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第四十三話「攻撃開始」

 オルカの提案を受け入れた当初、ゴーゴンプラントの面々は「そんな大したことないだろう」と高をくくっていた。カサブランカに乗って来たクルー達はそれまでの経験から、「何があってもどうとでもやっていけるだろう」と誰もが口には出さずともそう考えていたし、ゴーゴンプラントに搭乗していた二人も彼らと同じ経験を積んではいなかったものの、その気持ちは一緒であった。

 しかし戦艦三隻――カサブランカとゴーゴンプラント、そしてオルカの『S.O.H』の三隻である――横並びになってメルボルンから真南に二百キロ離れた沖合に到達し、そこから遠方にある町の様子をモニター越しに窺った時、オルカ以外の事情を知らない者達は自分の考えの甘さを呪った。


「……なにこれ?」

「厚っ」


 周囲から思わずどよめきの声が上がる。町全体を覆うゴミの壁に気圧されたのでは無い。その城壁の周りに展開された戦力の分厚さに気圧されてしまったのだ。


「……戦闘機六十七機、駆逐艦十七隻、戦車八十九台、高射砲およびその他の歩兵多数……」

「いくらなんでも多すぎだろ」

「おそらく、ボク達がジャケットを持っている事を前提にして戦力を集めたんだろうね。抜け目ない事この上ないよ」


 カサブランカから移ってきたクチメが寝ぼけ眼で戦力を分析し、それを受けて毒づくリリーにオルカがそう説明する。そしてそのオルカの横に立ったスバシリが、彼女の顔を見上げつつ尋ねた。


「それでー? これからどうするのよ?」

「大丈夫だよ。それについては、ボクに考えがあるんだ」

「どんな考えだ?」


 後ろからかかってきたジンジャーの言葉に振り返って頷きながら、オルカが答えた。


「君達と会う前に調べておいたんだけど、目の前で展開されている部隊は、全て無人機で構成されているんだ。何者かが遠隔操作で遠くからコントロールしている。つまり――」

「そのコントロールしている物を破壊すれば、あの包囲も解けると?」

「そう言う事さ。ボクとしては、あの数と正面からやりあうのは得策では無いと考えている。もしこちらにジャケットがあったとしても、ボクは正面突破は賛成しないね。あの無人機達に真っ向からぶつかるのは、いくらなんでも自殺行為だ」

「ジャケットは実際あるんだがな」

「馬鹿言うなよ。あれとやりあって生き残れる自信ねえぞ」

「戦争で重要なのは数とも申しますしねー」


 アロワナの漏らした言葉にリリーが食いつき、リリーの横に立つレモンがのほほんと言った。それに合わせるように「ジャケットは泳げないしね」と言った後で、ライチがオルカの方を向いて尋ねた。


「それで、そのコントロール装置はどこにあるの?」

「町の中さ」

「うわあ」


 オルカの――ある意味予想通りの返答にエムジーが項垂れる。すると今度はスバシリがオルカに尋ねた。


「あれ? じゃあ町の中にいる連中にやらせてもいいんじゃね? 暗号通信なりなんなり使って状況を教えてさ」

「それも考えたさ。あそこにはボクの仲間もいたしね。実際にやってみたりもした。でも駄目だった」

「どうして?」

「ボクが動こうとした時、町の住民達は既に全員ドーンズに捕らえられていた」

「うわあ」


 めんどくせえ。スバシリがげんなりした顔を浮かべる。オルカが腕を組み、片足に体重を載せて腰を僅かに横に曲げながら言った。


「抵抗虚しく、と言う奴さ。さすがのアンドロイドも、まともに武装していない状態で侵攻してきた戦車には勝てないよ。だから今のところ満足に動けるのは、ボク達だけと言う事になる」

「そして正面突破も無理、か。となると、一番確実なのは……」

「潜入だね。見つからないように少数で町に潜入して、速攻で装置を破壊する。先に住民達を解放して共同戦線を張るのもいいかもしれない」

「しかし内部で必用以上に騒ぎを起こせば、外側の部隊の注目をいやがおうにも引いてしまいます。そうなれば終わりです。そのような状況に陥る前に決着をつけるのが得策かと思いますが」


