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記憶の男  作者: 海苔巻き
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プロローグ

どうも、はじめまして。海苔巻きです。

この度拙い文で投稿する事にしてみました。

あんまり大きな声では言えませんが、最近異世界転生ものばっかだなぁと思い、自分で投稿してみることにしました。



 ここは、列車の中だ。

 列車だと一言に言っても色々と種類はあるのだが、残念な事に自分はそういったものに詳しくない。だから、これが電車なのか、それとも蒸気機関車なのか、貨物列車なのか、寝台特急なのか、はたまた軍用列車なのかは分からない。

 だが、ここは誰かが運営する鉄道会社の路線を走る列車の中。それだけは分かるのだ。


 自分がどうしてここにいるのか分からない。自分が誰だかは分かるのだが、以前何をしていたかは思い出せない。いわゆる記憶喪失という奴なのだろうか。

 そういえば、ここに来る前に何をしていたかも思い出せない。自分が何をしていた人間だったのかもだ。まるで、自分に関わる全ての記憶にフィルターがかかったように、霧がかったように、思い出すことは叶わない。


「隣、空いてますかな?」


 物思いに耽っていると、通路を一人の老人が歩いてきた。どうやら自分の隣に座りたいらしい。別に断る理由もないので、どうぞと言って少し窓側に詰めて座り直した。

 考えてみれば窓からの景色を見ていなかった。こういう列車に乗ったなら、さぞかしいい景色が眺めるのだろう。そう思って見てみたのだが、真正面に見える透明の境界線を境に、真ん中より上は真っ白で、真ん中よりも下側は真っ暗なナニカが見えるだけだった。

 そのナニカはよく分からなかったが、何か恐ろしいものに違いないと感じ、少し怖くなった。

 怖さを少しでも和らげるために、老人にここが何処だかを尋ねる事に決めた。


「あの、ここは、何処ですか?」


「ほっほっほ、面白い事を言う坊っちゃんだね。見てみなさい。ここは列車だよ。」


「いえ、そういう事ではなくて⋯⋯⋯。」


 オロオロとする自分、それを見て笑う老人。私にしてみれば至極真面目な問いであったがために、少しばかりむっとしてしまう。

 その後、何度かこの列車について尋ねたのだが、満足のいく返答は得られなかった。そんな老人の様子を見て、どうやらこの人物はこの列車が何なのかを知っているという確信を得たのだが、どう尋ねてものらりくらりと躱されてしまい、とうとう私も諦めた。


「そういえば、あなたが誰なのか聞いていませんでした。あなたは誰ですか?」


「ん?それは坊っちゃんが一番よく知っているだろう?」


 それを聞いて、少しばかり考えた。だが、やはりと言ったところか。この老人に関する記憶も知識も自分の頭の中には存在していなかった。

 確かに、私の事を坊っちゃんと呼ぶあたりに、この老人と私の関係性が窺えるのだが⋯⋯⋯いや、やっぱり思い出せない。


「すみませんが、私は覚えていません。どうやら、記憶喪失のようで。あなたは⋯⋯⋯そうですね、歴史上で有名な人物なのでしょうか。」


「ほっほっほ、この爺がそんな大層な人物に見えますかな?なるほどなるほど、坊っちゃんはこの列車の乗客の中でも大層珍しいお客さんのようだ。」


「え、それはどういう事ですか!?」


「それは爺の口からは言う事はできませんな。ここから先は坊っちゃん自身の目と耳で、確かめてご覧なさい。」


 やはりこの老人の事を私は思い出すことは出来なかったが、その言葉は何故か有無を言わさぬものがあり、なんといったらいいか分からないが、なんとも温かみのあるものだった。

 私はその言葉通りに席を立ち、通路を進む。連絡扉の前にこの列車の見取り図があったので見てみると、どうやらこの車両は最後尾の列車で、12輌編成らしい。

 私は連絡扉を開け、次の車両、11号車に乗り込む。


 内装は12号車とは異なる作りであった。


 12号車が普通の、旅行や遠出で使うような普通の作りの列車だとすると、この11号車はそれが質素だと思えてくるような、そんな見事な内装であった。

 床は高級そうなカーペットが敷かれ、天井には小型のシャンデリアが下がり、壁紙はとても綺麗な模様であった。椅子も豪奢で、窓の縁も金細工のように煌びやかだ。


 その車両にはなぜか乗客が見当たらない。確かに先ほどの12号車も見当たらなかったといえばそうだが、こちらはどこか遠慮しているような雰囲気がある。

 そんな車内の雰囲気に気圧される事は何故かなく、私は足を進める。まさかだとは思うが、誰も乗っていないのだろうか。


「何はともあれ、少しこの椅子に座ってみたくなるな。」


 私だってこの列車の客員である。もしかしたら、この座席はいわば「指定席」なのかもしれないが、まぁこの席の空きかたからして、もし座っているのを見られても怒られる事は⋯⋯⋯たぶんないだろう。たぶん。

 座った座席はふわりという感触で、私を包み込んだ。それは、なんだか懐かしいような、温かみのある感触だ。まるで、母に抱かれているような。

 そういえば、私の父や母はどんな人物だったのだろうか。このような座席を懐かしく思える位には裕福な家庭だったのかもしれないが、だとしたらどんな職業に就いている、どんな性格の人物だったのだろうか。


