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第七十八話「リア充爆発しろ」

「ひええ、ゆるしてくださいい」

「そんなに怯えなくてもいいですよ。ほら、もっと力を抜いて? 身も心も私に委ねてください」

「そ、そんな、無理ですよ。ぼくとあなたはまだ、その、そんな関係じゃ」

「なら、今からその関係を始めればいいじゃないですか。恋人、恋人になりましょう恋人。キスから始めましょうか。それともやっぱりデートを重ねてからの方がいいですかぐへへへへ」

「ちょっ、やめて! お願いやめてください! 顔近い!」

「あ、もしかして負い目を感じているんですか? なら全然問題ないですよ。私はショタっ子なら人間でもアンドロイドでもイケるクチですから。相手を種族で差別するつもりは毛頭ありません」

「やめてー! 鼻息荒いー! 顔近づけないでー!」

「ああ、そのメタリックなお顔。メタリックな瞳。メタリックなお耳……可愛い。綺麗。食べちゃいたい……」

「ひゃん!」

「まあ、いい声で鳴くんですね。感度も抜群みたい。もっと鳴いてくださってもいいんですよ? ほら、こことか……」

「うひゃあん! あ、あのっ、指っ、どこ触ろうとしてるんですかあ!?」

「どこって、決まってるじゃないですか。オトコノコの大事なト・コ・ロ。なんちゃって」

「ひっ……やめ……!」

「もう我慢出来ません。さわらせていただきますね。ほおら、さわさわ、さわさわ……」

「いやあああああ!」





「ベラ・ベラドンナ。ニューヨークシティ警備部隊隊長。幾多のトラブルを切り抜けてきた百戦錬磨のエース」

「そして可愛い物に目がなく、夜の撃墜王でもある。おまけに二刀流だ」


 集会がお開きになった後、ショーとオートミールは残ったメンバーに向けてベラの人となりを簡単に説明した。ちなみにここに残っていたのは集会が終わった直後にその場に残像が残る程の超スピードでギムレットを担ぎ上げたベラと、その彼女に拉致されたギムレットを除く全員だった。

 同じ頃、別室でギムレットが艶やかな悲鳴を上げていたことには誰も気づいていなかった。


「それ、ギムレット平気なんですか?」

「ああ。それは平気だよ。少なくとも彼女はハードなプレイは好みじゃない」


 不安げに尋ねたエムジーにオートミールがそう答えた。


「いや、そういう意味でなくて」

「貞操の意味でかね? そっちならもう手遅れだ」


 オートミールが他人事のように言ってのける。今更ここで何を言ってももう無駄か。エムジーは観念したように肩を落とした。


「さて、こちらから話したい事はこれで全てだ」


 室内が静かになった所でオートミールが手を叩きながら告げた。彼らの背後にあったドアが自動で開かれ、オートミールがその方を手で指し示す。


「改めて、今日は部屋でゆっくり休んでくれ。明日の事は明日に話すからさ」


 その後、残っていたクルーは言われるままに退出し、それぞれ割り当てられた部屋へと帰っていった。


「ああ、ちょっと。ショーは残って」


 しかしショー・コッポラはどさくさに紛れて帰ろうとしたところをオートミールに見つかり、結局彼の仕事に付き合わされる羽目になった。


「これくらい一人でなんとかしてください」

「できると思っているのかね?」

「威張らないでください」





 部屋に帰ってきた頃には、外は既に夕日が地平線の彼方に落ち始めていた。それから暫くして、それぞれ個室ごとに夕食が運ばれてきた。

 料理はここで育てられた小麦を使って作られたパンと、ニューヨークシティで育てられた野菜を使ったスープだった。二つはそれぞれプラスチック製の皿に載せられ、一枚のトレイの上に置かれていた。

 パンはこんがりと焼き上げられ、底が平坦で上部が中心に向けて膨らんだ雲のような形をしていた。ロールパンと言うらしい。一方のスープは以前に見た小麦畑と同じくらい黄金色に輝き、鼻孔をくすぐる香ばしい匂いを湯気と共に立ち昇らせていた。中にはぶつ切りにされた人参とカボチャがゴロゴロ浮かび、それらはそれぞれ目が痛くなるほどに鮮やかなオレンジ色と黄色を帯びていた。

 これらは全て、この部屋に料理を運んできた男がライチに説明した事であった。


「ニューヨークシティってどこにあるんですか?」


 スープの中に浮かぶ野菜をフォークで突っつきつつライチが尋ねる。食事をカートに乗せて運んできたスーツ姿の男が興味と好奇心の籠もった声でそれに答えた。


「やはり気になりますか」

「それはまあ、それなりに」

「町は地上にはありませんよ」


 男がさらりと告げる。意味がわからずライチが野菜を突く手を止めて首を傾げていると、男が苦笑交じりに答えた。


「言葉が足りませんでした。確かに地上にはありませんが、別の場所に確実に存在していますよ」

「?」


 ますます意味がわからない。眉間に皺を寄せて頭から煙を出しそうな勢いで考え込んでいると、男が苦笑しながら彼に答えた。


「まあ、追々わかりますよ。食器は後で受け取りに参りますので、その時にお返しください」


 そう言ってカートごと踵を返し、男がゆっくり静かに退室する。ライチはこの直後のドアの閉まる音で意識を取り戻し、そして悩むのも何だか馬鹿らしくなってきたので大人しく食事を摂ることにした。ベッドに腰掛けて膝の上にトレイを乗せ、黄金色の海に浮かぶオレンジ色の岩礁の一つをフォークで突き刺す。