 イナの言葉にオルカが頷く。


「その通りだよ。だから、今回は少数での潜入作戦で行くのが良いと思う。というより、現段階でまともに打てる手がそれしか無いのさ。残念な事にね」

「潜入か……」


 と、オルカの言葉に合わせてアロワナが顎に手を当てながら一人呟いた。オルカがその方を向いて彼に尋ねる。


「どうかしたのかい? 何か悩んでいると言うか、考え込んでいるように聞こえたのだけれど」

「いや、潜入という言葉を聞いてな。少し良い事を思いついた」

「いいこと?」

「ああ」


 オルカが不審そうに眉根を寄せる。そのオルカの目を真っ直ぐ見ながら、アロワナが不敵な笑みを浮かべて言った。


「潜入任務について、私に良い考えがある」





「お前、今まで何してたんだよ?」


 オルカとの作戦会議を終えてから数分後。ゴーゴンプラント中階層部の通路にて。

 カリンはその通路内で物資運搬用のカート――大人一人が余裕で入れる大きさの白い箱に車輪と取っ手をくっつけたような物――を押している最中にそう自分を呼び止める声を聞きつけ、反射的に足を止めて声のした方を向いた。

 そしてすぐに、「ああ、立ち止まらなきゃ良かった」と自分の犯したミスを呪った。


「一人だけでコソコソと、一体何やってんだ?」


 そこにはかつて自分と同じシャトルに乗って、そしてこの要塞船に救出された同級生四人――自分と同じクラスの制服を着ていたからそこまで判ったのであって、実際は初対面で名前も知らない連中だった――が、揃って壁に寄りかかりながらカリンに向けて下卑た笑みを浮かべていたのだ。

 おそらく、真ん中に立っていた男――顎のラインが肉で埋もれるほどに脂肪をつけた、角刈りのまるまると肥え太った奴だった――がリーダー格なのだろう。そいつだけが腕を組み、太鼓腹を揺らしつつ自信満々に胸を反らしてカリンを睨みつけており、それと対照的にやせこけた外見を持った他の三人は、こちらを睨みつつもどこか落ち着かないように背を丸めてビクついていたからだ。


「おい、なんとか言えよ。俺の言う事が聞けないってのかよ?」


 そしてこいつらもまた、自分がライチ――ロウアーと恋仲になっているという話を知っていたのだろう。自分を問い詰めるその声には嘲りの色と、「お前はモグラの同類なんだから俺の話を聞いて当然だ」と言わんばかりの傲慢な優越感が滲み出ていた。

 もうここは『火星では無い』のに。勝手に部屋を抜け出してこんな所まで来ていた点も含めて、カリンは自然と呆れた風にため息をついた。


「なんだよその態度は!」


 それを聞いた取り巻きの一人がカリンに食ってかかる。肥満男と他の痩せぎす二人も揃って眉間に皺を寄せる。

 それに対し、顔色一つ変えずに目の前の豚を見つめ返しながらカリンが言った。


「今忙しいから、邪魔しないでくれる?」

「なんだと……!」

「邪魔だって言ったの。いいからそこどいてよ。鬱陶しい」


 それまで散々ライチと自分の関係を囃し立てられた事に対する恨み辛みもあったのだろう。カリンが辛辣な口調で突き放すようにそう吐き捨てた。そのカリンの吐いたいきなりの罵倒まがいの言葉を受け、四人はそれまで大人しかった飼い犬にいきなり手を噛まれたかのように大きくたじろいだ。

 だが数瞬後には、彼らの顔にはそれまであった驚愕と狼狽に代わって、自らの自尊心を傷付けられた事への屈辱と怒りが満ちていた。その怒りはまた、自分の理解の外でいきなりこんな事になってしまった現在の状況――いきなり船を墜とされ、上流階級である自分がタコ部屋に押し込まれた理不尽さに対する怒りでもあった。

 そしてその自制を失った感情のままに肩を怒らせ、相手を威嚇するかのようにわざと大股でカリンの元に詰め寄った。彼らはそのまま、自分の方で勝手に溜め込んだそれらの怒りを、なんの関係も無いカリンにぶつける腹づもりであった。


