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第七話「Kill! Kill!」

 デミノイド研究の歴史は古い。その根幹にある人間の機械のハイブリッド技術のアイデアは、人類が火星に赴くずっと前に誕生していたのだ。ある意味、このデミノイドの研究が後のアンドロイドの制作に繋がったと言っても過言ではない。

 そんなアンドロイドの正式稼働に伴って一時研究が中止されていた(時代遅れな技術に時間を投資する事は社会が許さなかった)デミノイドが再び脚光を浴びたのは、火星に移った人間が地球の緑化計画を立ち上げた時だった。

 人間と機械の合成体ならば、ウィルス兵器や核兵器の直撃を受けた『重汚染地域』の中でも活動できるかもしれない。物を考える頭脳は人間だからアンドロイドよりも御しやすい。まさに願ったり叶ったりであったのだ。

 デミノイド研究及び開発は急ピッチで進められた。しかしデミノイドの研究とは、言ってしまえば『人体実験』であった。それを知った世間から非難が続出するのは確実だった。一連の作業は極秘裏に行われた。

 研究と同じようにその開発工程もまた、おおよそ人道的とは言えない物であった。

 被験者を麻酔で眠らせ、その後に体を開いて中の物を取り除いて機械の装置を各種器官と接続していく。同時に脳髄や神経とも接続を行い、ただし装置の故障に際しての痛覚神経の反応はできる限り下げておく。

 端から見たら狂っているとしか思えなかった。しかし研究者達は埋もれた技術を掘り返し更に発展させていくという達成感と満足感、そして大義名分のもととは言え人間の体を使う外道の技術に手を染めると言う背徳感の前に良心を投げ出し、一心不乱に研究を続けていった。

 研究再開から五年後。まずは初期型デミノイドが二十体生産された。その後は第二世代が十体、第三世代が十五体、第四世代が十五体と製造されていき、現在は最新アップグレード版である第五世代が製造中であった。

 そして現在、計画遂行のために地球に送り込まれたのは全部で八十七体。そこに至るまでに発生した『落伍者』の数はその百万倍に及んだ。





 そんなデミノイドの概要をレモンから聞き終えたライチ達は、皆一様に愕然としていた。


「そんな、そんな酷い事が……」

「まあー、確かに酷い事ではありますよねー」


 だが呻くように呟いたシェリーにそう返したレモンの調子は、まるで悲劇性を帯びていなかった。そんな物は初めから無いとでも言いたいように、いつもと変わらない間延びした印象を崩さずにいた。


「私が手術を受けた当時は、生存確率二パーセントとか言われてましたからねー。もう大変だったんですよお? あの研究はおおっぴらに出来ないから、施設として宛てがわれた研究所が凄い狭くてですねえ。お陰で待合室と手術室と焼却室が同じ廊下にあったから、鉄分と脂の匂いが廊下にまで染み付いちゃってもう酷くて酷くて……」


 更にそれが笑い話であるかのような軽いノリで、レモンがかつての思い出話をさらりと披露する。

 全然笑えない。


「……お前は、なんとも思わなかったのか?」


 今度はジンジャーが震える声で尋ねる。レモンは脇腹の筋を伸ばすように体を横に逸らしながら、いつもの口調で答えた。


「ええー。なんとも思ってませんよー?」


 そして何かを言おうと口を開いたジンジャーよりも早く、レモンが言葉を続けた。


「だって全員、志願してあの手術を受けたんですからねー。誰が死のうが恨みっこなしですよー」

「……志願制だと?」


 エドが信じられないと言外に言った。


「そんな狂った研究に名乗りでてくる奴が、本当にいたのか?」

「おおっぴらに宣伝はしませんでしたけど、嗅ぎつける人はいるんですねえ、これがー。掃いて捨てるほどいましたよー?」


 反対側の脇腹の筋を伸ばしながらレモンが言った。ライチが口を開いた。


「何か、見返りとかがあったの?」

「もちろん。皆それが目的で集まってましたからねー」


 その言葉に周囲の視線が一斉にレモンに突き刺さる。答えを知りたがる好奇心の篭ったその視線を全身で浴びながら、体をまっすぐに戻したレモンが言った。


「まずはお金ですねー。成功報酬として一人四千万クレジット」

「よん……!」


 レモンの言葉に周りが色めき立つ。非常識な額にも程があった。

 ちなみに火星上流家庭の平均年収は千二百万クレジット。完品のジャケットを一体買うのに二千万必要である。


「それから、これは手術成功の際の副次的効果なんですけどー……不老不死になれる」

「……え……?」


 こちらの方はあまり食いつきが宜しくなかった。呆然とした顔でその場に突っ立っている。不老不死、という現実味の薄い単語がいきなり飛び出してきて面食らっているのだ。その気配を察したのか、頭の横で人差し指を回しながらレモンが詳しい事情を説明し始めた。


