第六話
夢を見た。あの夢を。
その夢の中で、俺は歌を歌っていた。ミユが大好きな歌なんですと言っていた、でも深く語ろうとはしなかったその歌を、自分自身で歌っていたのだ。
ここは……実家の俺の部屋。学習机の上には、ボロボロになったランドセルと、その隣には教科書が乱雑に積み上げられている。
その部屋の中で、俺は誰かに話しかけていた。部屋の中には誰もいない。それでも、俺は誰かに向かって話し続ける。返事がくることは無かった。
そんな俺の頬を、熱いものが伝った。
***
目を開けると、いつもの天井。いつもと何も変わらない朝……ではなかった。いつもなら見えるミユの姿が見えない。
俺はガバッと起き上がった。もしかして、俺が昨日あんなことを言ったから、正体を知られたと思った彼女は……消えてしまったんじゃないのか……!?正体を暴かれるのなら、いっそのこと消えてしまおうと……。
すぐさま起き上がると、慌ててあたりを見回す。そして、俺は目を見開いた。
彼女は、俺の掛け布団に寄り添うようにして体を小さく丸めて眠っていたのだ。ミユが眠っているところなんて初めて見た。でも、それだけ気を許してくれたって事なのか……?
「ミユ……?」
恐る恐る声をかけながら、彼女の頭に手を伸ばす。そのまま彼女をすり抜けた指は、温かさも何もない布団に触れた。
そんな彼女のことを見つめていると、口が微かに動いたのが分かった。
「……………た…………く……ん……」
彼女は誰かを呼んでいるようだ。
何とか聞き取ろうと、俺は呼吸をするのも止めて、耳をすます。
「…………ゆう………た……くん……」
「……えっ?」
俺のその声に、ミユはパチリと目を開いた。そして、上から見下ろしている俺の顔を見て固まる。そのまま、勢いよく起き上がると、彼女は俺から距離を取った。
「……おはよう」
「……お、おはよう……ございます」
彼女は恥ずかしそうに下を向きながら挨拶を返す。
「ミユ……あのさ、話しても良いか?」
「……内容によります。あと2日、時間はあるんですからね」
「2日しかないからこそ聞いてほしい。真実が知りたいんだ」
俺の真剣な目に、言葉にミユは悲しそうに頷いた。タイムリミットがすぐそこに迫っていることは、自分が一番分かっている。だからこそ、俺は彼女の正体を暴こうと思う。
それが、彼女との別れになると分かっていても──。