「てめえ、俺にそんな口きくとはいい度胸じゃねえか!」


 案の定、肉豚が最初にカリンに食ってかかる。それに続くように、他の痩せぎす三人も口々に悪口を並べ立てる。


「いい加減にしろよお前! つけ上がりやがって!」

「モグラに惚れ込んだハイヤーの面汚しめ! 今ここで殺してやろうか!」


 カリンはその罵声の嵐を、完全に生気の抜け落ちたつまらない表情で受け止め続けた。彼らの実の無い罵声はここに来るまでに何度も聞かされてきたのと同じ代物だったので、もう反応する事じたいが億劫だった。

 その無感情、無反応が、相手方のリアクションでもって平静を保とうとした彼らの怒りに更に火を点けた。


「おい! おい! 面汚し! この状況もお前が作ったんだろう! おい!」

「ふざけんなよお前! おい、本当にやってやろうか? 本当に俺様達が殺してやろうか!」

「誰が何をするって?」


 その時、不意に女性の声が遠くから聞こえてきた。

 頭から冷や水を浴びせられたような気分だった。突然の事に、そこにいた五人はほぼ同時に背筋を震わせた。そしてゆっくりと、それまであった怒りや呆れの感情をすっかり消した顔を、その声のする方へと向けていった。


「ひ――」

「あ」


 そこには、へその前でズボンの中にハンドガンを挿し、ショットガンを付けたベルトを肩から斜めに提げたジンジャーの姿があった。事情を知らずにそれを見た四人は――特に初めて見る剥き出しの銃に対して――恐怖を抱き、一方で彼女が完全武装している理由を知るカリンはその姿を見て安堵を覚えた。


「良く聞こえなかったんだが……さっきは、誰が、何をするって言ったんだ?」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらジンジャーが再び尋ねる。彼女が全て把握しておきながら、無知を装って意地悪く質問して来ているのは明白であり、更にその最中、剥き出しになっていたハンドガンのグリップ部分をわざとらしく片手で撫で回してもいた。


「なあ、上手く聞き取れなかったんだ。もう一度頼む」

「うっ――」


 それまでによってたかってカリンに詰め寄っていた四人がじっと項垂れ、それまでの勢いがウソのように黙りこくる。彼らの傲岸不遜な態度は、基本的に自分達よりも弱い者達に対してのみ存分に発揮されるのだ。

 銃をチラつかせるなんて卑怯だ。ジンジャー二期超えないように四人の内の誰かがそう漏らしたのを、カリンはしっかりと耳にした。


「なあ、おい、もう一度」

「――ッ」


 が、それを大っぴらに言える根性の持ち主はこの場のどこにも存在しなかった。

 やがて彼らは無言のまま、ジンジャーの催促から逃げるように足早にその場を去って行った。そしてその時、リーダー格の肥満した少年は去り際にカリンに肩をぶつけていった。


「クズが」


 その様子をしっかり目にしながら、ジンジャーが去って行く四人組の背中を見てそう吐き捨てつつ、銃から手を除けてカリンに近づいていく。そしてぶつけられたカリンの肩に自分の手を載せ、心配そうにその顔を見つめた。


「大丈夫か?」

「あ――はい。なんとか」


 ジンジャーとは――ライチ以外の船員とはまだ十分に話し慣れていなかったので、この時のカリンの返答は若干ギクシャクとしていた。そしてそれに引け目を感じ、思わず顔を背けてしまったカリンに対し、ジンジャーはその肩を軽く何度か叩いてから言った。


「そう硬くなるな……と言っても簡単にはいかんか。まあゆっくり慣れていけばいい」

「は、はい。ありがとうございます」


 体を硬くしてそう答えるカリンを見て、ジンジャーは「すぐには馴染めんか」と言葉にしないまま寂しそうに肩を竦めた。そしてそんなジンジャーに、今度はカリンの方から、おずおずといった態度で尋ねてきた。