「えーと、不老不死と言うのはつまりー……ほら、体半分機械じゃないですかー? その機械に体が拒否反応を起こさないように、体の細胞の活動を止めてるんですよー」


 人間が成長するのは人体を構成する骨や皮膚や筋肉、更にそれらを構成する細胞が増殖を行うからである。そして寿命と言う概念が存在するのも、それら細胞が体組織の成長を終えるに従って活力を失い段々と壊死していくからである。

 死にたくなければ活動を止めてしまえばいいのだ。


「……脳細胞も?」

「そっちは別ですよー。脳の方は活動を止めてしまえば思考する事が出来なくなりますからねー。修復用のナノマシンを脳髄に入れてるんですよー」

「どうやって?」

「頭蓋骨に穴を開けて」

「うっ――」


 シェリーが口に手を押し当てて顔を背ける。他の者もそうしたい気持ちで一杯だった。大なり小なり顔をしかめる。

 躊躇わずにレモンが続ける。


「あとこの体になって得する事と言えばー……家電が使える事ですかねー」

「家電?」


 頭痛――データとして保存されている『常識的な』行動パターンを逸脱した出来事を何とか理解しようと演算装置に過負荷が与えられていた――を覚えながらエムジーが尋ねる。その言葉を受けたレモンが腹のカバーを開けてジェネレーターの裏側に手を突っ込む。

 ひいっ、と悲鳴が上がる中、レモンはのんきに鼻歌を歌いながら自身の腹の中をまさぐり始める。やがて一つのコードの束を手に握りしめながら、それを周囲に見せびらかすように顔の位置にまで持ち上げる。


「簡単に言えば、私がその対象のバッテリーとなって電力を供給し、それを動かす事が出来るのですー。私が作られた頃は、まだどれくらいのエネルギーを使えば人体を継続して起動できるのか十分研究されていませんでしたから、ハッキリ言ってジェネレーターの出力が強すぎでエネルギー余りまくりなんですよー」


 そう言いながら、ケーブルを持ってない方の手で腹の中のジェネレーターを力強くバシバシ叩く。

 直後、ぞんざいに扱われた事に対して怒りを露わにするかのように、ジェネレーターの表面を動く光が激しく明滅し、その外郭部を這うように赤い電流が奔る。

 ライチ達は生きた心地がしなかった。


「と言う訳でして、もし何か使いたい家電製品があれば、私に相談してくださいねー? それと家電だけじゃなくて電気を使う物なら何でも使えるようになりますので、もし何かあったら言って下さいー♪」


 顔の位置に持ち上げたコードの束をブンブン振り回しながら上機嫌でレモンが言った。

 その言葉にライチが反応する。


「あ、あの」

「? はいー、なんでしょうかー?」


 おずおずと声を上げたライチの方にレモンが向き直る。レモンの真っ直ぐな視線を受けながらライチが言った。


「レモン……さんは」

「レモンでいいですよー♪」

「あ、うん。それじゃあ……レモンは何でも動かせるんだよね?」

「はい。電気で動かせる物なら何でもどんと来いです♪」


 そう言って今度は胸のカバーを握り拳で叩くレモンを見た後、ライチはおもむろに自身の背後にある『それ』を指差す。


「……あれも、出来るのかな?」


 レモンの視線がライチの指さした方向に向かって走る。そして指差された『それ』を一目見た直後、レモンは笑ってライチに言った。


「もちろん。お茶の子さいさいですー♪」


 周囲が密かにどよめく中で、ライチは心の中でガッツポーズをした。





 午前二時。

 真夜中にも関わらず支部長が自室のベッドの上で目を覚ましたのは、周囲のどよめきによって安眠を妨害されたからであった。


「どうした? 何があった?」


 脂肪でぼってり膨らんだ腹を左右に揺すり、寝ぼけ眼を手で擦りながら枕元の壁に据え付けてある無線装置のスイッチを入れた。

 ドアの外、そして窓の向こうでは、自分を叩き起こしたのと同じ騒音がなおも続いていた。だが脳が完全に覚醒していなかったため、彼はそれが何の音なのかを正確に判断する事が出来ずにいた。

