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第三十六話「クエスト:物品回収」

 メルボルンはその周辺をゴミで覆い尽くす事が出来る程にゴミで溢れていたが、オーストラリア全てがゴミで溢れかえっている訳では無かった。世界規模で起きた戦争とその時使用されたナノマシンボムによって、地上にある構築物はその殆どが消滅していたからだ。

 そんなまっさらな真っ黄色の土地を、ソウアーと協定を結んだアンドロイド達は一心に開墾していった。彼らはメルボルンを拠点にして、人間が行っているのと同様の方法で地面を切り拓き、植物を一つずつ植えていったのだった。

 作業に最初に手を付けたのはアンドロイドの中でも特にソウアーの活動に対して共感を示していた者達であり、当時のアンドロイド達の中でもほんの少数派であった。ソウアーと友好を結んだとは言え、今だ人間に対して猜疑心を捨てきれずにいた者の方が圧倒的に多かったのだ。


「ちなみにこの時、先陣を切って耕作作業に乗り出したのが、クズノハと言う男性型アンドロイドらしい」

「そいつがリーダーってわけ?」

「そうなるな」

「それ、どこ情報?」

「パンフに書いてあった」

「ああ」


 だが当時の大多数を占めていたこれら懐疑派も、めげる事無く砂かきを続けるクズノハ以下人間支持派のアンドロイド達や、時々自分達の下へとやって来ては自分達に物資や情報を与えてくれる誠実な人間の姿を見て、その態度を次第に軟化させていった。

 一人、また一人と、手にスコップを持って働き始める者が増えていった。その活動の輪が起こるのには数年かかったが、その輪が末端にまで広がっていくのは一瞬の事だった。

 メルボルンもまたその彼らの活動と並行して、町として――そして『ゴミ屋敷』として急速に発展を遂げていった。それまで地上に出たアンドロイド達が雨風を凌げる程度の備えしか用意していなかった粗末な集落は、方々から集められてくるゴミさえも利用して巨大な城塞都市へと変貌していった。またアンドロイドでも扱えるよう調整された除砂用の電動器具など、ソウアーからの支援物資も不定期ながら届く事があり、それが彼らの作業効率を高めていった。

 そして今現在、メルボルンから半径七十キロ圏内は完全に砂が取り除かれて――アンドロイドは人間よりも身体能力が高いので、束になって本気でかかればこれくらいは可能なのである――おり、その砂は近くにあるジェムブルックやジーロングに集められていた。また、その砂が完全に取り除かれた地面の上では既に植林作業が行われており、作業をしているアンドロイドは数十ある駐屯地に集まってそれぞれ居を構え、そこで寝泊まりしながら作業に没頭していたのであった。





「紅茶の葉ですか? それならありますよ」

「本当ですか? 貰っても良いんですか?」

「はい。こちらとしても繁殖しすぎで持て余していた部分がありますので、引き取っていただけるのなら歓迎いたします」


 それから数分後、件の緑化活動を担う駐屯地の中で最も町に近い部署の一つにて。

 そこに赴いたショーとモンブラン、それと『本命が来るまでの暇つぶし』としてついてきたモブリスとパインの四人は、そこの受付のアンドロイドから色よい返事を貰う事に成功していた。


「ショーさん、よかったですね」

「ええ。こんなにスムーズに行くとは思いませんでしたよ」


 モンブランが自分の事のように喜び、ショーも釣られて笑みを浮かべる。その時、その様子を腕を組んで横から眺めていたパインが、さりげない調子でショーに尋ねた。


「しかし、わざわざ紅茶の葉を手に入れるために海を渡ってここまで来たのか。そんなに紅茶が飲みたかったのか?」

「いえ、これは自分が飲む分ではありませんよ。うちの司令が飲みたいって言われたので、自分がこうして買いに来ているんです」

「え?」


 何気なく放たれたショーの言葉に他の全員が耳を疑う。


「その、『司令』に命令されてここまで来たって言うの?」

「はい。アメリカでは紅茶は栽培してませんから。こうしてここまで買い出しに来たのですよ」

「パシリじゃん」

「身も蓋もない言い方をすれば、そうなります」


 転送装置使えば一瞬で来れますから言うほど苦でもないんですけどね。そう言って寂しげに笑うショーを見て、彼の付き添いと受付のアンドロイドは揃って憐れみの視線を投げかけた。


