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第四十五話「都市解放戦(後編)」

 装甲に指をめり込ませるようにして、滞空していた自分に向かってきた戦闘機の機首側面を一体のジャケット――陸海空運用可能カスタム機『ハピネス』が鷲掴みにする。

 ハピネスは更にその場で一回転し戦闘機の持つ運動エネルギーをほぼ殺し、その回転の勢いのままに戦闘機を地面に投げ飛ばす。


「――っしゃあ! 狙い通りィ!」


 自身の投げた戦闘機の機首が地上にあった戦車の上部に突き刺さり大爆発する様を見て、ハピネスを操っていたリリーは腕を振り上げて嬉しさを爆発させた。

 そのパイロットのお陰で無防備となったハピネスの隙を突かんと、ハピネスの背後から編隊を組んだ三機の戦闘機が機銃掃射を開始した。

 だがハピネスは――リリーは動じない。


「――ヘッ」


 戦闘機の方に振り向くと同時に腰側面につけられたサイドスカート内部のブースターからエネルギーを解放。爆発にも似た勢いで青白い光を噴き出しながら前方の編隊へと一直線に突っ込んだ。

 銃弾の嵐が容赦なくハピネスの体躯に降りかかる。人間のそれよりも大型で苛烈な弾丸の群れが、少しずつ、そして確実にハピネスの赤い装甲を削り取っていく。

 だがハピネスは怯むまない。右目を爛々と赤く輝かせながら前進を続け、両者の距離は徐々に詰まっていく。このまま接近を続ければ、両者が正面衝突を起こすのは確実だった。

 先にチキンレースから降りたのは戦闘機の方だった。機銃掃射を止め、三機が一寸の狂いもなしに同じタイミングで機体を斜めに傾け、旋回しようと図った。

 だがその機首を上げた刹那、その戦闘機の眼前にハピネスがいた。


「よう」


 戦闘機が機体を傾け始める少し前に腰部ブースターに火を点け、一瞬だけ限界出力まで上げてエネルギーを解放し、機体を前へと吹き飛ばしたのだ。


「逃げんなよ」


 リリーが笑みを浮かべ、ハピネスが両手を組んで無人のコクピットにそれを振り下ろす。そしてコクピットと両手の接地部分を支点にして足を伸ばして前へと大きく回転する。九十度度回転した段階で足を大きく開き、その踵で後方の二機の首筋を叩き潰す。


「後は? 後は他にはいねえのか?」


 手を離し、戦闘機を後方に蹴り飛ばすようにして直立体勢に戻り、墜落していく三機には目もくれずにモニター隅に表示されるレーダーに注意を向けて残りの敵機を確認する。レーダーの表示倍率を変更して方々を探索するが、敵らしき物は見当たらない。


