2話
前のあらすじ
森を通ってたらおじさんと出会い、一緒に隣街へ行く事になりました。
「なるほどー戦場に英雄ですか。しかも皇国でも名高い『金熊』とは、災難ですねー」
誠意溢れる話し合いで盗賊のリーダーだった男から同行の意を取り付けた『赤頭巾』は、森を抜ける間の暇つぶしとして彼等が何で盗賊に落ちぶれたのかの身の上話を聞いていました。
なんでも彼等はこの国でも精鋭と呼ばれる部隊だったらしく、遊軍として前線を渡り歩いていたらしいのですが、そんな中で不運にも敵国の中でも五指に入るという『金熊』という字名を持つ鬼殺しの英雄が率いる分勢と対面する事になりました。
不運はそれで終わる事はなく、なんとその前線を任されていた上官はこの地区は碌に戦果を上げれていない事に焦って何度も無意味な突撃を敢行させていたというのです。
このままでは無駄死にしかないと考えたリーダーだった男は、上官に“事故死”したのを切っ掛けとして部下と共に軍から脱走したのでした。
「結局は部下を無駄死にさせてしまったがな。俺もあのクソと変わりねぇ無能だったって事だ」
「無能以前に一人歩きしてる女の子を狙う時点でアレですけどねー。しかも殺す気で射やがりましたし」
「こんな所を歩いている馬鹿なら行方不明になっても獣に喰われたとしか思われねぇから都合が良かったんだが、結果的には猛獣の口ン中に首を突っ込んだのも同然だったな」
「私のトランクに傷をつけた罰ですねー。まぁ矢を射ってきた時点で皆殺し確定ですし、近接戦を挑んできたアナタは運が良かったですよー。姿を隠したままなら興味もわかずに処理してましたからー」
「これが十をちょっと過ぎた嬢ちゃんのセリフってんだから涙がでるぜ。どこでそんなのを習ったんだかな」
「…………ふふっ、しりたいですかー?」
「いんや。知りたくないとは言わんが、それよりも心の平穏のが惜しい」
何かを思い出したのか、目を暗く虚ろにする『赤頭巾』にあっさり首を横に振るリーダーだった男。
「そうですかー。じゃあ結果的に師といえる人を紹介しましょうかー?もしかしたら『金熊』にも勝てる様になるかもですよー?」
「無駄に年をとると自分の背の長けぐらいは分かるようになる。そしてそれ以上を望んだ連中が大概どうなったのかもな」
「夢がないですねー。でもでも『金熊』は無理でもー、さっきの人達の仇ぐらいはとれるかもですよー?」
「そのぐらいになる頃には俺はヨボヨボの爺だな。若者の相手にダンスは無理だろうさ」
虚ろだった瞳に光を灯して面白がるように言う『赤頭巾』の言葉をリーダーだった男はあっさりと流します。
『赤頭巾』は流されて面白く無さそうな顔をしますが、リーダーだった男は気にした様子もありません。
ついさっき仲間を皆殺しにした少女と平然と一緒に歩いて会話をしてる辺りからも分かりますが、元々精鋭部隊の隊長だっただけあって肝と神経はかなりの太さの様です。
「意外とドライなんですねー。反抗されても困りますけど、恨み言とかぐらいなら構いませんよー?」
「軍から脱走した後、全うに生きる道を選ばずに楽な方を選んだんだ。碌な死に方しねぇってのは全員覚悟してたさ。それよりも俺はどこに売られてくのかが気になるな。わざわざ警邏に引き渡すためにこんな面倒をしてる訳じゃねぇだろ」
「そうですねー。まぁ会わせたい人がいるだけですよー――――――――――――まぁ死んだ方がマシかもしれませんが」
「おい、最後にボソッと言ったのは聞き流せねぇぞ」
「大丈夫ですよー。ホント、死にはしませんから。ええ、何がってもそれは保証しますのでー」
「さっきの呟きのせいでなんの保障にすらなんねぇし、むしろここで万が一に賭けて逃げるべきなんじゃねぇかとしか思えねなよ」
「碌な死に方しないって分かってるなら覚悟決めましょうよー」
「死ぬよかキツい事があるので良く知ってるからな。流石にそれらを受け入れられる程、俺は度胸はねぇし肝も据わってねぇ」
「大の大人が情けない事を言わないで下さいー。もし逃げようとしたら、手足を潰して縛って所々を出血させて森に放置しますからねー?」
「てめぇは審問官か」
『赤頭巾』とリーダーだった男はわいわいと楽しそうに話をしながら森を抜けて行きました。