その2
※ ※
「うははは、左の黄金ダンベルよ、我がものになれい!」
ズンズンと足音を響かせ、マッスルXが宝箱に迫る!
「くっ! と、止まれ!」
「それ以上は行かさんぞ!」
それまでマッスルXのあまりのインパクトに呆気にとられていた六人の衛兵達だったが、さすがに我に返ると一斉に剣を構える。
そしてマッスルXをぐるりと取り囲み、じりじりと包囲の輪を縮める衛兵達!
「抵抗するか……ならやむを得ぬ。『剣』が相手では多少不利ではあるが……」
そんな衛兵達を「X」のマスク越しに一瞥すると、マッスルXは黄色いマントに覆われた腰の当たりから何かをむんずとつかんで引き抜いた!
「行くぞ! マッスル・ダガァァァー!」
その叫びとともに引き出されたのは、刃の部分が1mを超える、グレートソードと見まごうばかりの超巨大な……ナタだった!
「いやそれ『ダガー』じゃないから!?」
驚愕する衛兵達の前で、しかもマッスルXはその大ナタを片手で軽々と操ったかと思うと、一振りする毎に彼らを軽く吹き飛ばしていった。
(と、『盗賊』のお約束は「両手持ちの重い武器は装備できない」……それをこんな型破りなやり方であっさりと無視するなんて……)
どこが不利なのだがさっぱりわからない程の圧倒的な大ナタの破壊力で、受ける剣ごと衛兵達をなぎ倒していくマッスルXの姿を、茫然と眺めるロザリィ。
だが、その瞳が勝機を見いだしキラリと輝く!
(でも『盗賊』にはもう一つお約束があるわ……「盗賊は金属製の鎧は身につけることができない」。見たところ防具と言えるのはマントとタイツのみ! なら急所さえ狙えば……)
すうぅぅ、意識を集中させるべくロザリィが大きく伊達パイプを吸う。
そして次の瞬間、ロザリィはメイド服のスカートを翻して、マッスルXに背後から襲いかかった!
そしてその手にはスカートの下に隠し持っていたナイフが握られている!
「もらった!」
マッスルXはとにかく宝箱に向かって前進するのみで、背後はまさにがら空き状態だった。そしてそんな無防備な背中に、鋭利な刃の切っ先が過たず突き刺さる……はずだった、が!?
「え”!?」
ポッキーン、やたらと爽快な音とともに、ナイフの刃先が折れて弾け飛ぶ!
(な、何よ、今の手応え……!?)
衝撃にじんじんしびれる右手を押さえて、その場にうずくまるロザリィ。
そう、確かにロザリィの一撃はマッスルXのマントを貫き、その心臓を背後から串刺しにしたはずなのに--その手応えたるや、まるでやたら固い岩石にでもぶち当ててしまったかのような!?
「……この、馬鹿者がぁぁぁぁ!」
その瞬間、マッスルXがいきなりぐるりと振り返ると、反射的にビクつくロザリィに向かって、大音声で一喝した。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」
そのあまりの迫力に圧倒され、ロザリィの口元から思わずトレードマークのパイプがぽろりと落ちる。
「ふん!」
すくみあがった彼女の両腕を、マッスルXはいきなり左手でガッとつかまえたかと思うと、そのまま軽々と上に持ち上げる!
そして身長差のため宙づりの形になったロザリィのメイド服の胸元に右手の人差し指をかけると、続けて一気に下に向けて引き裂いた!
「きゃあああああああっっっ!?」
何というパワーか! わずか指一本によってロザリィのメイド服の上半身はバラバラにちぎれ飛び、その一見スレンダーなボディに似合わぬ形の良い胸がむきだしになる。
「い……いやぁぁぁぁぁ!?」
おおおおっ!! それまで大ダメージを受け意識朦朧としていた衛兵達や、ただただ怯えていたホフマンまでもが、美少女探偵のあられもない姿にとたんに生気を取り戻した。
「やめてぇぇ! 見ないでぇぇ!! 放してよぉぉぉ!!」
一同の視線を受け、恥ずかしさのあまりに真っ赤になって叫ぶロザリィ。
だが、マッスルXは一向に意に介したようではなく、ハーフエルフの少女の美しい裸身をしげしげと眺め回すと、続いて自由な右手を差しのばし、何の遠慮もなく、その身体をつつき、つまみ、揉み、なで回した!
「!!!!!!!」
あまりといえばあまりの行為に、声も出せずに固まるロザリィ。『盗賊殺し(シーフ・ハンター)』を自認する彼女にとって、狩るべき相手である「盗賊」から、しかも人前でこのような辱めを受けるなど、耐え難い屈辱である。
だが、かといって抵抗するすべもなく、ロザリィは固唾を飲んで見守るホフマンたちの前で、ただただベソをかいて、マッスルXのされるがままになるしかなかった。
「やはりか……」
そして少女の上半身を一通り触りまくると、マッスルXは不意にロザリィの両腕を離した。
解放され、どさりと床に尻餅をついたロザリィが、慌ててむき出しの胸元を隠す。
そんなロザリィを上から見下ろして、マッスルXが高らかに笑いながら言った。
「……おい、メイド! 貴様なかなか良い身体をしているな!」
「な……なぁ!?」
ド直球なセクハラ発言に、ロザリィの顔が羞恥で真っ赤になる。だが、解放され、持ち前の気の強さを取り戻したロザリィは、涙目になりながらも、キッとマッスルXをにらみつけた。
「な、何よ! これ以上変な事しようとしたら、こ、殺してやるから!」
必死で虚勢を張るロザリィであったが、残念ながらそんなことはまったく気にした様子もなく続けるマッスルX。
「うむ、実に良い身体だ。弾力もハリも申し分無い。だが……」
そのとき、不意にその口元から笑いが消えたかと思うと、マッスルXはビシィ! と右手の人差し指をロザリィに向かって突き付け、一喝した!
「鍛え方が足りぃぃぃぃぃんん!!」
(え”え”え”え”え”!!)
思いがけない角度からのダメ出しに、衝撃を受ける一同。
「貴様、それほどの身体的ポテンシャルを持ちながら、トレーニング不足にも程がある! せっかくの筋肉が泣いておるぞ! 今日からベンチブレス&腕立て&腹筋、各1000回を義務づける!!」
それだけ言い放つと、もう興味は無いとばかりにくるりと背中を向けるマッスルX。そして茫然とへたり込むロザリィをしり目に、マッスルXはのっしのっしと宝箱に向かって進んでいった。
そんな中、しばらくの放心状態の後、ようやく我に返ったロザリィの肩が、次第に小刻みに震え出す。
(……こ、この私をひんむいておいて……まさか筋肉チェックだけが目的だったなんて……)
自分の剣技が全く通用しなかったことや、人前で裸にむかれたことは確かにショックだった。
だが、それ以上にこの扱いは--「女」として耐え難い屈辱!!
(絶対に……許せない!!)
その瞳が悔し涙と共にキッ!と見開かれる。瞬間、ロザリィは側に落ちていた愛用のパイプを拾うと、部屋の隅に置いておいた自分のザックへとダッシュで移動し、その中から取り出した衣装を一瞬の早業で身にまとった。
今度の衣装は胸元が大きく開かれた純白のミニスカワンピースで、露出度高めの素肌を黄色い手袋とブーツ、そして空色のマントが覆っている。
そして額には青い宝玉が付いた金色のサークレットをはめ、大きな木の杖を手にしたその姿は、どうやら彼女的には「賢者」をイメージしたものらしい。
「『変装』完了! 次は私の呪文を喰らうがいいわ!」