「いねえか……中にいる奴らは全滅させたのか? 随分と数が少ねえんだな」

「おーっす、生きてるー?」


 通信回線が開かれ、そこからコクピットにスバシリの声が響き渡る。レーダーから目を離し、リリーがそれに応えた。


「おう。俺はまだピンピンしてるぜ。どうした?」

「いや、ただちょっと確認してみただけー。そっちの航空戦力はどうなったのかなーって思って」

「今のところ、レーダーには何も映ってないな。て言うか、マジでこれで全部なのか? あっけなさ過ぎだぜ」

「いや、素手で二十機潰してる時点でおかしいから! 本当に無事なの?」

「安心しろ。俺もこいつもまだまだ行けるぜ――ああ、それはそうとよ」

「あん?」


 無線越しにリリーがスバシリに尋ねる。


「町の外の連中はどうしてる? なんか動きとか見せたのか?」

「町の外の? いや、まだこれと言ってアクションは見せてないよ?」

「まだ、か。なら、早く済ませねえとな」

「そうした方がいいね。装置の方はどうしてるの?」

「ジンジャーが探しに行った。俺はさっきまで、空飛んでた奴らと遊んでた」


 足下に見える戦闘機の残骸――全体がひしゃげ、墓標のように地面に突き刺さりながら黒煙をもうもうと上げるその姿を見下ろしつつ、リリーが欠伸混じりに言った。


「ま、それも今は終わっちまったんだけどな」

「すげー! 空戦も出来るってマジバナだったんだ!」

「なんだあ? いままで信じてなかったってのかあ?」

「いや、普通ロボットが空飛ぶとか信じらんないから」

「ああそうかよ」


 含み笑いと共にそう言ったスバシリに対して、ふて腐れたようにそう返してからリリーが続けた。


「空の方は一応片付いたみたいだし、俺は下に降りるぜ。ジンジャーの手助けもしないといけないしな」

「こっちからもそれ頼んでいいかな? 外の連中、どうやらアタシらじゃなくてオルカの方に先に気づいちゃったみたいでさ」

「あいつの方に攻撃を始めたってのか?」

「一部だけだけどね。今はまだ移動している最中だけど、早い内に交戦圏内に入ると思う」


 機体にかかる反重力を弱めて少しずつ機体を降下させつつ、スバシリの言葉にリリーが返す。


「オルカが自分から囮になったとか、そう言うオチじゃねえのか?」

「さあ? そこまではわかんないよ。でも」

「でも?」


 リリーが尋ねる。スバシリが笑みをこぼしながらそれに答える。


「あいつ、意外と仲間思いだからさ。ウザいけど」

「まあ、ウザいのについては同意だな」

「でもいい奴だよ」

「そうか、いい奴なのか。じゃあ――」


 地上より三メートル離れた地点まで来た段階で装置のスイッチを切り、ハピネスが一気に地上へと降下する。膝を曲げて上半身を丸め、振動と轟音と砂埃をまき散らしながら二本の足でどっしりと着地し、足と接地した部分を僅かに陥没させる。

 ハピネスが顔を上げるのと同時に自身もゆっくりと顔を上げながら、顔に不敵な笑みを貼り付けてリリーが言った。


「――さっさと終わらせて、助けてやらねえとな」





 同じ頃、ジンジャーは地上で戦車と砲台――ドックでライチが交戦したのと同じタイプの物だった――相手に交戦を続けていた。


「ヒャッハー! 的だァー!」


 久しぶりの戦闘――しかも互いの大火力を正面からぶつけあう『刺激的な』戦闘を前に、精神が最高にハイになっていた。後の黒歴史になる事請け合いである。

 ちなみにこの時、生身で突っ込んでいったアンドロイド連中はこの火力の衝突に付き合う事が出来ずに一体残らずスクラップと化した。


「どうしたどうしたァ! 突っ立ってるだけだと死ぬぞォ! 死んじまうぞ!」


 既にいくつもの残骸が転がる道のド真ん中で足を肩幅に開いて膝を曲げ、ショットガンを腰に保持させて背中の箱形のロケットランチャーを両手で構える。そして自身から百メートル離れた地点よりこちらに砲口を向けたままその場から動かずにいた戦車と砲台、更にその遠方より向かってくる戦車の群れに向かって、そのランチャーの引き金を容赦なく引いた。


「蜂の巣だ!」


 こちらに飛んでくるロケット弾を感知した戦車部隊が一斉にキャタピラを動かし、その場から遠ざかろうと動き始める。だがそう行動を見せた直後、先端の丸まった円柱状の弾頭がその内の一台に直撃し、その真下の地面、そして周囲に集まっていた戦車や砲台諸共『木っ端微塵』にしていく。


「いいぞベイベー! 逃げる奴はただの鉄クズだ! 逃げない奴もやっぱりただの鉄クズだ!」


 爆風が巻き上がり、鉄の残骸が方々へと飛んでいく。砲身や戦車の上部だけが空中に放り出される事もあり、それらは例外なくそれまで道のあちこちに転がっていた――全てジンジャーが潰した――鉄クズの山を構成する一つとなっていく。


「そーれ、もう一発だ!」


 次弾を装填し、照準を最初の所から僅かに右に逸らして二発目を発射する。一撃目を逃れた戦車や砲台が爆散し、それらの残骸と爆風によって路肩に据えられた露店が根こそぎ吹っ飛ぶ。辛うじて形を保っていた建物も、その中にある店の内装ごと瓦礫の山と化していった。

 そしてジンジャーのジャケットが二発目を終えた直後、今度はそれらの二射から運良く逃げ延びた無人機がお返しとばかりに反撃を開始する。戦車や戦艦の砲撃の雨に曝され、ジンジャー機は遮蔽物の殆どない道の上で反復横跳びをするかのように右往左往する羽目になった。