「ま、まあそんな事より、ここで茶葉が貰える事はわかりましたから、早く受け取ってしまいましょう」


 そんな自身に浴びせられる生暖かい視線をむずがゆく思い、ショーが急かす様にして言った。そしてその言葉を聞いて受付嬢は自分の仕事を思い出し、慌てて目の前のデスクの上にあるワイヤレス電話に飛びついた。


「しょ、少々お待ちを。今、耕作担当者と連絡をつけますので……」


 そう断りを入れた直後、その受付のアンドロイドが受話器越しになにやら話し始める。それから数十秒の後、それまで何度か相槌を打っていた受付係が受話器を置き、柔和な笑みを浮かべながら四人に言った。


「お待たせしました。ただいま向こうと確認を取りましたので、今から案内いたします。私についてきてください」





 受付はその後、彼らを連れてそれまでいた建物を出て畑を横切り、駐屯地奥の保存庫へと向かった。

 その保存庫はそれまでいた所よりも一回り大きく、鈍く青い輝きを放つ材質で出来ていた。壁には窓が規則的に並び、切妻屋根も同じく青く輝いていた。


「火星で生成された特殊合金です。ジャケットが踏んでも壊れない程度の頑丈さを誇っているのですよ」

「前に我々が提供した物ですね。有効活用してくれて嬉しいですよ」

「ソウアーってちゃんと仕事してんだ……」


 ショーの言葉を受けて感心したように呟くモブリスを後ろに控えながら、受付が自身の身長の二倍の大きさを持つ扉の前に立つ。両引き型の扉はガッシリと閉じられており、中央の接合部には爪はおろか髪の毛一本通す隙間も無かった。

 その見る者に威圧感を与える巨大な扉が、彼女たちの目の前で音も無く左右に割り開かれていく。そして完全に開ききったその向こう、照明に照らされて外と変わりないくらいの明るさを持ったその中に、五人は受付を先頭にして中へと入っていった。

 その中に足を踏み入れて、四人は別の意味で驚かされた。


「あれ?」

「意外と、さっぱり……」


 中は閑散としていた。そこには中央部にコンピュータを乗せた数脚のテーブルと椅子が、そして周りの壁に沿うようにして収穫した植物やそれらの種を収納した円柱状のタンク――自分達と同じくらいの高さを持っていた――が一定の間隔で設置されていただけで、そこにそれ以外の物が何も置かれていなかったのだ。


「ああ、あなた方が連絡をくれた方達ですか」


 そして、その真ん中にある椅子の一つに腰掛けていた一人のアンドロイドが前からやって来た四人を見つけ、立ち上がりながらそう声をかけてきた。四人の眼が同時に彼を捉える。


「あ、農夫だ」

「なるほど。確かにあれは農家の格好だな」


 泥が染みつき、着古してよれよれになった白い半袖のシャツ。同じくぼろぼろで、裾口がほつれにほつれた紺色の長ズボン。群青色のたびぐつを履き、首からはタオルを掛け、頭には麦わら帽子を被っている。外にはみ出た青い半楕円状のカメラカバーと全身銀色のボディを差し引いたとしても、その姿はこれ以上ないほどの農家っぷりであった。