「まぁ、気にしても仕方がないか⋯⋯⋯ん?これはどういう事なんだ?」


 ふと窓の外の光景が目に入る。そこには先ほどの光と闇の空間は存在しておらず、ただ夕焼けが照らす海があった。

 まるでこの世のものとは思えない光景を映し出していた、さっきの窓とは大違いだ。


「この列車は動いているみたいだし⋯⋯⋯いやでも、あの景色の場所からどう動けばこんな海にたどり着くんだ?」


 謎は深まるばかり。どのように解釈しても、それが真実だとは思えないものばかりだ。おそらく、どれも真実と異なるのだろうが、それにしても⋯⋯⋯いや、考えるのはよそう。たぶん無駄なのだ。

 考える事を放棄した私は瞼を閉じて背もたれに寄りかかる。肩の力を抜いてリラックス。この場所に来てから精神的疲労が多すぎる。これでは身の前に心が持たない。


 ふぅ、と息を吐く。すると、傍から珈琲の匂いがしてくる。誰かが持って来てくれたのか、それとも車内販売なのか。誰かがサービスで持って来てくれたのなら、ありがたく頂きたいのだが、車内販売なら諦めるしかないだろう。なにしろ、この列車に乗ってから一度も喉に水分を通らせていない。

 だが、瞼を開いた先にあったのは予想の斜め上を行くものだった。


「旦那様。お目覚めになりましたか。」


 メイドがいた。

 端正な顔立ちで、キリリとした印象を持たせる眼鏡をかけ、濡れるような黒髪ロングのメイド。目は綺麗なブラウンだ。なんとなく日本人っぽい。


「ええと、君は⋯⋯⋯?」


 だが私にはメイドがいたかどうかも分からない。この女性は見たところ――とても失礼なのは承知の上で――20歳くらいだろうが、まったくそんな女性がいた記憶はない。さっきの老人と関係があるのかもしれないが、どちらにせよ私の記憶にはない。

 そもそも、こんな綺麗な女性の事を忘れられるはずがない。まさかとは思うが、私にはこのような衣装に対しての特別な趣向はないし、無かったと思う。


「お忘れですか?旦那様。私は旦那様のメイド、黒羽(くれは)です。まぁ、確かに久しぶりではございますが⋯⋯⋯まだたったの3年ですよ?」


 どうやらこの黒羽さんは私のメイドだったらしい。正直言って、アニメや本でよく見るメイドと違って、スカートがロングであったり、服に余計な装飾がないのはとてもポイントが高い。なんでアニメや本の情報を覚えているのかがとてもとても気になるが。

 とりあえず黒羽さんに誤解をさせたままにするのもとても申し訳ないので、私が記憶喪失になっている事を話しておいた。


「なるほど、旦那様は昔から厄介ごとに巻き込まれやすい性質ではありましたが⋯⋯⋯はぁ。今度は記憶喪失ですか。通りで私の事を覚えていないわけです。まぁ、それなら致し方ありません。取り敢えず珈琲でも飲んで落ち着いてください。」


 渡された珈琲はとても温かく、それでも熱すぎる事はないという、とてもベストな温度である。しかもしっかりとミルクが入っている。砂糖はナシ。ミルクのみ。これがとてもおいしい。

 飲むと酸味が強めになっているものだと感じ、ミルクとの相性も中々に良い。かなり強めの酸味なのにも関わらず、なんの違和感もなしに飲めるのは、元々こういう味が好みなのか。それとも黒羽さんが淹れた珈琲がおいしいからなのか。まぁ、両方だろう。


 と、落ち着いたところでだ。


「じゃあ、黒羽さん。」


「黒羽で結構です。」


「あ、えーと、黒羽。」


「なんでしょう。」


「ここは、どこだ?」


 黒羽にもあの老人に聞いたように、ここがどこだかを尋ねた。だが


「あなたもよく知っている場所ですよ、旦那様。」


「いや、記憶喪失なんだけど。」


「なら、思い出せるよう、じっと、考えてみるのです。」


 駄目だ、話にならない。会話にすらなってない。

 とはいえ、ヒントは見つかった。私は、かなりの金持ちだったらしい。メイドがいて、こんな高級そうな場所が「よく知っている場所」になるほどには金があったのだろう。

 しかし、そうなった場合に、とある疑問が発生する。先ほどの老人と、彼が乗っていた12号車の窓から見えた景色。あれが何だったのかが疑問となってしまう。12号車自体よりも、あの光と闇の光景がとてもとても不思議なものに私の中では位置づけられているのだ。


 まぁ、じっくり考えても答えが出るはずもなく、諦めて席を立つ。10号車にいけば新しい発見があるはずだからだ。それが私に親しかった人物であれ、物であれ、今では私の記憶を掘り起こすいい材料になってくれる。

 だから私は席を立つ。そして、連絡扉へと足を進める。すると、黒羽もついてくる。まるでメイド⋯⋯⋯ああ、本物のメイドなのだった。

 彼女曰く、「旦那様が行くのであれば、私もついていくに決まっております。」とのこと。別に子供じゃないのに。

 とはいえ、私は記憶がない。こういう時、一人でも頼れる人物がいるというのはとてもとても心強い。


 私はこの列車を歩く。

 私の記憶を取り戻すために。


 私は尋ねる。

 この列車が何処に向かっているのか。この景色が一体何なのかを知るために。


 私は進む。

 私がここで、生きるために。

ちょっと短いけど、今回は『お試し』という事で書いたものを投稿しました。

汗だらだらでした。まだ寒いのにね。


感想や質問、アドバイスなどありましたら、どしどし言ってください!

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