「あの、それで、私に何か用ですか?」

「ん? ああ、そうだった。本題の方をすっかり忘れていた」


 苦笑しつつそう返し、肩から提げていたショットガンを外してそれをカリンに手渡しながらジンジャーが言った。


「持って行く武器を替えたい。大丈夫か?」

「はい。大丈夫ですよ」


 ジンジャーの要求に素直に頷き、カリンがそれまで自分が運んでいた箱の上蓋をずらして傍に立てかける。その中には、銃口を上にして縦に置かれた大量の銃器――先ほどまでジンジャーが担いでいたショットガンもその中にあった――や、それらに込めて使う弾丸を詰めた箱が、それぞれのジャンルごとに整頓された状態で綺麗に押し詰められていた。

 これらは全て、これより前に遠隔装置破壊についての会議を終えたオルカ達の所へ、『お手伝い』としてアロワナから指示を受けたカリンが倉庫から運んできたブツである。彼女は今、そのブツを元あった場所に返しに行こうとしていた所であった。


「それで、どれを持って行くんですか?」


 そんな箱の中身を横目で見つつ、カリンがジンジャーに言った。箱に近づき、その縁に両手を置いてジンジャーが箱の中を覗く。


「そうだな、やっぱりここは……」


 そして目を泳がせて箱の中身をあらかた物色した後、やがてジンジャーがその中にある一丁の銃を片手で引っ張り上げる。


「これがいい」

「それでいいんですか?」

「ああ。敵に必用以上に近づかずに攻撃出来るのが強みだ」

「へえ……」


 ジンジャーがそう答えて取り上げた銃――全体を濃い鼠色で塗装されたアサルトライフルをカリンが物珍しげに、そして怯えたように僅かに眉根を寄せてまじまじと見つめる。

 人殺しの道具。今まで漫画や小説など、そんな創作の中でしか見た事の無い物を目の前にチラつかされて、全くの平静を保っていられる人間はそうはいない。

 その恐ろしげな視線に気づいたジンジャーが、目を細めて彼女に尋ねた。


「……良かったのか?」

「えっ?」

「私達を手伝うって決めた事だ。『何かしたい』って自分から言ったんだろ?」

「……はい」

「本来、君はここには社会見学に来ただけなんだ。ライチや私のようにヘマをやらかした訳でも無い。無理に付き合う必要は無いんだぞ」


 そう言ってアサルトライフルに付いていたベルトを肩から斜めにかけつつ、ジンジャーが真っ直ぐカリンを見つめた。


「……嫌なものは、嫌なんです」


 そのジンジャーの視線を、自らの目で真っ直ぐ受け止めながらカリンが言った。


「あそこまで話を聞いておいて、自分は関係ないって済ませるのが嫌なんです。それに、今起きてる事がどういう形で終わるのか、最後まで見てみたいって気持ちもあるし」

「それで危険な目にあったとしても?」

「自分の事は自分で責任取ります。ちゃんと、しっかり」


 カリンの目は真剣そのものだった。茶化している気配は欠片も無い。少なくとも他の火星人連中よりはずっと好感が持てる。


「……そうか。なら私はもう何も言わん」


 そう言ってジンジャーが表情を崩す。そして全身でカリンの方を向き、今度はその頭に手を置いて穏やかな口調で言った。


「その覚悟は本気と見た。だが、お前はまだここでは新入りだ。お前はまだ、ここの事は何も知らないんだ」

「そ、それは」

「最後まで聞け。私だってこっちに来て少ししか経ってないんだから、一丁前に説教する気は無いよ」


 『こっちの生活を甘く見るな』とか怒られると思ったら違った。かけられた予想外の言葉にカリンが目をぱちくりしていると、ジンジャーが身を屈めてその目をのぞき込んで続けた。


「歳は関係ない。ここじゃお互いに新人なんだ。ライチだってそうだ。だからそうかしこまるな」

「は、はい。わかりました」

「ああ。わかってくれたなら、それでいい。そしてこれは、そんな同じ新人としてのアドバイスだ」

「はい」

「まずは、自分で決めた事には責任を持つんだ。いいな?」


 ジンジャーが目を細めカリンを見据える。口を閉じたまま、カリンが緊張で乾いた声を絞り出してそれに応答する。


「それともう一つ」

「はい」


 そこでジンジャーが口元を緩める。


「ちゃんと仲間も頼れよ」

「は――え?」


 予想外の言葉に、カリンが凝り固まった顔の筋肉を緩めて再度目をぱちくりさせる。その表情の変化を見て楽しげに笑った後、その頭を二、三度小さく叩きながら立ち上がって言った。


