第一話
トイレっていう言葉がよく出てくる小説ですが、食べ物を食べながらでも読めるので大丈夫です(笑)でも主人公はちょっと不良はいってるのでご容赦下さいませ。恋愛はちびっと入っておりますが(第一話ではまだですが)基本的にコメディーものです。ファンタジーというくくりに入れてありますが、コメディーとどっちにするか凄く迷いました。
授業の始まりのチャイムがけたたましく鳴り響く中、神凪満は教室の前の廊下に立たされていた。まるでサ○エさんに出てくるカツオのようなシチュエーションである。
しかし、宿題を忘れるといった行為は決して満だけに限ったことではない。それならば、なぜ満は廊下に立たされているのか。それは下級生を泣かせたからである。満はいじめられっこかいじめっこかどちらかと聞かれると、間違いなく後者で、よく学校の問題児として、親が先生に呼び出されていた。同じ双子でも、神凪優の方は割と普通の学生である。
テストで最高得点32点をたたきだした時は、満はもの凄く喜んだが、当然母親には叱られた。小学生相手にカツアゲをし、わずか2千円を巻き上げたことは我ながら恥ずかしい行動であった。
オシャレの一環として右手の人差し指にしてある、天使のマークがついた指輪を光に反射させ、キラキラさせながら満は思った。
(やってらんない)
ふらふらと、まるで行き場の無くした風船のようにおぼつかない足取りで階段を下り、学校の外へ出た。まだ午前中ということもあって人通りもなく、車はまばらに通り過ぎるだけだった。いつも悪友達とたむろしている、学校から10メートルも離れていないコンビニに立ち寄ると、なぜだか急にもよおしたくなった。ここのコンビニはよく行くが、トイレを使うのは初めてだ。そんなことを満はゆらゆらと男子トイレへと向かった。すると、ちょうど清掃員のおじさんとすれ違った。
「ああ、そこ使うのかい?それは構わないけど、使った後は腕にある時計に注意しな」
おじさんはそれだけ言うと、少し曲がった腰を左手で押さえながら幽霊のように行ってしまった。満は急な言葉に、とっさに両腕を確認したが、自分は時計などはめていないことに気がついた。あのジジイはボケている。あんなジジイを雇ってこのコンビニは大丈夫なのだろうか。そんなどうでもいい心配を少し心配しながらトイレのドアを開けた。ズボンを降ろし、便器に座り、腕を足に置き、しばらくぼーっとしていると、チカッとトイレのドアの奥が輝いた気がした。満は、なぜだかその光が学校の先生に見つかった光だと思えてしまい、慌ててドアを開けた。だが、そこには平凡な、さっきと同じような世界が広がっていた。先生や生徒はおらず、さっきと同じ列に、さっきと同じ商品が並んでいる。
(あれ?)
と思ったのは、いらっしゃいませーと言う店員の顔。さっきはぶしょう髭を生やしたオヤジだったのに、若々しいきりりとした青年に変わっていた。きっと時間が来て交代したんだろう。そう思った次の瞬間、満は左腕に妙な違和感を覚えた。見てみると、そこには真っ黒な、だがかなり黒光りする時計がはまっていた。
12:34
もうそんな時間か。とも思ったが、自分はそもそも時計などしていなかった。
ピピピ ピピピ
時計が大きな音で鳴りだした。その音にびっくりしながらもその時間に何か意味があったのだろうかと考えた。普通、12時ぴったりとかに鳴るのではないのだろうか。自分の時計ではないので、ミツルはどこを押せば音が鳴り止むのか分からずあたふたとした。
ピーーー
やがて時計からは誰かが病院で死んだ時のような音が流れ始めた。その次の瞬間、ホログラムの文字が浮き出てきた。
名前 ミツル
職業 アタッカー
Lv 16
その文字には確かにミツルの文字が書かれていたが、なぜカタカナなのだろう。その後、ホログラムにはこう書かれていた。
ようこそ ラングースへ
ミツルの頭がパニックにならないのは、彼が能天気な性格なせいなのか。どちらにせよ見当たる言葉が出てかなかった。
あまり慌てずコンビニを出て、時計を眺める。だが何にも反応がない。時計をぶんぶんと振ってみた。カッと時計が光り、一筋の光がさした。学校の方向からだった。満はできればいきたくなかったが、光のさす方向がとても気になり、元来た道である学校へと戻ることにした。学校の中へと入ると、まるで世界に自分一人だけ。と言わんばかりの雰囲気がミツルを襲った。誰の気配も感じなかったからである。そこで初めてミツルは焦せりだした。慌てて自分の教室へと戻ると、机はあるにしろ、ガラーンと教室の中は誰もいなかった。ぞわりとミツルの背中が凍る。教室の隅から隅まで見渡すと、端っこの方に黒い人影が見えた。ゆっくりと近づくと、かなり見覚えのある顔があった。
「ユウ!?」
そこにいたのはミツルの双子の弟のユウだった。ユウはガタガタと手を口につっこみ震えている。双子のくせに、ミツルと違い結構かっこよく、ラブレターや告白、バレンタインデーなんかにチョコを貰えるユウであったが、怯えているその姿はまるで妖怪であった。
「ここお前の教室じゃないだろ、何やってんだよ」
妙に冷静なミツルの口調に感化されたのか、徐々に落ち着きを取り戻していったユウは、ようやく口を開いた。
「俺だっていたくていたんじゃない。ミツルを探しに来たんだ」
「俺になんの用だったんだ?」
満の話はしっちゃかめっちゃかだった。光ったのがトイレで、外に出たらドラゴンがいた、とか。まだ落ち着いていないユウの背中をばしっと叩き、カツを入れた。
「ここは、俺達のいた世界じゃないんだ。何か、いや、何もかも変なんだ」
何もかも、というが、そこまで何もかもじゃない気がした。確かに変なことは起こったが、コンビニや学校があること、こうしてユウがいることは、あまり不思議じゃない。だがクラスの皆、先生までいないのはどうしてなんだろう。
「みんな連れションでも行ったんじゃないのか」
呆れて満がため息混じりにそう言った。
「そう!便所なんだよ!」
いきなり自分の言ったことが認められ、ミツルはびくりとした。
「俺、学校のトイレに入ったんだ。そして出たら、次はこんなところに」
ユウの目にはじんわりと涙が見えていた。こういう所はユウは弱い。いじめっこの兄ミツルと違い、弟のユウは、優秀ではあるが、対応力というものがない。
「同じさ。俺もコンビニのトイレに入ったんだ。そしたらこんなことに。それよりユウ、時計から変な文字が見えなかったか?」
ミツルはユウの左腕にはまっている黒い時計を見た。
名前 ユウ
職業 魔法使い
Lv 5
「レベル5って、弱いな。俺レベル16だぜ」
けらけらとミツルは笑った。ユウは自分と違い、余裕のミツルにカッとなった。
ピーーー
ミツルの時計が鳴り出した。
「来た!」
「ひぃぃぃ」
兄のミツルはもう時計に慣れていた。時計の音などもうそよ風だ。また一筋の光が一方方向に向かっていた。今度は学校の外。
「これを追いかけるとまた人に出会えるかもしれないぜ?」
ミツルは意地悪く口角を上げた。
今後、満と優など、登場キャラはカタカナで表現することが多くなります。でも、実際は漢字でちゃんと名前があります。名前は考えるの好きですが、どうせカタカナになってしまうので悲しいです。