「うおっ、ちょ、ま、うおおッ!」


 攻撃をする暇も無い。ただひたすらに動き回り、敵の照準を逸らして攻撃をいなし続ける。例え紙一重で躱したとしても着弾点から生じる爆風や衝撃波に身を食われる羽目になるので、大きく回避行動を取るしかなかったのだ。更に左右に動くだけではいずれ砲弾に挟み撃ちにされる畏れもあったので、それに加えて前後にも動かなくてはいけなかった。

 先方にその自覚は無かったのだろうが、その砲撃から逃げるようにジャケットが前後左右に逃げ惑う様は、まるで無抵抗の獲物を弄んで楽しんでいるかのようにも見えた。


「この、いい加減に……!」


 だがジンジャーはやられっぱなしで終われる程お人好しでは無かった。腰に提げていたショットガンを手に取り、機体に構え動作を取らせずにこちらにぴったりと狙いを付けている戦車の砲口の一つに向けて照準だけを合わせる。更に操縦席脇のスイッチの一つを押し、ある条件に応じてアラートが鳴るようにセットさせる。

 いじり終えた所で太い足をめいっぱい動かして後ろに飛び退く。前方に砲弾が着弾し、衝撃と振動がジャケットを襲う。だが距離を離し、地面にしっかりと足を降ろしたフランツモデルの機体――メタボ体型とも揶揄されるその肥満体にとって、それは大木を凪ぐそよ風でしか無かった。

 しかしジンジャーはそのように長い事感傷にひたる余裕は無かった。すぐにその鈍重なボディを動かして右に機体を動かす。

 アラートが鳴る。


「来たか――!」


 叫ぶと同時にジンジャーが眉間の皺を一本増やす。前方から複数の何かが放物線を描いて飛んでくるのをレーダー越しに感知したからであり、それは狙いを付けていた奴とは別の戦車が撃ち出した物だったからだ。

 自身の背後に――先に飛び退いた地点に向けて砲弾が降ってくる。しかし着弾よりも早く、その肥満ジャケットはは地面を蹴って宙へ跳んだ。

 地面と弾がキスをし、音と風が轟く中で機体を跳躍させる。その背後で更に数発の砲弾が同じ所に着弾し、さらにその地面についた傷跡を広げていく。


「上手くいくか……!」


 ジャケットはそれを尻目に地面と水平になるよう身を浮かせながら、照準をつけていた所に銃口が来るよう――半分コンピュータ制御に頼りながら腕を動かし、引き金を引く。

 そうして砲口目掛けて真っ直ぐに撃ち出された一発の円柱状の弾丸は、しかしすぐに内部から数百の弾が飛び出して散弾の雨を形作り、放射状にばら撒かれていく。狙いを付けていた砲口はおろか、その戦車自体にも命中する事は無かった。

 だがジンジャーがそれを撃ち出すと同時に、狙いをつけていた砲口から一発の砲弾が撃ち出されてきた。それは真っ直ぐジンジャー機の元へ――その前に展開された散弾の雨の中へと突っ込んでいく。

 砲弾に散弾が次々と接触し、その中で砲弾が爆発する。腹に溜まる音を上げ、空中で黒い煙を周囲にまき散らす。


「よし、決まった。煙幕だ」


 狙いを付けた砲身内部の温度が急激に上昇した際にアラートが鳴るよう設定し、それに合わせてショットガンを撃って砲弾を迎撃、煙を煙幕代わりにして敵の攻撃の手を緩めようとしたのだ。

 その目論見は見事に当たった。やがて煙は道全体を覆うまでに広がり、戦車と砲台はその煙によって敵がどこにいるのか狙いをつけられず、攻撃を止めて砲口を忙しく左右に振り回し始めた。

 しかし、その空中に留まっていた煙も地面へと流れていく事で徐々に薄まり、向こう側の景色が見えるようになっていく。やがてその薄まる灰色のベールの向こう、黒い影となって揺らめきながら浮かび上がる一つの巨体の姿が見えた。

 それを見つけた無人機群が一斉に砲口をそれへと向ける。だが砲口を向けた直後、その煙は件の黒い影の手によってかき消されていった。


「――ホント、戦争は地獄だな」


 黒い影――片膝立ちになってロケットランチャーを構えていたジャケットが引き金を引き、撃ち出された弾頭によって煙のベールに大穴が開けられたのだ。

 その穴を中心にして煙の膜が四散し、反対側から聞こえてきた爆音から一拍遅れてやってきた風圧によって、煙が完全に消し飛ばされる。そして明瞭になった視界の向こうに、ジンジャーは間髪入れずに四発目を撃ち込んだ。

