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第二十六話「遊びをクリエイトする」


 ジャケット式耕作法

・砂を取り除いて大地を剥き出しにする(必須)

・適度に水をかけて地面を湿らせる

・ジャケットにショットガンを持たせる。出来るだけ広い範囲に拡散するタイプを使うのが望ましい

・そのショットガンに、散弾の代わりに中に野菜や植物の種を詰めた水溶性の特殊カプセルの詰まった弾を装填していく。

・地面に向けて発砲する

・以下繰り返し





「これは捗るな」


 地面に向けてポンプアクション式のショットガンを両手で構え持たせ、操縦桿のトリガースイッチを押して三回引き金を引かせた後、白銀の大柄な巨人――フランツモデルのジャケットに乗ったジンジャーが口笛を吹いて言った。足下の地面には既に何百という人差し指の先っちょほどの大きさの穴が開いており、その奥では水に反応して溶け出したカプセルの中から種が顔を覗かせていた。

 ジンジャーが慎重にジャケットを操作し、片足を小さく蹴り上げてその穴を埋める様に土を被せていく。二回蹴れば十分だった。

 これでいいだろう。満足げに頷きながらジンジャーが右側面に埋め込まれていた無線のスイッチを入れる。


「どうだ? 十分か?」

「ああ。こっちはこれでOKだ。次のポイントに向かってくれ」

「了解した」


 ハンドグリップを前後に動かしてリロード動作を取らせつつ、ジャケットを指定された別のポイントに動かす。大の大人ほどのサイズを持つ空薬莢が吐き出され、数秒後にどこからか上がった人間の悲鳴をマイクが拾い上げる。

 目立った騒ぎにはなってないから大丈夫だろう。聞かなかったふりをしてジンジャーが自らの乗るジャケットを動かしていた時、それまで繋げていたのとは別の回線が開いてジンジャーを呼び止めた。


「ジンジャー。ミス・ジンジャー。聞こえますか?」

「イナか。どうした?」


 歩みを止める事無く、ジンジャーが無線越しに聞こえるイナにの声に応えた。やや遠慮がちにイナが言った。


「ミス・ジンジャー。その作業が終わった後、何か予定が入っているでしょうか?」

「いや、特に何もないな。あと十分ほどで作業を終わらせてからは――」


 モニター右上隅に表示されているデジタル式の現在時刻に目をやる。午後二時四十七分。


「何もない。考えてみたら本当に何も無いんだな。今まで忙しかったから気づきもしなかったが」

「夕食は午後六時五十五分からとなっていますが、それまでする事がないと?」

「ああ。驚くほどにする事がない。だが追加の仕事はごめんだからな」


 先制を取るジンジャーに、イナが小さく笑って返す。なに笑ってんだ、とむくれるジンジャーに「失礼」と一言謝ってから、イナが続けた。


「いえ、今回は仕事を頼むために連絡を取った訳ではないのです。ただ、予定が空いているかどうかを確認したかったので」

「それで? 空いていたらなんだって言うんだ?」


 ジャケットが所定のポイントに立ち、ショットガンを構える。ジンジャーが引き金を引く。

 銃声。リロード。再度銃声。

 余韻が完全に消えるのを待ってからイナが言った。


「もしこの後なにもする事がないのでしたら、カサブランカに向かってくれないでしょうか? 繰り返しておきますが、これは仕事のお誘いではありません」

「仕事じゃない? じゃあ何をするんだ?」


 ジャケットがグリップを前後にスライドさせる。小気味良い音を鳴らして空薬莢を吐き出す中でジンジャーが尋ねる。それに対し、クスリと小さく笑ってから胸を張る様に強い口調でイナが答えた。


「麻雀をしましょう」


 なに言ってんだこいつは。ジンジャーはいろいろな意味でそう思った。





 イナがイベント好きな性格をしている事については薄々気づいていたが、今回のこの一件によって、ジンジャーは彼女がそのような思考の持ち主である事を完全に確信するに至った。


「これ、全部覚えなきゃいけないの……?」

「もちろんです! 麻雀は一朝一夕でマスター出来るほど底の浅い遊戯ではないのです! 基礎を知り、定石を知り、相手の捨て牌からその手の内を予測出来るようになって、初めてスタートラインに立てるのです!」

「ごめん、頭痛くなってきた」


 カサブランカ艦橋。その中央に据えられたテーブルの一端にて。

 パリッとした灰色のビジネススーツを完璧に着こなし、一方で手に持った竹刀を肩の上に置きながら高らかに宣言するイナの横で、ライチが額を手で覆って目の前に置かれた分厚いルールブックの上に突っ伏した。そんな彼の座るテーブルの前――枕代わりにされていたルールブックの向こうには、緑色に光るホログラムの麻雀牌が、ゲーム開始前の状態で規則正しく並べられていた。


