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1話

前のあらすじ

『赤頭巾』は母親にお婆ちゃんの家までお使いを頼まれ、元気良くお婆ちゃんの家に出発しました。




「あのババァ、可愛い一人娘を戦時中で治安最悪な時に旅同然のお使いに普通出します?この近辺だと往復馬車も止まってるから絶対半年じゃ済まないですし。あーあ、面倒臭いですー」


革製のトランクを片手にお婆さんの家へお使いに出た『赤頭巾』はひとまず、こういう時に便利な知り合いのいる隣街に向かう事にし、近道として整備が行き届いていない街道を逸れて森を突っ切る事にしました。


隣町への用事がある時や、夕飯のオカズを採りに行く時に良く入る森なので『赤頭巾』にとっては庭同然です。


ですが、『赤頭巾』からは死角になる草影から気配を殺して『赤頭巾』を覗き見る者がいました。


覗き見ていた者は『赤頭巾』が森に入っていくのを見届けると、音を出す事無く森の奥へと走り去っていった。







『赤頭巾』が順調に森を進んで行くと、開けた場所に着きました。


そこには綺麗な青色をした小さな花が辺りを覆う絨毯の様に沢山咲き誇っており、『赤頭巾』は進むのを止め、その青色の花を一本一本丁寧に摘みます。


この青色の花は痛み止めの原材料であり、普段なら安値しか付かない花ですが盗賊の跋扈で流通が滞っている今ならそれなりの値が付くでしょう。


『赤頭巾』は摘んだ花を十で一束として糸でまとめ、それらを内側に革を張った小箱に大切にしまい込みました。


そして意気揚々と『赤頭巾』は森の出口に向かって奥に歩き出します。


花園を通り過ぎて奥に行くと、外周部とは打って変わって木々が密集して生えており、より一層暗く鬱蒼とした景色が続いています。


外周部は村人等が利用する事が多いので人が手を入れて整えられているのですが、普通の村人が寄り付かない場所は自然そのままになっているからです。


当然足場も悪いですが、『赤頭巾』は器用に歩いていきます。


そんな時、シュッ!という風を切る音と共に『赤頭巾』目掛けて何かが飛んできます。


ですが『赤頭巾』は慌てる事無く、小さく飛びのいてそれを避けました。


目標から外れたソレは射線にあった木に突き刺さります。


飛んできたのは矢でした。


『赤頭巾』が避けなければ腕に刺さっていた事でしょう。


ですが、これで終わりではありませんでした。


今度は『赤頭巾』単体に狙いを定めたものだけでなく、その周辺を含めた広範囲に屋が飛んできたのです。


最早生死は問わないと言わんばかりに放たれたそれを、赤頭巾は手に持ったトランクを素早く、そして巧みに振って全ての矢を叩き落しました。


「ほう、見た目に寄らず一筋縄じゃあいかねぇ獲物だな」


『赤頭巾』に矢は意味無しと見たのか、頭に獣の皮を被った集団がゾロゾロと現れて取り囲まれてしまいました。


全員が乱雑に振っても当たれば十分な効果がある棍棒や片手斧を持ち、使い古されてはいるものの、きちんと手入れされている革鎧を着ています。


弓を持ってるのが一人も居ないので、隠れて様子を見ているのでしょう。


人が動けるスペースを考えれば、今顔を出している面子だけでも十分な数が揃っています。


「ふーん、この森にこんな変わった動物が居るなんて初耳ですけど。それも人間様をマネて道具を使うなんて、どこかで芸でも仕込まれてたんですかー?」


「ああ、色んな芸を要求するくせ、扱いの悪い所でな。余りに居心地が悪いんで皆で引っ越してきたのさ」


「そう、それは大変でしたねー。でも飼われてたなら人間様に手を出したら痛い思いをするって教えて貰いませんでしたか?」


「俺達の場合は逆でね。人間様を襲う事を仕込まれてたのさ。仕込まれた芸ってのは中々忘れられないもんで、引っ越してきた先でもついつい披露したくなる」


集団のリーダーらしき男が『赤頭巾』の皮肉交じりの質問におどけた風に答えて行きますが、その間に隙となるものはなく、部下と思われる周りの男達も暴言に気を荒立てる事もなく『赤頭巾』の一挙一動を警戒しています。