「さて、お前も用意しておけ。小さい奴でもいいから、お守り代わりに銃を一丁持っておくのもいいかもな」

「あ、えと、その」

「どうした? 浮上時間まであと五分ほどだぞ。急いだ方がいい」

「は、はい、わかりました。言われた通りにちゃんと準備します。でもその、その前に」


 しどろもどろになっていた自分の口を一度閉じて気持ちを落ち着かせた後、胸に両手を押し当てながらカリンがジンジャーに言った。


「あ――ありがとう、ございます」


 それに対し、ジンジャーは微笑んだまま何も言わずにカリンに背を向け、元来た道を戻っていった。そして背を向けたまま、ただ片手を挙げてそれに答えた。

 今までまともに感謝された事が無かったので、純粋な感謝の念を言われた事に対し、気恥ずかしさでその顔が真っ赤になっていたのを見られたく無かったからだった。





 ゴミ壁の中――メルボルンの中は静まりかえっていた。

 通りには人っ子一人おらず、主のいない露店は畳まれる事無く道の中に放置されていた。

 ゴーストタウン。一言で表せばそれである。

 この時、メルボルンの中にいた住民は全員がメルボルン地下に張り巡らされていた連絡通路の、その中の一区画に複数設置された箱形の休憩スペースにいくつか小分けされ、押し込められていた。

 休憩スペースと言っても、そこにあった殆どの自販機やベンチは長年の放置によって朽ち果てており、使えた物ではなかった。そしてその中で辛うじて原型を留めていたベンチにも、武装したアンドロイド達――ドーンズの一員が完全に陣取り、住民達に心休まる時は存在しなかった。


「こちら第四隔離区画。特に異常は無し。どうぞ」


 そのベンチに陣取っていたアンドロイドの一体が、口元に近づけた無線機越しにそう言った。もう片方の手にサブマシンガンを持ち、腰には手榴弾を揃え、完全武装したその姿は視覚的な面からも捕らえた住民達を威圧する効果があった。


「――ん?」


 その一人が、不意に顔をしかめた。その僅かな表情の変化に対して周囲からあがる怯えた声に耳を貸す事も無く、両のカメラアイを無線機に向けて疑念の籠もった声で尋ねた。


「すまない。もう一度言ってくれ。何がどうしたって?」


 そう言って、再度耳を無線機に近づける。だがそこから聞こえてくるのは話し相手の返事では無く、僅かに聞こえてくるノイズと、人の怒号と足音の混じり合う騒音だけだった。


「おい、どうした。何があったんだ?」


 三度呼びかける。返ってくるのは相変わらずのノイズと騒音。

 おかしい。首を傾げながらアンドロイドが無線機から耳を離す。

 その直後、その無線機から爆発音が轟いた。


「――ッ、おい! 何があったんだ!」


 動揺を押し殺さんと怒らせた声を上げ、アンドロイドが無線機に叫びかける。だが、その動揺は瞬く間に周囲に伝播し、そこに隔離されていたアンドロイドの中に混乱の波を呼び起こしていく。


「えい、落ち着け! 騒ぐんじゃない!」


 別のアンドロイドが手にしたサブマシンガンの銃口を突きつけて沈静化を図る一方で、無線機を持っていたアンドロイドはなおもその機械に向けて叫び続けていた。


「……山、だ……」


 そして何度目かの呼びかけの直後、無線機からそんな弱々しい声が聞こえてきた。安堵とそれ以上の焦りを覚えながらアンドロイドが尋ねる。


「おい、なんだって? 山? 山がどうしたんだ?」

「山、海から……奇襲……ジャケット……」

「はっきりしろ! 何が起きたんだ!」





「海の中から、山が来たんだ――!」





 二度目の爆発音が声をかき消し、無線機は完全に沈黙した。


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