その3
※ ※
「覚悟しなさい、マッスルX! 武器が効かないなら、呪文で倒すまでよ!」
どうやら形から入るタイプらしく、それまでの破られたメイド服から「賢者」へと変装を終えただけで一転して強気な姿勢を取り戻すと、今度は水色になった長い髪をかき上げながら不敵な笑みを浮かべるロザリィ!
ただ、どんなに清楚で神秘的な「賢者」の格好をしても、口にくわえた大きなパイプがメイド服の時と同じくすべてをぶちこわしているのが、とても残念ではあるが……
(でもなぁ、正体がバレバレなのに、今更「変装」って言われても……)
(どう考えても単なる「コスプレ」ですよねぇ……)
(まぁ探偵服やメイド服の時よりエロい格好だからいいっすけど……)
ホフマンと衛兵たちがひそひそと突っ込みを交わす中、ロザリィは呪文の詠唱を始めると、宝箱に手を伸ばそうとしていたマッスルXの無防備な背中に向け、賢者の杖を振りかざす!
「くらえっ! 《多弾頭マジック・ミサイル》!」
瞬間! ロザリィの杖から10発もの《魔道弾》が出現し、そして呪文の詠唱が終わるとともに、そのまま弾幕となって乱れ飛んだ!
「す、すごい!」
その光景にホフマンたちが驚愕の叫びをあげる!
これほどの《魔道弾》を同時に放てるのは、彼女の魔道の力量が相当なレベルであることを示している。通用しなかったとはいえ、先ほど見せた剣技の冴えといい、確かに色々と残念なところはあるものの、彼女が凄腕の魔道戦士であることは、紛れもない事実であった。
どかーん、どかどかどかーん!!
閃光と共に、爆音が轟く! ……とはいえ、撃ち出しはしたもののさすがに10発もの魔道弾をコントロールするのは不可能なようで、そのうちの半分は的を外れ、容赦なく部屋を破壊してホフマンを青冷めさせたが、だがそこは的がでかい分、少なくとも半分はマッスルXに見事命中した--はずであった!
「……やった!」
爆発の閃光から顔を背けていたロザリィが、自信満々で視線を戻す。
が、そこにあったのは、全然効いた様子も無く仁王立つ、マッスルXの姿であった! しかもなぜか胸の筋肉の盛り上がりを見せつけるように、サイドチェストのポージングまで決めている。
「そんなバカな……私の必殺の《魔道弾》を喰らったのに……」
驚愕のあまりによろめくロザリィに向けて、マッスルXがニヤリと笑う。
「ふっ……賢者よ、貴様は《ハイド・イン・シャドウ》という技を知っているか?」
「《ハイド・イン・シャドウ》……暗闇に隠れて相手の攻撃を完全に交わすという『盗賊』の特殊技能……ま、まさか!?」
「そうだ。《魔道弾》の接近に気づいた俺はとっさにこのスキルを発動させ,台座の後ろに身を隠した。だから無事だったのだ!」
「そ、そんな……あれだけの巨体のくせに、一瞬のうちにそんなことをやってのけたなんて……!?」
ぞくっ……戦慄に背中が粟立つのを感じたロザリィだったが、でもよく見れば無傷ではあるものの、マッスルXの身体のあちこちからはプスプスと煙があがり、衣装もほとんどボロボロになっている。
(……って、どう見ても直撃してるじゃない!!)
がびーん! 衝撃のあまり顔に縦線が入り、白目になるロザリィ。
まぁ考えてみれば、隠れるのに使った台座よりもマッスルXの身体の方が大幅にでかいのだから、当然っちゃ当然なのだが、しかしそれは逆に言えば、あれだけの《魔道弾》が直撃したのにも関わらず無傷というわけで、まさに問答無用の筋肉っぷりであった!
「しかしなかなかの魔道であった。『隠れていなければ』さすがに俺とて無傷ではいられなかったぞ」
だがそんな彼女のショックも知らず、マッスルXは大げさに肩をすくめると、未だ呆然としているロザリィに向けて、ビシッ! と指先を向けた!
「なかなかやるな、賢者よ! 面白い……今度はこちらの番だ!」
そしてそのまま腕を頭の後ろに組んでたくましい腹筋と脚部を見せつけるアドミナブル・アンド・サイのポーズで、ずんずんと歩み寄るマッスルX!
(……や、やばい!)
マッチョ嫌いの身には悪夢のようなその光景に、ロザリィはハッと我に返るものの、マッスルXはすでに目の前まで迫っている!
視界一面を埋め尽くすかのような強烈な筋肉のプレッシャーに、ロザリィの危険メーターが振り切れた!
(この距離では《魔道弾》は撃てないし、どうせ効かない! なら……)
しかしロザリィとて歴戦の《盗賊殺し(シーフ・ハンター)》である。瞬時に戦術を組み立てると、呪文の詠唱と共に杖の先端に魔力を集中させる!
