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第九話



「……処分……された……!?」


 あまりの事実に開いた口が塞がらなかった。


「そうだよ。とは言っても、まだあの人形はごみ袋の中にはあるんだけどね。2週間前に、袋に詰められて……明日の朝ごみとして処分されるの」


「そ、それなら、今から親に電話してそれを止めてもらえば──」


「──無駄だよ」


 冷静にそう答えるミユ。スマホに伸ばしかけていた手を、俺はゆっくりと元に戻した。


「私は、あの人形の体に戻るつもりはもうないから。もし仮に、祐太くんがご両親にお願いして、その人形を助け出したところで、それはただの人形。何の魂も宿っていない、何でもない人形なの」


「どうして、戻る気はないんだ?」


「……もう十分だから。言ったでしょう?最後に一目でも祐太くんに会いたかったって。それだけで満足だったって。私の目的はもう果たしてる」


「でもっ……」


「祐太くん。今のあなたには、私のことを考えるよりもすべきことがある筈よ?……明日は何の日なのか、あなたが一番分かっている筈」



 ミユに言われなくても分かっていた。俺がするべきこと。祖母の墓参りに行くことだ。

 人形のことがあって以降、俺は祖母のことを思い出そうとしなかった。いじめられたことを祖母のせいにして逃げていたからだ。


 小さい頃、おばあちゃんっ子だった俺。仕事で忙しい両親の代わりに、いつも俺の面倒を見てくれていたのは祖母だった。

 祖母は生前から、ある人形を大切にしていた。それがミユという女の子の人形だ。そして、いつも言っていた。『もし私が死んだ時には、この人形を祐太にあげるからね。』と。

 祖母は、俺を寝かしつけるためにいつも優しい子守唄を歌ってくれていた。その歌が、ミユも俺も大好きになったあの歌で、よく鼻唄で歌っていたのだった。


 あんなに優しくしてくれた祖母なのに、中学生になってから俺は墓参りに一度も行かなかった。何かと理由をつけて逃げていた。あまりにも酷すぎる行動だとずっと思っていた。

 しかし、それを続ける内に墓参りに行く気がますます無くなっていった。


 きっと、俺は怖かったんだと思う。人形を粗末にした上に、墓参りに行かなかった俺のことを、祖母が恨んでいると思ったからだ。




「きっと、私がこうして現れたこともおばあさんからのメッセージだと思うの」


 俺が考えていることが丸分かりなのか、ミユはそう話を始めた。


「私がずっと祐太くんの顔を見たかったように、おばあさんも成長したあなたの姿が見たいと思っている筈よ。だって、あなたは彼女にとって本当に大切な孫なんだから。」



 何だ……?視界が滲んでいく。



「お母さんも、ずっとあなたのことを心配していた。あなたが、人形を倉庫にしまい込んだ日から、お母さんはずっと人形を処分することを考えていたの。人形が無くなれば、あなたの気持ちも少しは楽になるかもしれないと思ってね。


でも、出来なかった。形見だってことは知っていたし、大切にしてきたことも分かっていたから。だから、祐太くんが一人暮らしを始めたこのタイミングで人形を処分することに決めたの。あなたに重荷を背負わせないようにね。」


「……そう……だったのか」


「逃げちゃだめだよ、祐太くん。あなたには、こんなにも思ってくれて、味方してくれる人がいるんだから。……私もあなたの幸せを思う一人だしね」



「……ミユ。ありがとうっ……」



 久々に流した涙はとても温かくて、俺の心の奥底にたまっていた、ドロドロとした気持ちを全て洗い流してくれたようだった。



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