 窓のブラインドを上げて確認する気はさらさら無かった。


「おい、何が起きているんだ?」


 そして先程からノイズしか返してこない通信装置に苛つきを覚え、支部長が声を荒げて催促する。

 ノイズしか返ってこない。額に青筋を立てて怒鳴りつけようとしたその時、無線の向こうから部下の声が聞こえてきた。


「も、申し訳ありません……返信に……遅れてしまって……」


 支部長はそれを咎める事は出来なかった。呼びかけに応じた男の声はか細く今にも死に体で、その男の背景では銃撃の音と爆発音、そして人間達の悲鳴が途切れる事無く聞こえて来たからだ。

 支部長は血色の良い、肥え太った顔を一気に真っ青にした。脂ぎった不快な汗が額からダラダラと流れてくる。

 まさか。

 無線の向こう、呼びかけに応じたのと同じ男が、支部長の予想を事実へと昇華させる言葉を放った。


「は、反乱です! アンドロイドの奴ら、反乱を起こしました!」


 ドアの向こうから爆発音が木霊する。銃撃音が絶え間なく鳴り響き、自分のいる建物がグラグラ揺れる。

この時支部長は完全に覚醒し、同時に全身が総毛立つ程の恐怖を味わった。だがすぐにその恐怖を心の奥底に押し込めて蓋を閉め、強い口調で無線越しの男に言った。


「バカモン! 奴らはアンドロイドだろうが! 対抗手段は腐るほど用意したはずだ。なぜそいつらを使わん!」


 対象に当てれば電流を発する電磁ムチ。銃に装填して使用し、撃ち込まれた対象のコンピュータを強制停止させるフリーズバレット。そしてその体を直接爆散させるロケットランチャー。アンドロイドが反乱した際に備えての対抗策は、厭らしい程に万全であったのだ。

 そう。アンドロイドに対してだけは。


「ち、違うんです。襲ってきてるのは、アンドロイドだけじゃないんです」

「なんだと!?」


 問題は、アンドロイド以外の反乱を想定していなかった事だった。


「ジャケットです! ジャケットで暴れてるんです! 奴ら、ジャケットを隠し持ってやがったんだ!」


 その直後、無線越しに耳をつんざくほどの爆音が轟き、完全に沈黙した。

ノイズすら送られてこなくなったそれを見つめながら、支部長は『約束された将来』が音を立てて崩れていくのをはっきりと感じ取った。





「ふ……ふふふふ……ふはははは――」


 ジャケット、フランツモデルのコクピット内部。

 二つの操縦桿を握り、正面モニターに映る光景を見つめながら、ジンジャーは声を張り上げて爆笑した。

 かつてこれほどまで心がスカッとした事があっただろうか? 気に食わない連中を合法的に、一方的にぶちのめす快感――地面を蹴りあげて地面ごと男共を宙に放り上げ、腕を振り払ったその風圧で部下連中を物言わぬゴミクズに変えていく嗜虐的快感――に心躍らせ、目尻に涙をため腹筋が痛くなる程に笑いまくる。

 いい気味だ。ざまあみろ!