「ううん……さすがに人間がこれを一日で全部、ってのはちょっと無理なんじゃないの?」


 ライチの前にあるのと同じように配置されたホログラム群を指でつつきながら、彼の反対側に座っていたエムジーが困惑気味に呟く。彼女もライチと同じ厚さのルールブックを受け取っていたのだが、そこに書かれている内容の全てを五分で吸収してしまっていた。


「いや、絶対無理。うん。これは無理だわ」

「当たり前だっつーの。これ全部一日で覚えろとか、無茶苦茶にもほどがあるわ」


 長方形をしたテーブルの短辺側、ライチから見て左側に腰掛けていたリリーが苦言を呈す。そして彼女はエムジーと同じようにその緑色の牌の一つに指を差し、なんの手応えもなく指が牌を貫通する様子を見ながら呆れた口調で続けた。


「だいたい、こういうのは無理して頭の中に詰め込んでも意味ねえんだよ。習うより慣れろってよく言うだろ? それと一緒だよ。まずは楽しまなきゃ、何やったって上達なんかしねえよ」

「それは、確かに……一理ありますね」

「すげえ! 姉ちゃんが折れた!」

「……まあ、あの人の言う事ももっともだから……」


 テーブルの真上に浮遊するスバシリの言葉に合わせる様にして、リリーの反対側に座っていたクチメがぼそりと呟く。そして今度はクチメの横に腕を組んで立っていたジンジャーが言った。


「じゃあとりあえず、一回やってみないか? 面子は揃ってるんだし、まずは遊んでみない事には始まらないだろ」

「おう。それもそうだな。じゃあまずは一回、通しでやってみるとするか」


 リリーが頷き、背筋を伸ばして牌に向き直る。他の三人も同様に座り直し、緊張から何か重要な会議を行うかの様に肩をいからせた。


「いや、そんなに深刻に考えなくても良いって。遊びなんだからよ――まあいいや。とにかく始めるぞ」


 必要以上にガチガチな三人――特にライチ――をみて苦笑しながら、リリーがゲームの開始を宣言した。





「麻雀をしましょう!」


 リリーの話した内容をライチから聞き終えたイナの放った第一声がそれであった。そしてこの一言が、今の状況を作り出した全ての始まりであった。

 彼女はリリーがカサブランカに同行を求めたその理由よりも、そのついでとしてリリーがライチに話した麻雀の話の方に食いついたのだった。少なくともライチにはそう見えた。


「これは面白そうな予感がいたしますね! では至急、他の皆様も集めて説明会をいたしましょう!」

「せ、説明会? 皆にさっきの話を伝えるの?」

「それよりも麻雀の説明会です!」


 そもそも、ライチが全ての報告を終えた直後にイナは彼の眼前で目を輝かせてそう言ったのだ。ライチがそう受け取るのも無理からぬ話であった。

 それからの彼女の行動は迅速であった。妹達とエムジー、それとジンジャーに連絡を取り、全員の都合をその日のうちに合わせる事に成功したのである。そのフットワークの軽さには脱帽するばかりである。また、その中でジンジャーはイナの性格につい確信を抱いたのであったが、今更な話であった。

 元々のクルーであったレモン達はその中には含まれていなかった。彼女らはオキナワが最終目的地であったので当然の措置であったが、それを知ったレモンは頬を膨らませて抗議した。


「お姉様、ひどいですー。私にも麻雀を教えてくださいよー」

「お前にはまだ仕事が残ってるだろ? 外に出たいって自分から言い出した事なんだから、最後まで責任持ってやりきれっての」

「ううー……仕方ないですねー」


 レモンはなおも頬を膨らませていたが、渋々それに従った。リリーは申し訳なく苦笑いを浮かべながら、その愛する妹の頭を優しく撫でてやった。

 そして今に至る。





 対象が艦橋に集まってから一時間ほど、リリー主導による麻雀の説明会が続けられたのだった。最初に遊んだエムジーとクチメはルールは理解していたものの経験不足からミスを連発し、ライチに至ってはまともに役を作る事も覚束なかった。

 その四人でのゲームが一通り終わった後、次にライチの席に着いたイナは自信満々だった。


「わたくしは、常に完全を求めて行動します。それは航行においても、作戦においても、遊戯においても同じ事。この勝負、このわたくしに隙は全く無いと思っていただきましょう」


 そう居丈高に豪語するイナだったが、それは渡されたルールブックの中身を完全に記憶した事から来るものであった。だが同様に内容を暗記しておいて完敗を喫したエムジーとクチメはそんな彼女に憐れみの視線を送った。

