映画みたいな光景
「で、何をしていたの?」
エリックが天使みたいな笑顔で私にそう聞いてきた。
目が笑っていない……。
ヒィ。怖い。心臓が早鐘のように鳴り響いている。
「ほら、あれよ。ルークがお化けが見えて怖いよって泣くから私が慰めていたのよ」
「……」
「……」
ルークはつっこみどころがありすぎて何も言えないっていう目をしている。
「君だったら例えキスする現場を見られたとしても人工呼吸よとでも開き直って言い訳するんだろうな」
藍色の目でバカにするようにそう言われた。
「……と、とにかく。私は失礼するわ。後は二人でホモパーティーでも開いてなさい。ごきげんよう」
私は優雅にスカートをつまみ礼をしてから退散した。
ルークの助けを求める声が後ろから聞こえたけれども私は何も聞こえなかった……ということにしておこう。
学校が終わり家から帰っても胸に生まれた喜びと安心は消えなかった。
やっぱり今までいた世界から放り出されて新しい世界で生きることは怖かった。
ホームシックになったりもしていた。
だけど、私にはルークがいる。彼も同じ仲間なのだ。
未来を知る彼と私が二人いれば、死亡フラグだって折ることができるかもしれない。
様々な考え方が浮かんできて、なかなか寝付けなかった。
ふと金色の月に導かれるようにして2階のバルコニーに出た。
木々がざわざわと揺れる音を聞いていると心が落ち着くような気分になった。
「ノエル。そこにいるのか?」
大人っぽい声が辺りに響きわたった。
「その声はピーター?」
「そうだ」
木々の間からピーターが現れた。
「今から玄関に行こうとしていたんだけど、君の姿が見えたからつい声をかけてしまった」
バルコニーに立つ私とそれをまっすぐとした瞳でみあげる彼。
まるで映画で見たロミオとジュリエットのようだと思った。
「ノエル。僕は戦争に行くことにしました。その前に君にどうしても伝えたいことがあるんだ」
ピーター・ノルマンティー。
彼は物語の中で一番最初に死ぬ予定の男だ。
死因は戦死。
私は……そんな彼とはあまり関わりたくなかった。