 不意にモニターの右辺が黄色く点滅する。ジャケットの体を動かしてそちらに目をやると、そこには血走った目でこちらにRPGを突きつける男の姿があった。


「ふん……」


 見下すような笑みを浮かべたまま、ジンジャーは操縦桿から手を離した。ジャケットはその男の正面を向いたまま、何もせずに直立する格好となっていた。

 目の前の男がロケット弾を発射する。

 モニター全面が赤く小刻みに明滅し、攻撃を告げるアラートがやかましく鳴り響く。秒単位でロケット弾が近づいていき、モニターをその姿で埋め尽くしていく。

 ジンジャーは微動だにしない。欠伸を噛み殺そうと大きく開けた口に手を当ててさえいる。

 そしてモニターいっぱいにロケット弾の姿が浮かび上がったその瞬間、コクピットを軽い衝撃が襲った。

 そのロケット弾は、流線形に形作られたのっぺらぼうの頭部に正確に命中したのだ。今その頭部は、もうもうと立てる土色の煙に完全に飲まれている。

 ロケット弾を撃ち込んだ男は自身の攻撃がクリーンヒットした事に会心の笑みを浮かべたが、煙が晴れた後にそこに残った光景を見て、その表情を絶望で染め上げていった。


「はっ、ははははっ」


 無傷。

 その流線形をしたのっぺらぼうの顔には、傷はおろか、スス一つついていなかったのだ。

 それを見た男の顔――今にも泣き出しそうな惨めな表情――をズーム機能を使ってモニターいっぱいに映し出しながら、ジンジャーが再び昏い笑みをこぼした。


「馬鹿な奴らだ。歩兵の武器がジャケットに効く訳ないだろうが」


 戦場の主役が歩兵からジャケットに変わった理由。それはジャケットの大量生産によるのもさる事ながら、そうして大量に戦場に投入されたジャケットに対して、歩兵の武器は全く威力を発揮しなかったからでもあったのだ。

 それこそ戦闘機のミサイルや戦車の砲撃でもない限り、ジャケットの侵攻を止める事は出来ないのだ。


「うーん、まさに科学技術さまさまですねー」


 その時、もはや聞き慣れた間延びした声がジンジャーの背後から聞こえてきた。その声は金属の壁に反響させたかのように震えて聞こえてきていた。


「やっぱり時代は科学ですねー。科学万能主義ですねー」

「ああ、まったくだな。こうまで清々しい気分になれるんなら、大手を振って歓迎してやるさ」


 目の前で無様にガタガタ震える男を事も無げに踏み潰してから、気楽な口調でジンジャーが言った。


「それより、そっちは大丈夫か? 酔ったりはしないか?」

「大丈夫ですよー。それにもし酔ったとしても、吐き出す物はお腹の中にはありませんからねー」

「そうか。それもそうだな」


 そう返しながらジンジャーがキーボードをいじり、モニター右上にエネルギー残量を表示させる。そしてそこに目を向ける――途中でモニターの真ん中でジャケットの足の隙間から這い出してきた男が逃げていくのが見えたが、気にしない事にして改めて右上を見た。

 連続稼働時間、残り五時間。

 これが充電済み且つ新品の電池を搭載した結果だとしたら、ジンジャーはその電池を開発した企業にクレームを叩きつけていただろう。普通は一般に売られている専用電池二本で三十時間保つからだ。

だが今回、ジンジャーはそのような気分になる事は無かった。寧ろこの五時間と言う数字は、彼女に多大な驚きを与えていてさえいた。

 レモンが『電池』の代わりになっているからだ。

 腹から伸ばしたコードを背部バックパック内の両端子に接続し、彼女の言う所の『余剰電力』でこの機体を動かしているのだ。そして動かすにあたって、レモンはバックパックの中に入ってもらっていたのだった。


「しかし、後五時間も動けるのか……」


 その丸く骨太な腕を正面モニターに映るように眼前まで持ち上げ手を開閉させながら、ジンジャーが感心したように呟く。そしてレモンに聞こえるように大きな声でジンジャーが言った。


「お前のジェネレーター、いったいどれだけの容量を持っているんだ?」

「いやあ、実は私も詳しい事は知らないんですよー。まあ、明らかにオーバーな事は確かですけどねー」

「ロストテクノロジーは怖いな」

「怖いですねー」


 そう二人して呑気に言い合っていたその時、無線通信の電波を受信したアラート音がコクピット内に鳴り響いた。


「ジンジャー、聞こえますか?」

「ライチか」


 無線から聞こえてくる銃声や怒号に混じって聞こえてきた少年の声に、ジンジャーが安堵したように反応する。

 ライチは今、ジンジャーとは正反対の方向からアンドロイド達と共に攻撃を仕掛けていた。銃器は不意打ちで倒した敵から手に入れ、それらを利用して混乱する敵部隊に対して散々に打撃を与えていたのだった。