「芸をするならこんな所よりも街道の方でやった方がお捻りを貰えますよー。それに私みたいなか弱い女の子に見せる芸にしては品もないし、別の芸を習い直してから出直して来て欲しいですー」


「それは残念だ。だが、芸は見せたんだから報酬は払って貰わないとな!」


男が言うと同時に上から矢が数本飛んできました。


赤頭巾がそれを避けると男達が襲いかかってきます。


それも全員が纏めてではなく、他の仲間の動きを阻害しないようにしつつもこっちの逃げ道を塞ぎ、隙があればすかさず手を出せる様にです。


明らかに只の盗賊が出来る動きではありません。


普通であれば数秒後には鈍器をしこたま叩き付けられて潰れた肉塊が転がっていた事でしょう。


そう普通であれば。


「よく仕込まれた芸ですねー。ちょっと感動しちゃいましたよ」


ですが、現実としてあったのは変わらず軽口を吐く『赤頭巾』と、咽を裂かれて血が噴き出しているか、咽に黒いナイフが突き刺さって倒れる男達の姿でした。


いつの間にか『赤頭巾』の手には血糊の付いた真っ黒なナイフが握られています。


『赤頭巾』と喋っていたリーダーの男以外は皆、一人残らず赤い血を流して倒れています。


『赤頭巾』から一秒たりとも目を離していなかったはずのリーダーの男は、それでもいつ仲間が殺されたのか分かりません。


まるで読んでいた本に落丁があったみたいに、状況が一変していました。


リーダーの男が冗談のような惨状で狂わなかったのは、一重にこれ以上のふざけた体験したことがあるからですが、それは果たして男にとって幸運だったかは分かりません。


「……は、ははっ。おいおいおい、人間様よ。それこそどこで仕込まれた芸だ?か弱い女が持ってる手管じゃねぇだろうよ」


「家庭的な特技の間違いでは?林檎で兎や小鳥も作れるし、ジャガイモの皮もうすーく剥けますよー」


「そして動物の絞め方もお手の物ってか。ハハハハハハハッ、確かに田舎に住んでるとしたら良い女だな。怖くて他の女を見てる暇もないぐらいだ」


男は近くに倒れていた仲間の死体からナイフを抜き取り見ました。


血糊とはべつに何かが塗られているようです。


「咽に突き刺さったらもがく間も無く即死するような毒か。ハッ、それなりに詳しいつもりだったが見当もつきやしねぇな」


待機してる筈の仲間からの動きはありません。


『赤頭巾』に恐れをなして逃げ出したか、それとも隠れていた筈の彼らも皆殺しになっているのか、リーダーの男には分かりませんでした。


「悪行の果てがコレだってんなら、因果応報って事か。全く、襲う獲物を間違えるマヌケに付き合わせちまって済まねぇ事をしたな」


リーダーの男は諦めたのか、被っていた獣の皮を取ります。


「!?」


其処には渋みが出始めた、美中年の顔がありました。


数年もすれば誰からもダンディと言われる事でしょう。


『赤頭巾』のストライクゾーンからはオーバーしてますが、大体の女性が目にハートを浮かべそうです。


「―――――そういえばあの人はイケメン好きでしたねー」


『赤頭巾』は隣町に住む、母親の友人である人物を思い浮かべました。


自分に正直な人なので、彼を連れてけば色好い返事が返ってきそうです。


「うーん、これはいい拾い者なのでは?巡回馬車が止まってる以上、あの人の助けが無ければ歩きですし、私も恐い思いをせずに済みますしー」


考えれば考える程、『赤頭巾』は自分の考えが素晴らしいモノに思えました。


自分は交渉の時に恐い思いをせずに済み、あの人は好みの男性に会えてうれしく、あの男も自分に殺されずに済む。


正に三者全員が得をする美しい三得です。


「ならまずはあっちの人と交渉からですねー」


『赤頭巾』はトランクを握り直し、軽い足取りで項垂れるリーダーの男に近づいていきました。










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