「ほう、本当に人間だ。ここに人間が来るとは珍しい――ああ失礼。私、この辺りを管轄しているスクークと言う者です。以後お見知りおきを」

「あ、どうも」


 スクークが深々とお辞儀をし、それに合わせて四人も礼を返す。その後受付以外の四人もスクークに対して自己紹介を済ませ、それから受付が両者の間に入って話を切り出した。


「それでは、スクークさん。連絡した通りにお願いします」

「ああ、わかった。今持ってくるから、ちょっと待ってくれないか?」

「ええ」


 受付がそう答えるのを聞いた後、スクークが回れ右をしてタンクの一つに向かう。そしてその手前まで来て立ち止まり、しゃがみ込んで下部にあるパネルをいじり始める。

 数秒後、そのタンクから空気の抜ける音が聞こえ、出来た隙間から白い煙を吐き出しつつ、上部の蓋がゆっくりと上へせり上がっていった。


「ええと、ショーさん、でしたかな? 葉はどれくらい必要で?」


 振り向く事もせず、立ち上がりながらスクークが尋ねる。突然の事に一瞬虚を突かれ息をのむショーだったが。すぐに意識を戻してそれに答える。


「え、はい。五百グラムほど貰えないでしょうか」

「五百ですか。わかりました」


 ショーの言葉を受け、スクークが背中越しに頷く。そしてそのまま、無言でなおも煙を吐き出しているタンクの中へと手を突っ込んだ。


「あのタンクは、冷凍圧縮による保管を目的とした物でして、従来の物よりもより多く、長い間物を保管する事が可能になっているのです」

「あれもソウアーの作った物です。正確には、地球に降りてから見つけた旧時代の遺物を解析して、手に入れたデータを元に製造したんですけどね」


 スクークが自らの作業に没頭している間、受付が四人に対してそう説明をした。またそれに合わせてショーがそう述べ、何も知らない三人に驚嘆の声を上げさせた。


「あれ、ソウアーのオリジナルじゃないの?」

「ええ。前に話した転送装置にしたって旧時代の物ですし、ジャケットやアンドロイドに使われている技術もそうです」

「そして、それらの技術の一部は現在ではロストテクノロジーと化し、火星世界の技術を持ってしても複製や再現が困難な状況である……ですよね?」

「ええ。そうです」


 途中から割って入ったモンブランの言葉にショーが頷く。それを聞いたパインがモンブランに言った。


「そんな情報、よく知ってるな。どこで調べたんだ?」

「雑誌ですよ。年に何冊か、ソウアーの方から情報提供として、そういった豆知識とか作業の進行度合いとかを載せた雑誌が送られてくるんです」

「我々ソウアーが発行している奴ですね。ニューヨーク本部の広報担当官が作ってる、『季刊ソラ』っていう雑誌があるんです」

「どうしてそんなものを?」

「オーストラリアの人達に現在の状況を伝えるためです。」

「そんなの作ってたんだ」

「青空の会とは大違いだな」


 ショーの説明を受けて、モブリスとパインが揃って感心した声を上げる。この時、自分のやらかした失策についてパインは気づかなかったが、ショーはとりあえず聞かないふりをしてこの場は見逃した。


「はい。出来ましたよ」


 その時、それまで一人で作業をしていたスクークがそう声をかけながらこちらに近づいてきた。その手には壁にあるタンクと同じ形状をした、手のひらに収まるサイズの円柱状の物体があった。上蓋との接合部分からは微かに煙が漏れ出ていた。


「ここに茶葉が入ってます。専用の解凍装置を使えば元のサイズにまで戻りますから、お願いします」


 そう言いながら、スクークがそのタンクをショーに手渡す。受け取った手のひらに白い煙がかかり、そこから僅かに冷たさを感じながらショーが言った。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「ええ。ええ。こちらこそ。また困った時は、私共の方をよろしくお願いしますよ」