 あまりの衝撃に地面が揺れる。爆発音が連続して轟き、後に生じた物が前に発生した物をかき消す程に断続して周囲に鳴り響く。戦車が爆散し、砲台が吹っ飛び、粉々になって鉄や金属の破片をまき散らす。炎を飲み込む程に大量の黒煙が立ち上り、もうもうと空へと昇っていく。

 やがてそれから暫くして立ち上がり、レーダーの索敵範囲を拡大して周囲の状況を確認した時、町の中に展開されていた地上戦力は完全に一掃されていた。


「さて……」


 ロケットランチャーを背中に戻し、ショットガンを腰に提げ、瓦礫と鉄クズの只中に立ちゆっくり首を回しながらジンジャーが言った。


「探すか」


 しかしジンジャーがそう言った直後、その機体の無線からある声が聞こえてきた。





 リリーとジンジャーがあらかた敵を片付け終えたのと同じ頃、ドックではライチが自分とゴーゴンプラントを包囲していた砲台群を一つ残らず叩き潰す事に成功していた。

 そしてある物は蜂の巣にされ、ある物は足と土台だけを残して上部を爆散させた残骸が方々に散らばる中、左腕を肩口から失い、繋がってはいたが右足が動かなくなっていた状態のジャケットを地面にへたり込ませながら、ライチはそのコクピットの中で聞こえてくる無線音声に耳を傾けていた。


「……」


 その内容はおよそ信じられない物だった。そんな全く同じ文言を取り憑かれたように繰り返すその通信音声を前に、ライチはそれとは別回線で開いていたイナに対して唖然としながら問いかけた。


「……これ、どう思う?」

「普通ならば、罠と考えるのが妥当でしょう。しかし……」

「しかし?」


 件の文言が響き渡る中でライチが尋ねる。それに対し、イナの代わりにレモンが答えた。


「先にライチ様が戦闘をしていた際に、洋上に待機なさっていたオルカ様から連絡が来たのです」

「あの人から? なんて?」

「はい。それまで自分が引きつけていた敵がいきなり行動を止めたと」

「止めたって……え? ていうか、引きつけた?」


 二つの意味でライチが驚愕する。ため息を漏らしてイナが言った。


「どうやらイナは、独断で囮役をこなしたようです」

「格好いい人ですねー。尊敬してしまいますー」

「まったく、こちらに一言断りをいれて欲しいものです」


 あっけらかんとしたレモンと憤然とするイナの反応を交互に見やって苦笑した後、ライチが二人に尋ねるように言った。


「じゃあ、この無線が言ってるのって、やっぱり……」

「おそらく、事実でしょう」


 イナがそれに答え、ライチが再び件の通信回線に耳を貸す。


「……外で戦闘をしている者達に告げる。ドーンズの持ち込んできた遠隔装置はこちらで破壊した。繰り返す。遠隔装置はこちらで破壊した。もう戦闘を継続する必要はない。外で戦闘を……」


 抑揚の無い声だった。まるで感情を知らない機械が喋っているかのような平坦な口ぶりだった。

改めてそれを耳にして、渋い顔でライチが言った。


「……誰がやったんだろう?」

「わたくし達以外の何者かであるというのは事実です。ソウアーが援軍を寄越したと言う連絡も来ていません」

「あの人達かもしれませんねー。ほら、青空の会とか言う過激な人達」

「うーん……」


 レモンの言葉に対し、ライチが腑に落ちないと言った風で唸り声を上げる。それを聞いたレモンがライチに尋ねた。


「どうかなさったのですかー?」

「いや、さっきレモンが言った事なんだけどさ。青空の会がやったってのは無いと思うんだ」

「無い、ですかー?」

「それはなぜですか?」


 イナが食いつく。ライチが顎に指を当て、考え込むように言った。


「さっきの声、無線から聞こえてきた声さ……」

「はい」

「あの声が、どうかなさったのですか?」





「どこかで聞いた事あるんだよ――身内の誰かの声に似てたんだ。誰だったっけ?」


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