表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第八話




「そして、中学生になった時……私は祐太くんの部屋からいなくなった──」



 その言葉で更によみがえる記憶。……そうだった。中学生になってから俺は変わろうとしたんだ。小学生までの俺は、祖母の形見の人形のせいで馬鹿にされ、いじめられ、惨めな思いをしてきた。つまり、全ては人形のせいだ。そう決めつけ、俺はあの人形を倉庫の奥にしまい込んだんだ。


 地元から少し離れた学校に、電車で通う日々。新しい環境に、新しい友だち。もちろん人形のことを知っている人なんて一人もいなかったから、楽しい日々を送っていた。


 そして、そんな日々を送りながら俺の中から人形の記憶は消えていった。いじめられていた過去を消すようにして、高校、大学とその事を思い出すことはなかったのだ。





「……暗い倉庫の中で、私はいつも祐太くんのことを考えていた。私の中の祐太くんは、小学生の姿で止まっていたから。……でも、仕方ないとも思ったの。成長するにつれて私は必要なくなるものだと思っていたから。だからね、倉庫に入れられたことも怒ってなんかいないの」


 ミユの言葉を聞きながら、俺は何も言うことが出来なかった。


「中学生、高校生になった祐太くんは、どんな素敵な男の子になっているだろうか。それを考えるのが本当に楽しくてね。本当にその事しか考えていなかった。それと同時にいつも思っていた。


──もう一度祐太くんに会いたいって」



 あまりに優しい笑顔で、優しい口調でそう言うものだから、心が痛むのも仕方なかった。

 何て酷いことをしてしまったんだ……と今ならそう思える。しかし、あの時の俺は人形から離れることしか考えられなかった。これ以上、自分が傷ついてしまうことが怖かったからだ。


 もし、中学生の時に人形に魂が宿っていることに気づいたとしたら、どうだっただろうか?きっと同じだったと思う。そんな人形のことを気味が悪いと思い、倉庫にしまい込む……いや、酷ければ処分していたかもしれない。





「……ミユ。……ごめん」


「謝らなくてもいいの。だって、私の願いは届いたんだから。今こうして祐太くんと向かい合って、話をして……こんなにも幸せなことはないよ?」


「……ありがとう。俺もそう思うよ。……でも、何で何年もの間倉庫の中にいたのに、こうやって会いに来ることが出来たんだ?」


「私が強く願ったから。きっとその願いを神様が叶えてくれたんだと思う」




「……そうなのか」




「──何て綺麗なこと言いたかったけど、違うんだよね」


 ミユはそう言いながら、自嘲の笑みを浮かべる。俺はそのまま彼女の次の言葉に耳を傾けることしか出来なかった。


「私の願いを叶えてくれるなら、もっと早く叶えて欲しかった。もっと早くあの体から解き放たれたかった。何もかもが遅すぎたの」


「遅すぎたって……どういうことだ?」



「だって……私にもう帰る場所なんて無いんだもん。あの人形は


──2週間ほど前に処分されたんだから」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