 そう挨拶を交わし合う二人を尻目に、モブリスが首を捻って言った。


「なんか軽く流してるけど、解凍装置って本当に持ってるの?」

「あれ作ったのはソウアーなんですよ。冷やした物を溶かす機械も作っておかないと、意味が無いじゃないですか」

「……言われてみれば、確かにな」


 モンブランの言葉を聞いたパインが納得したように小さく頷く。言葉にこそしていなかったが、彼女もモブリスを同じ事を考えていたようであった。


「一方通行じゃ使えないな」

「そうですよ。凍らせたままのお肉なんて美味しくないじゃないですか」

「ああ、その例えは上手いわ」


 そう三人で話し合っていたその時、あらかた社交辞令を述べ終えたスクークが真剣な面持ちでショーに言った。


「しかし、お帰りの際はお気を付けください。ここには青空の会以外に、もう一つ厄介な連中が住み着いていますから」

「厄介な? ひょっとするとそれは……」

「やはり知っておいででしたか――そうです、彼らです」

「彼ら、とは?」


 そこまで来て、パインの地獄耳が件の二人の会話を捉えた。後ろから聞こえてきた声の方へ目線と意識を向けるショーとスクークの元へ歩み寄りながら、パインが言葉を続けた。


「ここには青空の会以外に、まだ何か『敵』がいるというのか? 何がいるんだ」

「オーストラリアの敵対組織と言ったら彼らしかいませんが、知らないのですか?」

「ああ」


 嘲りの色のない、真に確認するための真剣な口調で尋ねてきたショーに対し、パインも硬い顔つきを崩さずに頷き返す。受付は不安そうに顔をそむけ、モンブランは「ああ、あれがいたか」と今思い出したかのように顔をしかめた。そしてモブリスがパインの横につき、それを気配で感じながらパインが言った。


「あいにくと、私達はこちらの情勢に詳しくないんだ。そちらだけ一方的に情報を知っているのはフェアでは無い。教えてくれてもいいんじゃないか?」

「……そうですね。確かにフェアではありませんね。わかりました」


 そう言ってショーがパインの方へ向き直る。が、ショーはそこで肩の力を抜き、表情を気楽そうに崩して彼女に言った。


「でも、ここで立ち話するのもあれですし、座ってじっくりと話しませんか? リラックスした方が頭の中にも入りやすいでしょうし」

「ああ。それ賛成。ずっと立ってたから、今思い出したかのように怠さが襲ってきててもうしんどいのなんの……」


 そこでモブリスが力の抜けた、だらけきった声を出す。受付とモンブランが同時に笑いを漏らす中、ゆっくりと首を回しながらパインが言った。


「――そうだな。一理ある。じゃあ、あそこで座って話をするのはどうだ?」


 そしてその空間の真ん中に置かれていた椅子とテーブルを指さす。それを受けたショーが無言でスクークの方を向き、スクークも首を縦に振って承諾の意を伝える。


「決まりだな」

「ですね」

「じゃあまずは向こうに行って、ちょっと落ち着いたら話しましょうか」

「どうせだったら、ここでお茶飲んでいきます?」

「あ! それいい! 賛成!」


 スクークの意見にモブリスが飛びつく。「物欲の権化め」とパインが呆れ、他の面々が揃って苦笑いを浮かべた。

 そしてそんな彼らの反応を見たモブリスが、頬を膨らませて言った。


「なによー? 皆は飲みたくないって言うのー?」

「そう簡単に人に物をたかるんじゃない」

「もう少し控えめにした方がいいんじゃないですか?」

「まあまあ。言い出したのは私なんですから。それじゃあ、私は今から準備しておきますので、先に座っててください」


 マシンオイルもいるか。先の台詞を言った後でそう呟きながらスクークが再びタンクの方へと向かい、モブリスが笑みを浮かべながら真っ先にテーブルへと向かう。


「……いいんですかね?」

「据え膳食わぬは、とも言うだろ?」

「まあ、貰える物は貰っておきましょうよ。私もオイル欲しいですし」


 引け目を感じていたショーにパインがそう告げ、モンブランが最後の言葉を残してモブリスの後に続く。三番目に受付のアンドロイドがちゃっかり続き、その場に留まっているのはパインとショーだけとなった。


「行くぞ」

「仕方無いですね」


 そして結局、ショーもご相伴に預かる事にした。





 まあスクークが色々準備を終わらせて、さあ飲もうとなったその時になって、外で爆発が起きてその会は強制的にお開きとなったのだが。


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