第一話
「……まじかよ」
日が暮れた直後の薄暗い部屋の中。
まさか自分がこんな経験をするなんて思ってもみなかった。ただ前髪を整えようと、鏡を見ていただけなのに……それだけだったのに……映っている。
部屋の片隅に、体育座りをした髪の長い女性がいる。俯いて、足と足の間をじーっと見つめている様子の……幽霊といえば良いのだろうか?真っ白な肌と、ワンピースがそのように思わせるのかもしれない。
と、とりあえず、頼むから、こっちを見ないでくれ……。目が合ったら多分俺は終わりだ。そう思いながらも、その幽霊から目をそらすことは出来なかった。
ワンルームの一人暮らし。逃げる場所も、頼れる人もいない。
どうすれば良い……?だんだんと焦りが出てきた。
そのまま固まっていると、その女は何かに気づいたのか勢いよく顔をあげる。そして、こちらを向いた。
鏡越しに目が合ってしまい、終わった……と思った。
「……見えるの?」
そのままの状態で、ボソボソと尋ねてくる。答えたらダメなのか、答えない方がダメなのか、それさえも正常に判断が出来ないほど、俺の心臓は激しく音を立てていた。
冷や汗が止まらない。とにかく、この部屋を出ないと……!!そう思い、駆け出そうとした瞬間──
「──待って!!逃げないで!!」
そう幽霊が叫んだ。その声は、先程と比べて透き通っていてきれいに部屋の中に響き渡った。
俺は思わず、その女を見る。
立ち上がった彼女は、よほど必死に叫んだのか肩で息をしていた。
「……私、きっとあなたが想像してるような……悪いものじゃないから……。多分だけど」
「……た、多分って」
「とっ、とりあえず怖がらないでっ?話をしましょう?」
もう訳が分からなくなって、とりあえず落ち着くためにも電気をつけることにした。カチカチッと音がしてから、部屋が明るくなる。
それでも彼女は消えなかった。
確かにここに存在している。その事実は変えようがなかった。
「……分かった。とりあえず、俺には近づかないでくれよ?もし、少しでも近づいてきたらすぐにここから出ていくからな?」
「ええ。約束します。話をしたいだけですから」
俺と幽霊(?)は、微妙な距離を保って話を始めた。