「前に出てた部隊は全部潰しました。そっちは?」

「こっちもちょうど終わる。ここを抜ければ、後はあの屋敷を潰すだけだ……当分抜けられそうにないが」


 レーダーに光点として映る、尚も自機に群がってくる連中にうんざりしながらジンジャーがそう告げると。無線の向こうのライチが申し訳なさそうに声を低めて言ってきた。


「あ、あのジンジャー?」

「どうした? 何かまずったか?」

「いや、まずったとか、そう言うんじゃなくて、ですね……」


 そこからライチの声が暫し途切れる。その間を繕うように、銃弾が装甲に当たって弾かれる甲高い音とロケット弾の直撃する音が盛大にコクピットを震わせる。

 無駄だっつってんだろうが。

 何度も響き渡るそれらにうんざりしながら片足を蹴りあげて、敵に群がる『蟻の群れ』をまとめて無力化していく。

 その間十秒。そしてその後、無線の向こうから再びライチの声が聞こえてきた。


「その、なんて言うかですね……」

「なんだ、煮え切らないな。とりあえずビシッと言ってみろ」


 再び沈黙。やがて意を決したようなライチの意志の強い言葉が聞こえてきた。


「人を保護したんです」

「……人?」

「はい。人間です」

「間違いないのか?」

「はい」


 おいおい。

 声に出さずに呆れた表情を見せたジンジャーにライチが続けた。


「どこから来たのか判らないのですが、いつの間にかここにいて、右も左もわからない様子でした。だから放っておくのもアレだったんで、事情を説明して僕達の近くに来て貰ってるんです」

「千客万来だな」


 アンドロイド。デミノイド。そして真人間。

 今度は誰が来るんだ? ゾンビか?

 冗談半分にそう考えながら、ジンジャーがライチに返した。


「――ここまで来たら仕方ないな。君はどこか隠れられる場所に行って、そいつらを守る事に専念してくれ」

「いいんですか? 戦線外れることになりますけど……」

「放っておくわけにもいかんだろう。変に死なせる訳にもいかん」

「わかりました」


 そう言ってライチが通信を切ろうとしたその時、壁一枚隔てた所にいたレモンがジンジャーに言った。


「あのー、ちょっといいですかー?」

「どうした?」

「少し、ライチ様とお話ししたい事があるのですがー」

「……わかった」


 マイクの感度を最大に上げ、そしてライチに「無線を切るな」と告げる。


「ライチ様、よろしいでしょうかー?」


 そしてライチが何事かを尋ねるよりも早く、レモンが無線越しに言った。


「へ、あの、レモン?」

「はいー、レモンですー」


 突然の事にしどろもどろになったライチの声に重なるように爆音が轟いた。敵の第二陣が来たのだろうか。


「う、うわあ!」


 思わずライチが悲鳴を上げる。それに合わせて銃声が轟き始める。だがそれに対して自分のペースを崩さないまま――相手の意志を尊重しないままにレモンが言った。


「そのー、あなたが保護したと言う人達についてー、質問があるのですけれどもー」

「は、はい。なんですか!?」


 無線の向こうから一際大きい爆発音と、男の物と取れる絶叫が幾重にも重なって響き渡る。

 レモンは自分のペースを崩さなかった。


「その人達の特徴をー、出来れば教えていただきたいのですがー」

「ええと、特徴ですか……? ええとですね……」


 沈黙。銃声。苦痛に歪んだ金切り声。

 ライチの物ではない。安堵するジンジャーの耳にライチの声が響く。


「ええと、一人は執事みたいな格好して、もう一人は……それなんていう服なんですかあ!?」


 軍服だ。プレミア物だ。叫ぶライチの背後でそんな声がか細く聞こえた。その直後、ライチの声が聞こえてきた。


「軍服、プレミアの軍服らしいです! そんな格好です!」

「わかりましたー。ありがとうございましたー」

「もういいですか!?」

「ああ、手間を取らせてすまん。頑張ってくれ!」


 そう言うなり無線を切り、再び目の前の敵に集中する。


「そうですかー、みんなが来ているのですねー……旅は道連れ世は情け、旅とは良い物ですねー。ふふっ♪」

「……」


 こんな状況の中でも自分のペースを崩さない。

 ジンジャーはこの時、後ろで嬉しそうに笑う女を初めて『凄い』と感じていた。



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[一言] デミノイド?サイボーグと何か違うのですか? どうでもいいですが、生存確率2%なら4000万クレジットでも支払う側は一人頭80万を全員に払うのと同じな感覚(多分人件費としてではなく一回80万…
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