(直接、あいつの身体に私の魔力をたたき込む! ゼロ距離攻撃よ!)
ロザリィが唱える呪文は《理力の杖》。術者の魔力を攻撃力に換算するこの技は、魔道戦士であるロザリィにとってはまさに接近戦用の奥の手だった!
「喰らえっっっ!!」
ロザリィが叫んだ瞬間、魔力を帯びた杖の先端が激しく光り輝く! そしてロザリィはその杖をまるでバットのように、迫るマッスルXのがら空きの脇腹へ、力任せのスイングでぶち当てた!
「《フルスイング・フール・ストラァァイクッッッ》!!」
バキィィィィィ! だが、マッスルXの脇腹にジャストミートした瞬間、杖は分厚い外腹斜筋に弾かれ、木っ端みじんに砕け散る!
しかし、そこまでは予想済み! その瞬間、《理力の杖》の術で杖の先端に蓄積された魔法力が、ゼロ距離からの衝撃となってマッスルXの身体にたたき込まれる--
だがその刹那!
「ふんはぁっ!!」
マッスルXはアドミナブル・アンド・サイのポーズから力強く両腕を振り下ろすと、そのまま軽く前傾姿勢となり、身体中の筋肉の全てに力を込めた!
モストマスキュラー! その筋肉美を見せつけるポージングの中でも最も力強い構えとともに、一気に盛り上がった筋肉のうねりが生んだ振動波が、魔道の衝撃波を受け止め、逆に--勢い良く弾き返した!
「そ、そんなぁぁぁぁぁ!!??」
ジャストミートした時の衝撃に、更に弾き返された魔法力と、とどめにモストマスキュラーで開放された『筋肉波』までもが加わった圧倒的な反発力が、絶句するロザリィを軽々と吹き飛ばし、勢い良く壁に叩きつける!
「☆◎▼#@〓!?」
思わず息が詰まった次の瞬間、ロザリィは自分の両足首がまとめてつかまれたのを感じたかと思うと、そのまま逆さ吊りの状態で高々と持ち上げられていた。
「きゃ、きゃあああああ!?」
当然のようにミニスカートがまくれ、すらりとのびた足と純白の下着が露わになる。恐怖と恥ずかしさに何とかふりほどこうとするも、両足首はガシッとつかまれビクともしない。
そしてロザリィの目の前には見事に六つに割れた腹筋が見える。……と言うことは……
「下半身の鍛え方が甘ぁぁぁぁぁい!!!」
「きゃうううう!」
マッスルXの放つ大音声が白い下着に覆われた敏感な部分をビリビリと直撃して、思わず声をあげてしまうロザリィ。
「よいかっ! バットのスイングに重要な筋肉は、下半身! 特に股関節周辺筋だっ! こんなにけしからん柔らかさで、力強いスイングなどできはせんわっ!! 今日から毎日ランニング50キロ、スクワット1000回も追加だっ!」
そう叱咤しながら、また遠慮容赦の欠片も無く、むき出しにされたロザリィの下半身全域を触りまくるマッスルX。
「やめてぇ! そんなとこに向かって大きな声出さないでぇぇ! あと、そんなとこそんなに触られたら私……私……!」
片手一本で逆さに吊り上げられた状態のロザリィの身体がびくんびくんと跳ねる。マッスルXには別にいやらしい意図はなく、単に筋肉チェックをしているだけなのはさっきの経験でわかっているが、かと言って乙女にとって耐えがたい恥辱なことに変わりは無い。
しかもそんな光景をホフマンや衛兵たちが、固唾を飲んで見守っているのだからなおさらだ!
「だ……だめ……見ないで……」
逆さ吊りの状態で頭に血が集まるため、だんだん意識が朦朧としてくる。頬はのぼせたように上気し、息が次第に荒くなる。しかも抵抗するうちに大きく開いたワンピースの胸元が更にはだけて、ますます大変なことになってしまっていた。
そして周囲の食い入るような視線を浴びながら、最後に再び股関節周辺筋を念入りにもみほぐされたロザリィは、とうとうたまらずに絶叫した!
「もう……もう……らめぇぇぇぇ!!」
その口からぽとりとトレードマークのパイプが落ちる。
そしてそのままロザリィはぐったりと動けなくなってしまった。
「むう、これしきのことでもうダメだとは……ここは『逆立ち腕立て伏せ』もメニューに加えるべきか……」
一人でふむふむと納得しながらロザリィの身体を床に横たえると、赤パンツの中から取り出したメモ用紙にサラサラと筋トレメニューのまとめを書き留めるマックスX。
やがて満足げにうなづくと、まだ脱力して動けないでいるロザリィのお腹の上にそれを置き、「精進するが良い!」と力強く告げたマッスルXは、再び宝箱の方に戻っていった。