第10話 予報屋の開業届けはどこに出したらいいんでしょうか
「二晩考えてみたんですが。お話を受けようと思います」
「本当かっ。やってくれるのか?」
ここは黒猫亭。C級冒険者のパーティメンバー5人が集まっている。
パーティのリーダーに毎週予報する話を受けることを告げると、すごく喜んでくれた。
確かにうまく予報できるかどうか分からないけど、やってみるのはいいかも、と思って決心した。
「だけど、最初から言っておきたいことがあります」
「何かな?」
「予報は必ず当たるとは限りません」
「ああ、聞いているよ。天気予報で70%だってみんな言っているから」
既にいろいろと聞いているらしい。
それなら大丈夫か。
「あくまでも予報は参考にしてもらって、信じ切ってまずい状況になることは避けてほしいんです」
「もちろん、そのつもりだが。2年でC級冒険者になった男をなめてもらっては困るよ」
「あ、そんなつもりじゃなくて」
「分かっているって。私達、うまくやっていけると思わないかい」
「はいっ」
うん。この人達だったら、うまくいける感じがする。
ちょっとでも僕の予報がこの人達の役に立ったらいいな。
「では、今日からってことでいいかい」
「えっ、来週からじゃないんですか」
「ちょうど今夜、来週の予定を決めようと思ってさ。手伝ってくれるかい」
「はい、もちろんです」
冒険者パーティは5人。
僕も入れると6人。
テーブルがひとつだと座りきれないので、小さなテーブルをつけてくれた。
「それでは、まずは自己紹介からしよう。私がパーティのリーダー、マセットだ」
「あ、僕はジュートです。レンガ積みの仕事をしています」
「ああ。聞いているよ。みんなからさんざん」
「ですよね。マセットさんは剣士ですよね」
「もちろん。ユニークスキルは剣術だ」
いいなぁ、剣術のユニークスキル。
剣士になるために生まれてきたってことだよね。
「それで、彼女が紅一点の火魔法使いのセリルだ」
「この前はすごく助かったわ。これからよろしくね」
他の3人は剣士のジュンクと槍士のガンツと僧侶のマック。
一度には覚えきれないから、マセットとセリルだけ覚えておこう。
「それでな。来週早々にでも新しい依頼を受ける予定だ。どんな依頼を受けたらいいか教えてほしい」
「すみません。それでは予報ができません。依頼で受ける可能性がある候補を上げてください」
「わかった。まずは、これ」
そう言うと、メモを出した。
冒険者ギルドで出されている依頼を書き留めたものだろう。
「ちょっと待って。その前にすることあるわよね」
「なんだ?」
「これよ」
セリルは袋から銀貨1枚を取り出した。
「こういう仕事は前払いが基本よね」
「えっと、そうなんですか?」
「だって予報聞いたあとに払わない人いたりしない?」
それはそうだ。
予報だけ聞いて逃げる人でてきてもおかしくないな。
「あ、お金をもらって予報するのは初めてなので」
「「「「「ええーーっ」」」」」
みごとに5人とも同じ反応をした。
そんなにびっくりすることかな?