「ライチ、ちょっといいかな?」


 が、大口を開けてそれを味わおうとした所で、自分の最も愛する人間の声が締めきられたドア越しに聞こえてきた。食事を中断されたことに対して嫌な顔一つせずにライチはトレイをベッドの上に置いてからドアに向かい、ゆっくりと開いていく。


「一人で食べるの寂しかったから、一緒に食べてもいいかな?」


 僅かに開いたドアの向こうで、カリン・ウィートフラワーが控えめな声で尋ねてきた。その両手にはトレイが握られていた。


「もちろんいいよ」


 悪い訳がない。すぐさまドアを開け、カリンを中へと迎え入れる。そしてベッドで隣同士になって座りあい、二人仲良く夕食をいただくことにした。


「美味しいねこれ」

「うん。とっても美味しい」


 パンとスープだけの夕食は一見して質素な物に見えたが、その実とても味わい深く十分腹に溜まる物であった。大満足である。


「実は火星に居た頃にもさ、私、こういう『天然食』ってやつを食べたことあるんだ。でも、これはそれよりずっと美味しいの。なんでだと思う?」

「なんで?」

「君がいるから」


 それに好きな人と一緒に食べているのだ。美味しくない訳がない。


「ねえライチ」

「うん?」

「なんでもない」

「えー」


 名前を呼ばれただけで不満げなライチをよそに、カリンがぶつ切りにされた人参をフォークに刺して口の中に放り込む。その顔はとても幸せそうで、羞恥と興奮でトマトと同じくらい真っ赤に染まっていた。


「もー、なんなの? 何が言いたいの?」

「秘密。おしえなーい」

「ぶー。カリンのけちんぼ」

「けちんぼでいいもーん」


 クスクスといたずらっぽくカリンが笑い、つられてライチも呆れたように笑みをこぼす。

 二人はとても幸せだった。





「ひっく……えっぐ……ひくっ……」

「ああよしよし。怖かったねー、よく頑張ったねー。もう大丈夫だから。ね? どこにも怖い人いないからねー」

「もう、もうやだ、もうおうち帰りたい……」


 同じ頃、エムジーはベラの魔手から解放されたギムレットを全身全霊をかけてあやしていた。ここは本来ならばエムジー専用の部屋なのだが、そこに服が上下共にボロボロに破けて今にも泣きそうな表情を浮かべた少年がいきなりドアを開け放ちながら「助けてください! 他に頼れる人がいないんです!」と悲痛な声で叫ぶのを前にして、誰がそれを無視出来ただろうか。


「平気。もう平気よ。ここには私とあなたしかいないから。ね。もう大丈夫だから」


 全身を縮こまらせてガタガタと震わせながら自分の膝枕の上に顔を埋めるギムレットの頭を撫でながら、エムジーが特別優しい声を彼にかける。その直後、膝に伝わる振動が僅かに和らぎ、そこから不安に満ちた子供の声が響いてきた。


「ぐすっ……それ、本当なんですか? ここが安全だって」

「ええ、本当よ」

「本当に本当?」

「本当に本当」


 子供を諭すように、エムジーが同じ言葉を何度も重ねていく。その心にしみていく暖かな言葉を受け取り、ギムレットの体と思考回路も次第に落ち着きを取り戻していった。


「そうですか……もう、ここは大丈夫、なんですね……?」

「ええ。もう大丈夫。ここにいれば平気よ」


 この時、エムジーはギムレットが何故こうなったのかという理由について、少しも知らずにいた。ギムレット本人から聞いてもいなかった。だから何をもって大丈夫なのか、彼女本人にもいまいちわからずにいたのだった。


「安心して。あなたのことは私が守るから」

「守る……?」

「ええ。もう何が来てもへっちゃらよ。大船に乗ったつもりでいなさい」


 しかしそれでも、目の前のこの子が怯えきっていたのは事実だった。何に対して怯えていたのか、それは今は重要な事では無い。大事なのは、彼の不安を取り除いてあげる事だった。


「はーい、良い子、良い子。もうこのまま寝ちゃいなさい。私が見張っておいてあげるから」





 この時、エムジーは電子頭脳に煙が吹くほどの過剰な負荷がかかり、自分の顔がみるみる赤らんでいくのを自覚していた。だが自分がなぜそうなったのか、それまでは理解出来ずにいた。


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