?」
《キンコンカンコーン》
「習慣性があり、長く常用すると感情が抑えきれなくなる副作用があります」
「なんと。やはり、そうか!」
「怖いですね。僕も土木ギルドからもらったけど飲みませんでした」
「おや、予報屋さんも土木ギルドに所属していたのか」
「ええ。本職はレンガ屋です」
予報と衛兵長さんの話を聞くと、エナジーポーション・ネオが危険なのは確実みたいだ。
「よし、分かった。街役人に進言して禁止してもらおう」
「それがいいですね」
衛兵長さんの問題は結論が出たらしい。
「もしかしてだけど、ちょっといいかしら?」
「なに? クレアさん」
「中級ポーション・ネオは大丈夫なの?」
「あ、名前が似ているね」
「おおっ。それは思いつかなかった。魔物討伐のときに支給された薬だよな」
「衛兵長さんも知っているんですか?」
「俺も討伐には参加したからな。主にB級やC級の冒険者に配っていた。ゴブリンとの闘いで使った奴らも多かったはずだ」
「もしかすると…」
「おい、予報屋。中級ポーション・ネオも危険な薬なのか?」
《キンコンカンコーン》
「習慣性があり、感情が抑えきれなくなる副作用があります。濃度が高いので一度の服用で副作用が出る場合もあるでしょう」
「まずいな。高ランクの冒険者が感情を抑えきれなくなると、もっと大きな問題になるぞ」
衛兵長さんは、調査すると言って帰っていった。
やばい薬が流通してしまったらしい。