「あ、でも。お礼に手料理をもらったりはあるんですよ」
「そ、そんなんで予報をしていたのか?」
「ええ」
5人でなんか相談している。
もしかして、まずいこと言ったのかな。
「予報スキルってすごいスキルだと分かっているのか?」
「そんな大げさな。剣術や火魔法に比べたら外れスキルですって」
また、なんか話し合っている。
しばらくして、話がまとまった様でリーダーのマセットさんが代表して話し出す。
「毎週土曜日はここで予報を銀貨1枚で受けるというのは了承してもらえたんだよな」
「はい、そのつもりです」
「あと、他の曜日は予報は受けられないのか?」
「あ、銀貨1枚というのは1週間分ってことですか」
「そうじゃなくて。べつの日に予報をしてもらいたいことも起きると思う。そのときはまた銀貨1枚払わせてもらうがどうだ?」
「えっ、そんな。悪いですよ」
「悪くない。悪くない。どうか、それができるようにしてほしい」
他のメンバーはちゃんと了承しているんだろうか。
それぞれ確認するように顔を見た。
すると、目が合うと、それぞれがうなずいてくれる。
「わかりました。この黒猫亭で、ということで。銀貨をもらえた翌週は、月水木土と週4回ここに来ます。時間はだいたい今日くらいです。閉店までいます」
「おおっ、週4日も予報が使えるんだ。それは素晴らしい!」
みんな喜んでくれている。
喜ぶのは僕の方なんだけどなぁ。
銀貨1枚もらえば、黒猫亭を週4に増やしても、大銅貨5枚くらい残る。いままでの大銅貨3枚にプラスして週8枚も貯金できてしまう。
そんなにすごいことなのに。
「話はもどって、来週の依頼の件なんだが。最初は銀熊退治の依頼でな」
どんな依頼か説明してくれた。
でも、それはB級パーティが適性レベルだという。
「この銀熊退治の依頼は僕らで達成できるでしょうか」
《ピンポーン》
「依頼は失敗するでしょう」
「ほら、やっぱり、無理よ。だから言ったわよね」
「そう言うなって。B級依頼の達成は俺たちの夢じゃないか」
「でも、まだ早いのよ。無理して取り返しのつかないことになったら大変でしょ」
「よし、B級依頼はすっぱりとあきらめよう。今は分相応のC級依頼だ」
うん。それがいいと思う。
無理は禁物だね。
「C級依頼なら、やっぱり。岩トカゲ狩りがいいかな」
「そうね。バッグも欲しいと思っているしね」
「バックは関係ないだろ。バックは」
「岩トカゲ革のバックは女のあこがれなのよ」
「とにかく。岩トカゲ狩りはうまくいくでしょうか?」
《ピンポーン》
「大成功するでしょう」
「おおっ、大成功って。どういうこと?」
「もしかして討伐数が多いのかな。依頼より」
「岩トカゲ狩りで岩トカゲは何匹討伐できるのでしょうか」
あ、それは予報できないよ。
何匹はよしてほしいな。
「あ、これじゃダメなんだよね。依頼の討伐数が4体だよな」
「そうそう」
「では、岩トカゲ狩りで岩トカゲは6匹以上討伐できるでしょうか」
《ピンポーン》
「討伐する岩トカゲは6匹以上でしょう」
「すごいじゃない?」
「だな。もっと聞いてみようか。岩トカゲ狩りで岩トカゲは8匹以上討伐できるでしょうか」
《ピンポーン》
「討伐する岩トカゲは8匹以上でしょう」
おおー。依頼の倍以上じゃないか。
依頼の報酬は変わらないが、岩トカゲは皮が素材として高額で取引されている。
肉も癖がなくておいしいと人気だ。
討伐数が多くなると収入も多くなる。
冒険者パーティのメンバーは、すごくテンションがあがっている。
その後も数を変えて討伐数を聞いてみたら討伐数は9匹が予報らしい。
「岩トカゲ討伐でメンバーはケガをするでしょうか」
《ピンポーン》
「ケガをするメンバーはいます。ただ軽傷程度でしょう」
「そのくらいは仕方ないな。ポーションもまだあるし軽傷なら大丈夫だろう」
来週の予定は岩トカゲ討伐に決まった。
1週間で依頼を受けるのは、ひとつだけでは少ない。
2つの依頼も予報を利用して決めていった。
「これで来週はきっとうまくいくだろう」
「健闘をお祈りしています」
「じゃあ、もうひとつ。セリルの恋はうまく・・・ぐぐぐ」
リーダーがそんなことを質問しようとしたら、セリルが口を押えてしまった。
よかった。
変な予報がでたらヤバそうな内容だし。
「なに勝手なこと聞いているのよ」
「お前だって知りたいんだろう?」
「ふざけないでよ」
まぁ、いつものことらしく、残りの3人はあきれ顔だ。
笑いが起きて、ほのぼのとした雰囲気が広がった。
その雰囲気を一気に壊すことが起きた。
ひとりの男が店に入ってきて言ったのだ
「大変だ、ミリーちゃん。お姫様が死にそうなんだってよ」
「えっ、お姫様が!?嘘でしょう」
予報屋はじめました。同時に、お姫様が登場します。死にそうだけど。
もうひとつ、今、毎日更新している「レンガ積み」の話です・・・チートなレンガ積みだけど。
『超強力な土魔法使いの実力。土建チートで巨大建造物を作って世界を変えてしまっています』
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