 案の定、四暗刻スーアンコー断么九タンヤオチュウと宣言して盛大に自爆した。点はもらえたが、スバシリからは「はいはいテンプレテンプレ」と呆れられた。

 ジンジャーはライチと同じ状態に陥った。アンドロイドやAIならともかく、一度もそれを触った事の無い人間が麻雀のルールを一日で完全にマスターする事など、どだい不可能なのである。クチメがある程度フォローに回ってはいたが、彼女は終始頭に「?」マークを浮かべたままであった。

 スバシリは開始直後に天和をぶち上げた。リリーと彼女以外の電子頭脳持ちは揃って頬を引きつらせ、ライチとジンジャーは意味がわからずきょとんとしていた。

 それから一時間後、彼らは息抜きとして麻雀の次にブラックジャックを教わった。ルールの単純さが受け、ライチら人間組は嬉々としてそれに飛びついた。





 その後、その場は麻雀の説明会場からブラックジャック大会の開催場と化した。


「おいィ! 麻雀おいィ!」

「仕方ないよ。こっちの方が簡単なんだから」


 リリーの空しい叫びが室内に響いたが、結局そのままブラックジャックに移行した。





「で? ここに俺とクルーの殆どを集めた理由はなんなんだ? いい加減教えてくれてもいいんじゃねえか?」


 教習内容が麻雀からブラックジャックに変わってから十分後、リリーが慣れた手つきで持参のカードを配りつつ、イナの方を向いて言った。


「……そうお思いになった理由は?」

「ただなんとなくそう思っただけだよ。あんたにしたら、こうやって遊ぶのは二の次なんだろ?」

「いいえ。前にも申した通り、わたくしは全ての事柄に対して手を抜く事はいたしません」


 テーブルを滑り、手元にやって来た二枚のカードを手にとって見つめながらイナが答える。その後「ああ、勝ちましたね」と言って手札をテーブルの上に置いて晒し、イナが続けた。


「確かに、わたくしはこの場を通して、あなたの話の中において不明瞭な部分を正すつもりでいます。しかし、だからといって今の遊びに手を抜いたり、早々に切り上げて話に集中しようとは考えておりません」

「姉ちゃんドヤ顔でタンヤオ宣言してたもんね!」

「それは忘れてください。お願いします忘れてください」


 そう敬語でスバシリに懇願し、そしてテーブル上に置かれた自分の手札を見下ろしつつイナが言った。


「わたくしがここであなたに伺いたいのは、あなたが前に話された借金の内容についてです」

「内容? ああ、そういえばまだ話してなかったな」

「それがお金では無いことは把握しております。今の地球において、貨幣などと言うものは全く役に立ちませんから」

「ああ。金じゃねえのは確かだぜ」


 リリーの言葉に頷き、手札――ハートの一とダイヤのジャックの札を深刻な面持ちで見つめながらイナが続ける。


「あなたの言う借金とは、いったいなんなのでしょうか? お金でないとすれば、何かの物品を指しているのでしょうか?」

「ああ。まあ、物と言えば物だな。正確に言えば技術か」

「技術?」

「ああ――ちっ、ブタかよ」


 ライチが疑問に思い、一瞬表情を歪ませ手札を投げ捨ててからリリーがそれに返す。


「俺がこっちに来る前、最後に相手したアンドロイドが動作不良気味でな。肩とか腰とかにかなりガタが来てたんだよ。で、勝負で負けた俺に、今までのツケの分も含めた支払いとして『俺の体を完全に直せ』って要求してきたんだよ。しかも、オーストラリアにはそれが出来る奴がいないときた」

「じゃあ、それが出来る人を探すために?」

「ああ。あの野郎、こっちが『オーストラリアにそんなこと出来る奴いないから無理だ』って言っても『無理でも絶対にやれ。年貢の納め時だ』って梃子でも納得しなくてな。それで渋々、って奴だ。まったく、無茶ぶりにも程があるぜ」


 何事も無いように言ってのけたリリーだが、それを聞いた彼女以外の面々は一様に息をのんでいた。


「それだけのために海を渡ってきたって言うの?」

「かなり根性があるというか、義理堅い奴なんだな」

「……それだけの負けを重ねてる方にも原因があると思う……」

「それは言うな。痛いから言うな」


 クチメの言を聞いたリリーが気まずそうに顔を曇らせる。その一方でそれを聞いたジンジャーが閃いた様に呆けた表情のままで顔を上げた。


「アンドロイドを直せる奴、いるな」

「本当か!?」


 リリーがそれに食いつく。何も言わずにジンジャーが――そして彼女の言葉の意味を理解したその場の全員が、揃ってライチに目線を向ける。


「え? え?」


 いくつもの突き刺さるほどの視線を浴び、その時になってライチがようやく意味を理解する。


「――ああ、アンドロイドを直せるって、そう言う」


 カサブランカの外から爆発音が聞こえてきたのは、ライチがそう言いかけたその時だった。


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